※この作品はR-18です。

厄災の魔窟 ―魔界の皇太子誕生―   作:裏の影

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 鍛錬を通じて互いを昂め合う皇女と青年。

 その休息のひと時を破る様に、何かの気配が迫っていた……。


風の精霊魔法

下腹部を押さえる鎧の乙女……。

 

彼女は黒衣の少女に訊く。

 

「あなた……何をしたの?」

 

少女は答えた。

「勇者さまに、威力が倍になる魔法をかけたわ……」

 

栗色の髪の青年は、剣を引いて言った。

「俺は、自分の力で皇女さまに入れたいんだ……」

 

「だって、彼女の硬そうな鎧には、身軽になる魔法が込められているから……」

少女はそう口先で言うと、そのまま唇をつぐんだ……。

 

会話の間を割って剣が伸びる。

 

「うわっ」

青年は声を上げた。

 

「よそ見は禁物!」

乙女の剣が、青年をその交わりへと引き戻した。

 

青年はその動作の一つ一つを楽しむように、若い体を動かし出した……。

 

その側では、金髪の麗人が目線を素早く動かしていた。

 

エルフが視点を定める……。

 

岩上の隙間から数多の瞳が、射るような眼差しを光らせていた。

 

「魔狼(ワーグ)の群れ!」

金髪の麗人が立ち上がって叫ぶ。

 

『カラーン』

白銀の鎧の乙女と栗色の髪の青年は、練習用の剣を投げ捨て、互いに剣の方へと身を躍らせた。

 

うら若き女神官も手に持った記録板を袋へと仕舞い、腰裏の戦棍を握った。

 

「ここは奴らの縄張りだったか……」

黒衣の少女が呟く。

 

「ウウウウッ……」

唸り声を上げる大柄な狼たち……。

 

灰色の獣が暗闇にその輪郭を浮かべる。

 

「ああ、あれは動物扱いだから、倒した数に加えられないんだよなぁ……」

壮年の男はそう言いながら、二本の短刀を適当に投げた。

 

そして、蒼き小さな獣を抱きかかえると、暗い窪みへと身を潜めた……。

 

放物線を描きながら舞う湾曲した刃。

それは幸か不幸か、一匹に刺さる。

 

魔狼は『ドサッ』という音を上げて、地に打ち付けられた。

 

横たわる大きな狼の体……。

 

別の個体がそれに鼻先を向け

「アォォォォォォッ!」

と遠吠えを響かせた。

 

場を静けさが襲った後、見下ろす眼の数が片端から順に、横一列へと増えていった。

 

「あの馬鹿……」

黒衣の少女はそう呟くと、杖を前に出し抑揚のない言葉を紡ぎ始めた……。

 

次々と、狼の群れが地に足を着けていく。

 

鎧の乙女たちは後衛の魔法少女を守るようにして、魔狼へと斬りかかっていった……。

 

次々と仕上がる大狼たちの亡骸。

 

魔法で焼かれた骸からは、焦げた臭いが漂っていた。

 

「はあっ、はあっ」

栗色の髪の青年は息を上げる。

 

鎧の乙女は額から汗を垂らして言った。

「流石に、きりが無いですね……」

 

残された一匹の狼が口吻の鼻先を突き上げる。

 

「いけない!」

杖の頭を前に出す黒衣の少女。

 

しかし、その遠吠えは響かなかった……。

 

「見ろよ……狼の奴、声が出ねえみたいだぜ」

蒼い獣に語り掛ける壮年の男。

 

黒衣の少女に皆の視線が集まる。

彼女は首を横に振った……。

 

場に通る澄んだ声。

「キミの音を封じたよ……」

 

エルフが遠くから魔狼へと手をかざしていた。

 

「あれは……『精霊魔法』」

黒衣の少女が、構えた杖をゆっくりと降ろす。

 

エルフは最後の一匹へと近づくと、細身の剣で切り伏せた……。

 

戦棍を降ろす女神官。

 

「ミュウ、ミュウ」

その後ろで蒼い獣が鳴いていた。

 

「ん?どうしたの……」

 

彼女が振り返る。

すると、岩陰の側で壮年の男がうつ伏せに倒れていた……。

 

「まあ大変!」

女神官は彼の元へと駆け寄る。

 

「うん?」

男の近くに小瓶が落ちていた。

 

「これは……」

彼女はその透明な瓶を拾い上げ、目を細める……。

 

その時。

 

「どこへ逃げても無駄だよ……」

 

聞き覚えのある声が、出入り口の裂け目より上がった……。




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