しかし教会権力が腐敗するのはどの時代、どこの国もおなじようで、ここマチハバの国教会もまた、とても「聖なる」とはいえないものであった・・・
熾烈な権力闘争を勝ち抜く必要から教会は世俗とばかりか裏社会とさえ癒着した。
若く、美と才を兼備したファセナはその申し子、いや、怪物であった。
王国教会の大司教の娘であり、自らも若くして司教の地位にあるファセナが、地方の教区へ視察に出向いた。テンプルナイトと司祭を率いる一行は大貴族もかくや。
道行く人々はこうべをたれ、胸に手を当て、神の使いを見送った。
彼女は20代前半という若さでありながら、国教学院の大学士号を持ち、国家教会の重職にも就いているエリート中のエリートであった。
ファセナが教区の教会広場で説教を始めると、王都から来た才色兼備の高位司教を一目見ようと、大勢の民衆が押し寄せ、広場はまたたく間に人で埋まった。
高位の司教服から覗くファセナはまさに国教の聖典にでてくる女神そのもの。美しさは神々しさと融合し、大衆を魅了した。
厳かな空気の中、ファセナが流暢に説教を続けていると、聴衆の中から跳ね返りと思しき一人の若者が、教義の矛盾や疑念について不躾に口を挟んできた。それは永年、国教会が教会議の場において、都合のよい理屈で強引に圧殺してきた、聖書における根本的な矛盾事項であった。
ファセナは至って冷静に、教会議の決定事項を噛み砕いて彼に諭した。しかし、それはどこまで行っても特権階級の高邁な屁理屈に過ぎず、教育程度の低い大衆の心を納得させるに足りるものではなかった。
しかし群衆はいったんは若者の疑問に同調したものの、最終的にはファセナのカリスマになびいた。
結局理屈なぞより女神が発する言葉こそ群衆が欲するものだった。
それをファセナは熟知していた。大衆を操る術はすでに完成の域である。
ファセナは外面は慈悲深い聖職者であったが、内面は教会内の熾烈な政治闘争を勝ち抜いた女狐である。
協力を得るため、有力貴族や司祭らに体を売ったことも一度や二度ではない。
鍛えた性技は枕を共にした男たちを虜にし、寝るごとにファセナの手には利権が、体に淫を刻むごとに聖職者としての地位は高まった。
信者の娘をいいくるめて貴族の玩具として売り飛ばしたことさえある。
運営する複数の教会では福祉のほどこしの裏で高利貸しや人身売買を行い、資金源としていた。
ファセナの住む豪邸は貧しい庶民の血と涙で建っているのだ。
先ほどの跳ね返りの若者の運命はもう決まっている。テンプルナイトに命じて今晩にでも裏の運河に浮いてもらうのだ。
運河はファセナにとって死体捨て場であった。
涜神者を飲み込んでくれる便利な水たまり。ファセナは反抗者を捨てる際は運河にこだわった。
汚れた思考を表には出さない。美しい教義を美しい言葉で、美しい声でファセナは聴衆に届ける。
「神の言葉はときに試練をともないます。しかしそれは」
そのとき、群衆が騒ぎ出した。浮浪者がむりやり真ん中を通ってファセナに近づこうとしている。
群衆は浮浪者があまりにも臭うため、海が割れるようにファセナに向かう道ができた。
ファセナの身辺警護が異変に気づき、男に立ち去るよう命じる。フードを深く被ったその男は、神への冒涜すら辞さない、社会の最底辺階級の者にしか見えなかった。
その傲慢な偏見はファセナの運命を決定づけた。
笑みを絶やさずファセナは問うた。
「こたえなさい。そこのかた。あなたは教徒でありましょうか。」
浮浪者は無言で歩みを進める。
警護のテンプルナイト達は柄に手をかけ、ファセナを囲む。
ファセナは違和感を感じた。浮浪者。権威や権力に臆さず歩みを止めない。
ただの異常者であろうか。なにかいやな予感がした。
どこかで、聞いたことがある。貴族たちの噂話。
ファセナは違和感を一笑のもとに捨て去った。
「異教徒や異端には、厳しく当たりなさい」
教徒だろうが異端だろうが、異教徒だろうが。あんな小汚い浮浪者に近づかれるのはたまったものではない。
警護隊長が即座に抜剣し、浮浪者を力ずくで排除しようと踏み込む。
-神は守護つかわされるに3刻という言葉があるが、こたびは3分ほどか-
ファセナは浮浪者が排除されたのち、聴衆に語り掛ける原稿を脳内に用意した。
3分後
「ん、むぅ……っ、はーっ、んぐ……っ!」
ファセナは地面に膝をつき、浮浪者の太い陰茎をむさぼっていた。
まるで飢えた孤児が砂糖が塗られた棒を貪るかのように。
せわしなく頭を動かし、なりふり構わず、浮浪者の射精を促している。
頭が前後するたび口の端から唾液が飛び散る。
(頼みます、神様、頼むから早く射精して……!)
神などつゆほども信じていない彼女が真に神に祈った。
彼女が頼りにしていた腕利きのテンプルナイトたちは、全員叩きのめされ、人事不省となって地面に転がっている。教会流剣法の達人の隊長は意識があるようだが、体を動かせない。目線だけファセナを向けている。
(見るな、見るな!!)
乱入してきた浮浪者。社会最底辺。そんな存在に性的奉仕を強制されている。いわずもがな屈辱である。
このような屈辱は、いつぞやおぞましい貴族に肛門性交を強要され、喜ぶ演技で満足させた時以来である。
やがて浮浪者の腰が震え、熱く粘度の高い精液が、ファセナの口内へ容赦なく溢れかえった。
熱い!ファセナは驚いた。
支配を受け入れるしかない虚ろな目で、ファセナは浮浪者を見上げる。
無口な浮浪者は言葉を発しない。無表情である。目線だけで『一滴残さず飲み干せ』と命じた。
命が惜しいファセナは、溢れる精液をわざとゴクリと喉を鳴らした。飲み込むのに苦労した。
粘度をもつ熱い液体が食道を通った。
さらにできることはないか。ファセナはさらに浮浪者の陰茎を這いつくばい、舌で綺麗に舐め尽くした。
これは純粋に、自らの命を守るための行動だった。
性技は実践で学んでいる。かつてファセナが満足させられなかった男はいない。
しかし屈辱であった。屈辱のなかの屈辱だ。
この見返りは命かもしれないが、有力者に体を差し出すのとは違い、失うものばかりである。
しかし逆らえない。
いかに学問が優秀であろうが、官僚組織での立ち回りを熟知していようが、目の前にある絶対的なリアルの暴力の前には、そんなものは何の役にも立たないことを、彼女の肉体はあらためて理解させられていた。
しかし自分とて、いままで無駄に人生を歩んできたわけではない。かならずこの危地を脱して見せる。
跳ね返す。この男を。どんな形であれ!
「つ、次は……何をすればよいのか……?」
ファセナが震える声で尋ねると、浮浪者は無言のまま彼女の豊かな髪の毛を乱暴に掴み、その白い頬にキツい一発をお見舞いした。バチン、と激しい衝撃が走り、ファセナの視界が歪む。
自分がこの浮浪者に支配されていることを改めて認識した。
いつしか自分が優位に立とう、主導権を握ろうなどと考えていたが、いまハッキリとファセナは理解した。
この男は自分の生殺与奪の権を握っている。
今の自分がいつでも壊せる安い性玩具なのだと深く理解した。
彼女の脳は理解に達し、恐怖で失禁した。
いやらしくうわずる声を出す。
「つ、次は……何を、いたしますか……っ」
彼女は頬を腫らし、涙声で従順に尋ね直した。純粋な恐怖からの涙である。
こうなってはさしものファセナも単なる無力な女だった。
浮浪者はあくまで無表情である。淡々とファセナの肉体を犯し始めた。
女を巨根で無慈悲にねじ伏せる。ファセナは行為に慣れていたはずが、処女のように抱かれた。
すべてが違うのだ。レベルが違う。今までの男は所詮「人間」であった。強さも弱さも清さも汚さも併せ持つ「人間」だった。
しかしこの浮浪者は違うのだ。ファセナは体の震えをとめることができなかった。
震えは肌を通じて浮浪者に伝わったのだろうか。浮浪者の肉棒はさらに怒張する。
無造作なピストン作業に飽きると、今度はファセナの口を力任せに犯した。かと思えば、強引に顔を引き寄せ、熱く熱い、舌を深く絡めた濃厚なキスを幾度も強要した。聖なる司祭の唇から、だらしなく唾液が交わされ、吐き出されていく。
さながら頑是ない子供が人形を乱暴に扱うがごとく。
人形は抗うことができない。翻弄されるファセナは幾度も絶頂する。
混濁する意識の中ファセナはあくまで正気を保つべく自身の精神に鞭をうった。
しかし群衆から率直な感想が聞こえてきた。
ー娼婦じゃん、あれ-
ファセナが初めて嗚咽した。
今まで泣きはしたが嗚咽は耐えていた。それがファセナの最後の誇りだった。
嗚咽を聞かせないこと、それが薄皮一枚のプライドだった。
薄皮は破れる。嗚咽を止められなかった。
違う、違う、違う!!違う!!
違う、違う、違う!!違う!!
しかし何も違わなかった。
ベッドの中でささやいた愛媚の言葉
はしゃぐふりをした交合
いかな相手であろうと歓ばせてきた。
一瞬ですべての記憶が忌まわしいものとなった。
男を操るのに女を利用してきた。
まさに売女だった。
ファセナの精魂が完全に尽きかけ、身体がぐったりと折れ曲がったあたりで、浮浪者は周囲の野次馬から一人を指名し、例の数珠状のビーズを渡した。
その意図を察したファセナは、見苦しく這って逃げようとしたが、浮浪者の強靭な腕に易々と捕まり、臀部を高く突き出された状態で完全に固定された。
ファセナはかつていろいろな性の遊びをしてきたが、肛門性交だけは心に傷をおっていた。
あれだけは、あれだけは二度と、二度と!
指名された野次馬は信者だった。浮浪者に促され、恐る恐るファセナの肛門へと数珠を入れ始める。敬愛する司教の菊を広げ、目を背け「神よ」とずっとつぶやいていた。
「いや、ああああああっ!」
思い出すあの嫌悪感。違和感と激痛そして認めたくない悦楽。ファセナは絶叫した。だが、その悲鳴はすぐさま浮浪者の分厚い唇によって塞がれ、同時に乳房を乱暴にもみしだかれた。舌を吸われ、嘗め回され、唾液を吸いつくされる。
悔しいことにそこには官能があった。
ビーズが彼女の最奥まで完全に埋まりきった。浮浪者はファセナから口を外し、野次馬に首を振って引き抜くよう顎で命じると再びファセナの口を激しく犯した。ファセナは舌を絡められ、声を発することができない。
(神様……!)
彼女は今、生まれて初めて敬虔な信徒になったのかもしれない。
彼女の祈りは届かなかった。
次の瞬間、本人から迸った絶叫に似た激しい矯声は神への恨み言か喜びの祝詞か。
天につんざく声を群衆は確かに聞いた。
信者の手によって引き抜かれたビーズは、彼女の括約筋と粘膜を猛烈に摩擦し、脳髄を焼き切るような複雑な苦痛と、悍ましい快感を同時に与えた。あまりの衝撃にファセナの身体は激しく弓なりに反り、大量の潮を噴き出すと同時に、括約筋の制御を失い、少しだが脱糞もしてしまった。
広場に集まっていた野次馬の信者たちは、自分たちが崇拝していた聖なる司祭のこの上なくみじめな姿をまのあたりにしていた。
誰かが言った。「娼婦だ。」「売女とかわらないな。」
ファセナは、その軽蔑と好奇の視線を肌と心で受けた。
今の地位を築くためになんでもやったファセナだったが、今その精神の力は失われ、美しい瞳からは光が消えた。
警邏の兵が駆けつけたときは小雨が降っていた。
警邏の兵は群衆を何人か乱暴に捕まえ、浮浪者の行方を問いただしたが、誰一人知らなかった。
雨に打たれ、体をよごした体液が流れていくのをファセナは無表情にみていた。
たびたび発生するなぞの浮浪者による凌辱劇。
マチハバの中央貴族たちもようやくその存在を認めざるを得なくなった。
なにせ国教会新進気鋭の女司教が白昼堂々被害にあったのだ。
ただの腕っぷしの強い個人の犯罪者なのか、隣国オールスが絡む工作員なのか。謎が謎を読んだ。