『The Judas Hound -贖罪の牙-』 作:LCL Stuio R
[記録日時:1月10日 19:45 / 対象:Puppys全個体]
ゲートをくぐって会場を出る。やっとの思いで楽屋に戻るとタイガー、パンサー、チーターの3人が待っていた。タイガーは土下座で頭を地面に擦り付けており、パンサーもチーターに支えられながら、何とか地べたに座り込んでいる。
「すまなかった…っ、私にもっと力があれば…!」
「やめて下さい、タイガー先生。」
{ひなた}がタイガーを庇う。顔は見えないが、声でタイガーが泣いている事ぐらいはわかる。
「そうです先生。もし先生の指導を受けてなかったら私達、今頃もっと酷い目に遭ってるはずです。」
{かすみ}も同意する。するとダメージから回復した{こはく}が口を開く。
「…先生。…先生はこのルールを、その…知っていたんですか?」
「正直、言い訳に聞こえるから、あまり話したくないんだけど…」
そう前置きした上で、タイガー達は状況を説明した。各々が業界でも有名なプロで、特にタイガーとチーターはメディアにも露出のある人間であること。この仕事には先月契約し、タイガー以外はこのアリーナにすら入った事も無かったこと。他のスタッフと3人は住居スペースも離れており、知っている事は少女達と大差無いということ。
「私はただ、お金に困っている子達にプロレスを教えてやってくれ、と依頼されただけなんだ…本当にすまない…。」
すると、他メンバー達に介抱されていた{るり}が、ゆっくりとタイガーの前に正座した。
「先生。みんな、先生の指導に感謝してるんです。…私も一生懸命やって、敗けちゃいましたけど、…こうして無事に帰ってきました。だからもう頭を下げないで下さい。」
タイガーが見上げると、ブーツとエルボーパッド等以外は一糸纏わぬ姿で、膝を合わせて{るり}が、優しい笑顔で座っていた。
「うぅ゛っ、…ごめんっ、ごめ゛んっっ!!…」
「あの…先生、苦しいです…」
反射的に{るり}を抱きしめたタイガー。泣くのを我慢していた{れいな}と{つばさ}、{ひなた}が続く。
「あんた達に確認しときたい。」
嗚咽をやりすごし、息を整えたタイガーは、少女達に向き直って言葉を紡ぐ。
「私はここに、みんなを1人前のプロレスラーに育てる為に来た。それは、みんなが納得してこのリングに青春を捧げる前提だった。しかし、今回の試合を通じてアイツらが君達にプロレスの域を超えた、非道な戦いを仕掛けてくることが分かった。私がこの業界で顔が割れてる以上、おいそれと君達を救出には行けない事も添えておく。」
「それでも、この先も戦う覚悟のある奴だけ残ってくれ。それ以外は…」
そこまで言いかけたところで、{つばさ}が割って入った。
「先生。私達もう覚悟決めてますよ。こないだみんなで話したんです。みんな事情は違うけど、この機会逃したら人生立て直せない。逃げ帰ったって、帰る家なんて無いです。」
「他の子達も、意志は同じかい?」
6人は思い思いに頷く。凄惨な戦いに直面した直後だったが、少女達の目は闘志を秘めて静かに燃えているようだった。
「わかった。但し、ここからはもう引き返せないし、私も通常通り…いや、今まで以上に厳しく、君達を責任持って鍛えていくから、そのつもりで。」
そう告げるとタイガーは楽屋を後にした。
寮に戻って、試合に出場した3人はそれぞれケアを受けた。身体もそうだが、心のダメージも大きい。そしてそれは、出場しなかった3人にも重くのしかかる。
「うぅ…私、夢に出そうです…。」
そう漏らしたのは{こはく}。彼女は結果こそ大逆転勝利だったが、秘部という秘部を大観衆に晒されてしまった。思い出しただけで意識が遠のく。{つばさ}がそんな{こはく}を大丈夫、大丈夫と優しく頭を撫で、抱きしめる。
「次戦は水曜日だから、それまでにしっかり回復しましょ。シャワーが済んだらご飯にするわね。」
「やったー、私もうお腹ペコペコなんです。」
重い沈黙を破ったのは、{るり}の屈託のない笑顔だった。{るり}の様子を心配していた{れいな}は、安心するやら呆れるやらで、思わずプッと吹き出した。すると、一同が堰を切ったように笑う。{るり}も恥ずかしそうに笑った。
次の戦いが迫る中ではあるが、悲観して過ごさなきゃいけないわけじゃない。辛い事はみんなで分け合って、嬉しい事は一緒に喜んで。そうやって行けば、どんな困難も乗り越えられる。今だけは、そんな気がした。