『The Judas Hound -贖罪の牙-』 作:LCL Stuio R
[記録日時:1月9日 20:00 / 対象:Puppys全個体]
タイガーによる1週間の過酷な突貫トレーニングを乗り越え、ダイニングで遅めの夕食をとる6人の顔には、微かな達成感が漂っていた。
「……最初は死ぬかと思ったけど、案外なんとかなるもんね。」
{つばさ}が特製のプロテインドリンクを飲みながら笑う。{こはく}も
「ご飯が美味しいから、頑張れます。」
と無邪気に頷いた。 タイガーの指導は地獄だったが、理不尽な暴力ではなかった。お互いの弱点も知り、奇妙な絆が芽生え始めている。このまま体を鍛え、皆で力を合わせれば、1年間の労働(試合)も乗り越えられるかもしれない。誰もがそう思い始めていた。
重厚な扉が開き、仕立ての良いスーツを着たクーガーが、2人のPRIDEを従えて静かに入ってくるまでは。
「こんばんは、皆さん。お食事中失礼いたします」
クーガーは胸に手を当て、紳士的な、しかし一切の感情を感じさせない底冷えのする声で挨拶をした。
「1週間の練習カリキュラム、大変ご苦労様でした。タイガーさんからも良い報告を受けています。皆さんが見違えるような『素晴らしい商品』に仕上がりつつあると…。」
その丁寧な言葉遣いが、かえって少女たちの背筋を凍らせる。
「さて、本日は皆さんに素晴らしいお知らせがあります。明日1月10日、当施設が誇るリング『THE PIT(ザ・ピット)』のレギュラー興行『IGNITE(イグナイト)』にて、皆さんのデビュー戦を行うことが決定いたしました。」
「……えっ?」
{るり}が思わず声を漏らす。たまらず{れいな}が身を乗り出した。
「対戦カードは……? どんな人達と戦うんですか?」
クーガーはサングラスの奥の目を細め、事務的に答えた。
「当日は6人全員で、青コーナーに入場していただきます。誰が試合に出るのか……それは当日、リング上で発表されます。通常興行におけるカードは、すべて直前に明かされるルールなのです。」
「誰と戦うって言うんですか……まさか、私達の中で戦えってことですか!?」
{つばさ}が鋭く睨みつける。彼女の脳裏には、借金を減らすために仲間同士で潰し合いをさせられる最悪の想像がよぎっていた。
クーガーは薄く笑みを浮かべ、静かに首を振った。
「さあ、どうでしょうね。別室で同じように訓練を受けたチームがいるのかもしれませんし、あるいは……。いずれにせよ、わざわざクルーズ船で島に渡ってこられる素敵なお客様方は、何よりも『サプライズ』がお好きですから。」
それ以上は何も語らず、クーガーは一礼して背を向けた。
「残りの時間、決して怪我のないよう精進してください。失礼いたします。」
静かに扉が閉まる。 後に残された6人は、顔を見合わせた。タイガーに教わった基礎体力と受け身、あとはレスラーとして戦う為の基本技を幾つか。同じような境遇の女の子が相手なら戦える。もし仲間同士で戦わされるなら、手加減をしてやり過ごせるかもしれない。
少女たちは必死にそう自分に言い聞かせ、身を寄せ合っていた。待ち受ける絶望的な「サプライズ」の正体など、この時の彼女たちには知る由もなかった。