皇女たちが接近戦を繰り広げる中、魔法少女の呪文詠唱が完了した……。
「いくよ……」
黒衣の少女は杖の頭で、聖衣の女に迫る蜥蜴人間を指した。
少女の周りで浮遊する、発光体の一つが放たれる。
直線に飛ぶ輝く弾が、魔窟の壁に敷き詰められた茶色い煉瓦を照らす。
聖衣の女はその豊かな胸を下にして、両手を突き出して前へと飛んだ。
宙を舞う、うら若き女性の肢体。
彼女は地面で一回転すると、片膝を突いて振り返った。
蜥蜴人間は棒立ちのまま、湿った玉虫色の表皮を黒焦げにされていた。
香ばしい匂いを漂わせながら、大きな蜥蜴の丸焼きが『ドサッ』と倒れる。
「んくっ……」
喉を鳴らす聖衣の女……。
その時、お腹が『ぐぅ』と鳴った。
「あら……」
彼女は指先で口元を隠した……。
その一方。
栗色の髪の少年は、その碧眼をまぶたで明滅させていた……。
「はぁっ……はぁっ……」
紅潮する顔に上がる息。
彼は自分の剣を立て、『ヌルリ』としたものを柄の先へと垂らしていた……。
そんな事には構わぬように、向かい合う蜥蜴人間の鋭い刃が彼へと叩きつけられる。
目を細め少年は剣で受ける。
その根元から先を『ググググッ』と撫でる硬い刀身。
「くぅぅぅっ……」
我慢するような少年の声。
その曇った表情が、彼の限界を示していた……。
『パンパン』に張り詰めた所へ、再び強い衝撃音。
「はぁぁぁっ!」
少年が声を上げる。
反って跳ねる、長くて太い尾。
「くうっ、もう限界だ!!」
少年は躰をのけ反らせて、弾く剣先より飛沫を高らかに上げた。
辺りに漂う酸っぱい臭い……。
その時、少女の叫ぶ声がした。
「勇者さま!離れて!」
少年が少女の方へと顔を向ける。
彼女は杖の頭で、少年たちの方を指していた。
しかし少年は、剣の先を『ダラリ』と垂らし、立ち尽くしていた……。
「いけない!」
鎧の乙女は少年の方へと駆ける。
そして、彼の躰へと覆いかぶさるようにして飛んだ。
「ドサッ!」
地面で重なる躰。
乙女の顔が胸板に埋まる。
『ツン』とした臭いが、その鼻を通った。
――この匂い……。
彼女は手の平を強く握った……。
『くっ』と歯を噛む黒衣の少女。
『ピシャゥ!』という音と共に、二体目の調理が終わった。
「おいおい!丸焼けにしちまったら尻尾が回収できねえじゃねえか……」
壮年の男は、横たわる蜥蜴人間の尻尾を斬る手を止め、出来上がった丸焼きの方を眺めた。
「おっさん、退きな……」
黒衣の少女は、低い声を出した。
「馬鹿っ!魔物の一部を渡さないと、教会からの恩賞が出ねえんだよ!」
皮一枚で繋がった尻尾を、慌てた様子で引っ張る男。
「どうせ、スケベな事に使うんだろ……」
細まる少女の目。
彼女は問答無用で最後の弾をぶっ放した……。
円になって腰を下ろす五人。
「こんなもので空腹を満たさねばならないとは……」
目の前で硬そうな肉を口いっぱいに頬張る少年を眺め、鎧の乙女は呟いた。
荷物袋を覗く聖衣の女。
「物資が底を尽きかけていますね……」
彼女はそう言いながら、細い瓶を手に持って斜めに振った。
「どうしたものか……」
乙女は肩を落とす。
「あっ、安心してください。この近くに教会の拠点がありますよ!」
聖衣の女がそう言うと、壮年の男は長い尻尾を抱き締めて声を弾ませた。
「コイツを守った甲斐があったぜ!」
黒衣の少女が舌打ちを鳴らす。
その時、騒がしい足音が鳴り、複数の白い姿が皇女たちの周りを囲んだ……。
「何者!」
声を出す乙女。
その白い衣服の胸には、翼を広げる鳥の紋章が描かれていた……。
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