※この作品はR-18です。

厄災の魔窟 ―魔界の皇太子誕生―   作:裏の影

21 / 94
縛る縄を外し、一人で出ていった壮年の男。

彼は監禁部屋に、一本の短剣を残していった……。


迫りくる白いもの

地面でその刃を光らせる短剣……。

 

後ろ手に縛られる、黒衣の少女が静かに言った。

「それで縄を何とかしないと……」

 

「キミは魔法使いだろ……魔法で何とかならないの?」

同じく縄で縛られた栗色の髪の少年が、その碧い瞳を少女へと向けた。

 

彼女は頬を少し赤くして、顔を横に逸らす。

 

そして、歯切れの悪い様子で答えた。

「杖が無いと、魔法は使えない……」

 

「そうかぁ……」

少年はそう言うと縛られた手を後ろに、短剣の前へと顔を突き出した。

 

「うわっ、臭い!」

表情を歪ませる少年。

その剥き出しの刀身からは、独特の生臭さが漂っていた。

 

「うううっ……」

少年の碧い瞳が、暗い瑠璃色へと霞んでいく。

 

彼は舌を出すと、短剣の柄に吸い付いた……。

 

刃を口にして、すぼめられる少年の唇。

『じゅるる……』と音が鳴る。

 

「お願い……」

黒衣の少女は、手首を縛る縄を後ろに差し出した。

 

少年は頭をそっと降ろす。

 

そして刀身を口に含んだまま、頭を前後に動かし始めた……。

 

その頃。

神聖教会の施設の外……。

 

血を流して伏せた神官たちが、横たわるランタンにその姿を灯し出されていた……。

 

惨状の中、ひとり『ユラリ』と立つ姿。

 

それは逆立てられた獅子のたてがみのような髪をたくわえ、大柄な体に、血一つ浴びていない長い剣を携えていた。

 

影はその白い顔を微動させずに声を出した……。

 

「果実を出せ……」

 

神官の一人が呻くように返す。

「そんな物は……知らない……」

 

「ならば、用はない……」

異形の影は静かにそう言うと、剣をゆっくり振りかぶった。

 

どこからか鳴る鋭い旋律。

 

その音は次第に、大きさを増していった……。

 

場所は戻って、監禁部屋。

 

少年の栗色の髪が、上下に勢い良く跳ねている。

 

硬い棒の先が時折彼の喉を突き、その度に『うえっ』と声を鳴らした。

 

その時、黒衣の少女の体が微かに身震いをした。

「この感覚……何か来る……!」

 

少年はその言葉に首の動きを止める。

 

「止めないで……早くして!」

少女は声を荒げる。

 

少年は再び、頭の振りを速くした。

 

「もっと早くっ!早くして!」

黒衣の少女は声を上げる。

 

迫りくる白いもの……。

 

少年は一心不乱に首を前後へと振った。

 

線が張り詰める。

 

「あっ……いくっ!」

出される声。

 

限界まで張ったそれが弾けると、解放されて前へと跳ね飛んだ。

 

「ウブッ!」

少年の口から、てかりを帯びた柄が『ダラリ』とこぼれる。

 

「えほっ、えほっ……」

彼は咳込んで、光る筋を口より伝わせていた……。

 

一方、処置室のうら若き聖衣の女。

 

彼女は獣から噴き出す白濁を、綿で優しく拭っていた。

「拭いても拭いても、溢れるように白いものが滲んで来る……」

 

その時、悶絶の声が遠くで鳴った。

 

「何!?今の!」

辺りを見回す処置室の同僚たち。

 

顔を上げていた聖衣の女は、視線を小さな体へと戻す。

 

「えっ!」

彼女は声を出した。

 

膿を噴き出していたその体が、いつの間にか綺麗になっていた……。

 

白銀の鎧の乙女は、別室で椅子に腰を下ろしていた。

 

机に置かれた、紅茶の水面が波打ちを始めた。

 

――何!?

乙女は素早く席を立ち、部屋の扉を勢いよく開く。

 

――居ない!?

 

そこにいたはずの、警護の姿が無かった。

 

彼女はそのまま部屋を出ると、廊下に並ぶ扉を片っ端から開けていった。

 

――あった!

 

乙女は立てかけられた聖剣を手に掴む。

すると、通路の先から悲鳴が聞こえた。

 

彼女は剣を腰に帯びると、声の方向へと走り出した……。




よろしければ評価をお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。