彼女らは隊列を作り、魔窟を奥へと進んでいた……。
明かりの無い岩肌の回廊。
時折照らされる垂れた鍾乳石から『ヒタッ、ヒタッ』と雫の音が鳴る……。
「キャァッ!」
暗がりに女の悲鳴が響いた。
ランタンを持って先頭を行く、栗色の髪の少年が歩みを止めた……。
彼は振り向いて後ろを照らす。
白銀の鎧の乙女は、声を張り上げた。
「あなた!今、私のお尻を触りましたね!」
その目線の先では壮年の男が、顔にしわを作って両手を上げていた。
「おいおい、参ったねぇ……俺は何もしてないぜ……」
「あなたがランタンを二本ずつ使おうって言ったのは、このためなのですか⁉」
乙女は少年の持つ灯りを指差す。
「いやいや、四人のランタンを全部点けて、いっぺんに燃料が無くなっちまったら、そこでゲームオーバーだろ……」
肩をすくめる男。
黒衣を纏った少女が『ボソッ』と小声で言った。
「私は力の温存のため、明かりの魔法は使わない……」
皆の視線が、壮年の男に集まる……。
「人を見た目で判断しちゃいけねえなぁ……俺はこう見えても……紳士だぜ……」
彼は再び、肩をすくめた……。
男は鎧の乙女に言った。
「じゃあ、俺が姉ちゃんの前を歩こうか?」
「駄目!」
彼女は即答し、少年の背に身を近づける。
「じゃあ、黒い服の嬢ちゃんと変わろうか?」
そう言って男は、黒衣の少女の方を向いた。
「黙れ、スケベ男……」
彼女から突き刺すような、冷ややかな声が放たれる。
そして
「私は魔法使い、前衛は無理……」
と、付け加えた。
最後尾で灯りを持つ、聖衣のうら若き女が言った。
「私と代わりましょうか?」
男は即答する。
「それは勘弁してくれ!」
「あらあら……」
彼女は頬に手を当て、両眉を垂らした。
鎧姿の乙女が言った。
「では、一番前をお行きなさい!」
男は両手を前に出して、しゃがれた声で答えた。
「いやいや!俺はまともな戦闘訓練を受けてないんだ!敵に遭遇したら真っ先にやられちまうぜ!」
胸当ての前で腕を組む乙女。
彼女は目を細めて、鼻息を『フッ』とひと吹きした。
隊列は前後を照らしながら、再び動き出した……。
「煉瓦の壁……ここに誰か住んでいたのですかね……?」
鎧の乙女が辺りを見渡しながら言った。
整えられたその回廊には、灯りのない照明器具が所々に掛けられていた。
女神官は静かに語る。
「皇女さま……この辺りは教会が整備した領域です……」
壮年の男が小声で言った。
「まあ整備したのは、俺みたいな、ケツを触るような奴らだがな……」
乙女は振り返って、男を睨みつける。
彼は横を向いて
「へへへ」
と下品な笑いを聞かせた。
「キャッ!」
今度は女神官が小さく声を上げた。
少年は素早く後ろを向いて、壮年の男を照らす。
女神官も腕を突き出して、最後尾から彼に明かりを向けた。
「いやいや、神官の姉ちゃんのは俺じゃないぜ!」
早口で弁明する男。
「神官の姉ちゃんのはって、私のは触ったの⁉」
乙女はそう言って、素早く振り返った。
目をそらす男。
「ちょっと待って下さい、私に触れたのは『ヌルッ』とした湿った感触でした……」
女神官は瞳を潤ませて、丈の短い衣服より覗かせる艶めかしい太腿をさすった。
『ヒタ、ヒタ、ヒタ……』と湿った音が静かに鳴っていた……。
「いてっ!」
足を滑らせた少年が、その場に尻もちを突く。
上を向いたランタンの明かりが、魔窟の天井を照らした。
「キャァァァッ!?」
見上げた乙女が悲鳴を上げる。
テカリを帯びた玉虫色の体が、気味の悪い色を浮かべ上にへばり付いていた……。
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