※この作品はR-18です。

厄災の魔窟 ―魔界の皇太子誕生―   作:裏の影

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白夜に生を受けた、エメラルドのような瞳をもつ少年。

その雄姿に惹かれる皇女は、彼の『秘めたる剣』を磨き上げる役割を期待されていた……。


皇女を狙う目

「皇女さま、ご指南お願いします!」

透き通った声が、今日も白壁に響く。

 

精悍な少年の顔立ち。

その純真さは、乙女の気持ちに華やぎを添えた。

 

彼は休むことなく鍛錬場へと現れ、師の技と体をその目に焼きつけていった……。

 

鍛錬が終わり、扉の前で辺りをうかがう少年。

 

『カチャッ……』

彼は部屋に入ると、すぐさま鍵をかけた。

 

 

【挿絵表示】

 

緩められた道着から漂う、汗の臭い。

 

『シュッ……』

隠された真剣が剥き出しにされる。

彼は喉を鳴らすと、禁忌とされるそれを掴んだ……。

 

質量を持つ刀身。

 

『シュッ、シュッ……』

少年は握る手を振り始める。

 

「くっ!」

そのしごきに耐える様に、彼は歯を食いしばった。

 

己を磨くことは、少年を高みへと導くのだ……。

 

「皇女さま……」

『シュシュシュ……』

増していくその速さ。

 

動から静へ――。

先の動きが『ピタリ』と止まる。

「くぅぅぅっ!」

 

勢いよく飛沫が散り、滴となって床に跡を残した。

 

彼の匂いが部屋に漂う。

 

師の目の届かない所で少年は毎日、剣を抜く危うい快感に取り憑かれていた……。

 

二枚の葉を濡らす露。

それは混ざり合うことなく、ただ時だけが過ぎていった……。

 

ある日、少年は師匠に言った。

「もうすぐ俺、剣が貰えるんだ!」

 

興奮して頬を赤らめる少年。

 

しかし乙女は、彼の秘めたる危うさを感じ取っていた。

 

「これで皇女さまを守れる……かな?」

はにかむ少年の横顔に

「十年早いぞ……」

と乙女は笑顔を作って答えた。

 

まだ未熟な若い剣先。

迫り来る旅立ちの日に、乙女の胸には不安が募っていった……。

 

その晩、皇女の私室。

 

背嚢へと荷物を詰める手。

突然の旅支度に、侍女たちは慌てふためいた。

「いけません! 皇女さまは貴き血筋の……キャッ!」

乙女は侍女を押し退け、己の躰を白銀の鎧で覆った。

 

そして壁に飾られた聖剣を腰に帯び、毅然と告げた。

「魔窟へと挑んだ帝国の騎士たちが帰って来ない今、微力ながらも力になりたいのです!」

 

しかしその内心では、焦りが渦巻いていた。

――今の彼では、使命の半ばで清らかな剣を穢してしまう……。

 

乙女は

「少し様子を見に行くだけ!」

と大声で放ち、数名の従者を引き連れて帝都を後にした。

 

魔窟の奥で剣を手に、少年を導く自分を瞼の裏へと描きながら……。

 

長い旅の果て、厄災の根源と恐れられるその入り口が、一行の前へと現れた。

 

帝国騎士団の精鋭が挑み、戻って来ることの無かった忌まわしき魔窟。

 

ランタンに明かりが灯され、カビの臭いが漂う中、苔むした壁を照らしながら一行は危地へと身を投じていった……。

 

「暑い……」

乙女は襟を緩め、胸元を扇ぐ。

開け放たれた肌より蒸された汗が立ち上り、薄暗い坑道に芳しさを漂わせた……。

 

道を奥へと進む乙女たち。

 

物陰で『ヒタヒタ』という湿った足音が、闇の奥へと消えていく……。

 

地に転がる、鎧に包まれた朽ちた骸。

爪痕が深く刻まれた宿営の跡……。

示される物の一つ一つが、無言でその惨状を語りかけてくる。

 

「酷い……」

乙女は顔をしかめ、口を手で覆った。

 

その瞬間、後ろから声が上がる。

「あれっ、一人いない!」

 

背筋が凍るような感覚。

乙女は慌てて振り返る。

艶やかな長い髪が香りを振りまきながら『サッ』となびいた。

 

彼女は震える従者が指す方へと、その視線を向ける。

 

ランタンの灯に照らされて、岩肌に映し出される大量の邪な影が、標的を囲む様に一気に交差した。

 

闇の中から無数の赤い瞳が、じっとりと獲物を見つめていたのである……。




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