『The Judas Hound -贖罪の牙-』 作:LCL Stuio R
[記録日時:1月6日 18:00 / 対象:Puppys全個体]
本格的なトレーニング初日。タイガーの指導は、文字通り「地獄」だった。 基礎体力の向上と、徹底的な「受け身」の反復。華やかな技など一切教えられず、ただひたすらにマットへ体を打ち付ける作業。
ケガをしない為の練習だが、慣れない身体にはそれ自体がダメージになる。夕方になる頃には、{かすみ}と{こはく}以外は立っているのもやっとの状態だった。ロッカールームに戻るなり、{るり}が糸の切れた人形のようにベンチへ倒れ込む。
「もう……無理、です……。全身が、バラバラに……」
「……初日でこれとか、マジで殺す気……?」
体力に自信のあった{つばさ}も、慣れない練習に壁に寄りかかり、荒い息を吐いている。やはり、相手とのコンタクトがない陸上競技とでは勝手が違うのだろう。その点今回は{かすみ}が得意げにしている。
その時だった。 ロッカーの隅でうなだれつつも、普段着に着替えようとしていた{ひなた}が、突如「ひっ……!!」と短い悲鳴を上げ、ベンチの上に飛び乗った。
「ど、どうしたの!?」
昨日のCLAWS達の事もあったので{かすみ}が身構えると、{ひなた}はガタガタと震えながら、床の隅を指差した。
「ゴ、ゴ、ゴキ……っ!!」
そこには、黒光りする一匹の大きな虫がカサカサと這い回っていた。借金の重圧や理不尽な環境には歯を食いしばって耐えていた芯の強い{ひなた}が、半泣きになって{れいな}の背中に隠れている。さっきまで「もう、動けない…」となっていた彼女の姿が、まるで嘘のようである。
「すいません誰か、やっつけられませんか?…私、本当にダメで…」
その惨状を見て、{るり}が不思議そうに首を傾けた。
「あら……? あんな所に、カブトムシがいますわ。でも、ツノがありませんね。…メスかしら?」
どうやら…本気で見たことがないらしい。その完全な「お嬢様」っぷりに、緊迫していた空気が一瞬だけ抜ける。
「……るり、あれはカブトムシじゃない。見ちゃダメ」
{つばさ}は{れいな}からのアイコンタクトを受け取ると、{るり}の両眼を後ろからそっと覆った。{れいな}は深い溜息をつくと、近くにあったスリッパを手に取り、一切の躊躇なく振り下ろした。
「パァンッ!! 」
見事な一撃。動かなくなったそれを、持っていたティッシュで手際よく回収し、ゴミ箱へ放り込む。
「……こちとら飲食バイトの経験もあるんだよ。舐めんなっての。」
頼もしすぎる最年長の背中に、{こはく}と{かすみ}が思わず拍手を送る。絶望の底に落とされた6人の間に、ほんの少しだけ「普通の女の子たち」としての連帯感が生まれた瞬間だった。