『The Judas Hound -贖罪の牙-』 作:LCL Stuio R
[記録日時:1月10日 18:30 / 対象:Puppys全個体]
デビュー戦当日。 少女たちは、寮から直結する渡り廊下を歩いていた。雨が降っても濡れる事なく、巨大な闘技場「THE PIT」の裏側へと通じる無機質なコンクリートの道。それは彼女たちが、大切な「商品」であることを意味していた。
この1週間、道場の窓越しに見て来た、無機質で巨大なドーム状の建物。入るのは初めてだ。パンサー、タイガーに連れられて、奥の控室(楽屋)へと足を踏み入れると、そこには既にメイク道具を広げたチーターが待ち構えていた。
「さぁさぁ、時間がないわよ! アナタたちの最高の晴れ舞台なんだから、世界一可愛くしてあげるわ!」
チーターの魔法のような手捌きで、少女たちの顔に「汗で落ちない、しかし表情の美しさを際立たせる」プロのメイクが施されていく。
同時に支給されたのは、初めて袖を通す「リングコスチューム」だった。
露出過多な水着ではなく、あくまでプロレスや格闘技を想定した機能的なスポーツウェア。しかし、身体のラインは残酷なほど鮮明に浮き彫りになる。
{るり}と{こはく}には、ボディラインを包み込むワンピースタイプ。{るり}の気品ある佇まいにフィットする一方で、{こはく}の隠しきれない発育の良さが、生地の張りに如実に表れていた。
{れいな}、{つばさ}、{かすみ}、{ひなた}の4人には、引き締まった腹部が露出するセパレートタイプ。
それぞれのパーソナルカラーがあしらわれ、統一感のある「チーム」としての見栄えが完璧に計算されていた。
「……うん、みんなすっごく綺麗よ」
全員の仕上がりを確認したチーターが、満足そうに頷く。そして、ふと寂しそうな顔をして、最前列にいた{れいな}と{ひなた}の肩を強く抱きしめた。
「ちーちゃん……?」
「ごめんね。興行のルールで、アタシ達は楽屋に戻らなきゃいけないの。ここからは、本当にアナタたち6人だけよ。……絶対に、怪我しないでね」
別れを惜しむように何度も手を振りながら、チーター達は楽屋に戻っていった。
取り残された6人は、無言のまま誘導スタッフ(PRIDE)に促され、入場ゲートの裏側へと移動した。 分厚いカーテンの向こう側から、地響きのような重低音と、無数の男たちの歓声、熱気、そして酒と煙草の匂いが微かに漏れ伝わってくる。 (……この向こうに、どれだけの観客が……?) {つばさ}が青ざめた顔でゴクリと唾を飲み込む。{かすみ}は必死に拳を握り込んで虚勢を張っていた。
「……大丈夫。相手がどんな人たちでも、私たちならやれる」
震える声で、{れいな}が皆に向けて言った。
「絶対に、6人揃って帰ろうね」
{ひなた}が力強く頷き、{るり}と{こはく}が互いの手をきつく握りしめる。 自分たちがこれから放り込まれるのが、法律や道徳など通用しない、飢えた獣たちの檻であることなど知る由もなく。 無慈悲な入場を告げるブザー音が、薄暗いゲート裏に鳴り響いた。