皇女は外の異変に気付き、自分の剣を差して廊下を外へと走った……。
煉瓦の狭い回廊。
白銀の鎧を鳴らしながら乙女がそこを駆け抜ける。
同じ頃、壮年の男は別の通路を、身を潜ませながら進んでいた……。
一つ一つ開かれる扉。
人気の無い部屋を眺めて、男は呟いた。
「何だこりゃ?人っ子一人いねえじゃねえか……」
そして呻くよう声に漏らした。
「あの女っ……どこにいやがる!」
暫くして壮年の男は、ある扉の前で立ち止まった。
扉に掛けられている看板。
彼はそれを読み上げる……。
「祝福中……?」
男が扉を開けると、その中には幾重にも張られた覆いが現れた。
「ぁぁぁ……ぁぁぁ……」
その奥からは、誰かの声が微かに響いていた……。
壮年の男は唇をひと舐めすると、その幕を割って中へと侵入した。
『じゅるっ、じゅるっ……』
うねる玉虫色の突具に絡む、蜜の音……。
奥へと達した男の目に、寝台の上で花を開く、あの熟れた年頃の女が映った。
彼女は先のくびれた淫棒で、その陰花を淫らに咲き誇らせていた……。
男の気配を察した熟れた女。
彼女は顔面を一気に蒼白へと変える。
「ひいぃぃぃっ!」
挙げられる金切り声。
花弁より蜜棒が『にゅるん』と吐き出され、地面で『ウネウネ』と蠢きを見せた……。
「見ないで!これは、違っ……!」
女は顔一面を真っ赤に染めて、声を大きく震わせた。
「なるほど……こいつはお仕置きし甲斐があるな……」
男は渋い声でそう言うと、肩に掛けた縄を手にした……。
その頃。
鎧の乙女は煉瓦の回廊を抜け、大きな空洞へと達していた。
「敵襲⁉」
乙女の目に、神官たちの倒れる姿が映る。
そして、その近く……。
大きな身体を持つ異形の姿が、長い剣を携えてそびえ立っていた……。
乙女は腰に帯びた剣を素早く抜き、腹の底から怒気交じりの声を絞り出した。
「あなたが……殺ったの⁉」
異形の姿は目を細くして乙女に言った。
「果実をよこせ……」
握る剣に力が込もる。
その時。
少女の叫ぶ声が鳴り響いた。
「気を付けて!それは異世界から来た『上位悪魔(グレーターデーモン)』よ!」
乙女はそう呼ばれた姿を凝視する。
あり得ないほどに逆立てられた髪と、顔に浮き上がる模様。
そして、演劇の衣装のように派手な黒い服……。
その姿の周りを彼女は、足を横に交差させながら『じりじり』と運ばせた。
その時、悪魔の顔が教会拠点の入口へと向けられた。
――!?
振り返る乙女。
そこには栗色の髪の少年と黒衣の少女がいた。
「ほほう……その碧い目……」
呟く悪魔。
その隙を衝いて、乙女の剣が悪魔へと振りかぶられる。
「はぁっ!」
しかし次の瞬間、彼女の耳に鋭い旋律が聞こえた。
――⁉
乙女の無意識の領域が、その突進に歯止めをかける。
そして彼女は身を襲う何かを、不格好に剣で弾いた。
「くっ……!」
重心を崩す乙女。
悪魔の体は離れた所より、うな垂れるように剣を振り下ろしていた……。
――なに⁉今の?
「皇女さま!」
栗色の髪の少年は手に握る短剣を前にして、身を突き出した。
「今のあなたのレベルでは奴に太刀打ちできない!」
黒衣の少女は彼の背中へと叫ぶ。
「杖さえあれば……」
黒衣の少女はそう言いながら、地に転がる戦棍を拾い上げて前に突き出した。
「僧侶の装備で、どれだけやれるかしら……」
少女はそう呟くと、抑揚のない旋律を唱え始める。
すると彼女の体の周りに、小さな光が浮かんだ……。
しかし、体勢を整えた白銀の鎧の乙女の瞳には、少年の後ろを取った上位悪魔の姿が映っていた……。
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