彼はその剣を、褐色の情夫の為に抜いた……。
騎士を象徴するかのような、大きな剣。
その圧しかかる重量が、碧眼の青年の剣を震わせた……。
騎士は青年の未熟さを見透かすように言い放つ。
「お前の剣は、皇女の幻想しか知らない……」
「くうぅぅぅっ……」
青年は見せつけられた経験の差に、歯を食いしばるしかなかった……。
誇り同士を重ね合わせるその後ろ。
金髪の麗人は、引き締められる青年の背を見守っていた。
騎士は麗人へと言葉を投げる。
「為せぬもの同士……お似合いだな……」
「うるさい!」
声を荒げて大剣を弾く青年。
彼は碧眼を鋭くして、騎士の方へと向けた……。
白銀の鎧の乙女も、そのすぐ側で剣を振るっていた。
襲いかかる刃をかわす乙女。
「えいっ!」
彼女は素早く褐色の体を切り伏せる。
辺りへと左右に素早く動される目線。
――あいつは!?
その目が重厚な鎧で止まる……。
皇女は騎士へと声を浴びせた。
「あなた、正気なの⁉」
彼は口の端を上げた……。
そして
「そういえば仲間が、あなたの長風呂の事をよく話していたな……」
と彼女に放った。
顔を赤く燃え上がらせる乙女。
「あっ、あなた……その不敬、許されないわよ!」
彼女はそう返して、後ろから不意打ちを狙う敵の剣を受け止めた。
栗色の髪の青年へ、『ジリジリ』と迫る騎士の剣……。
「騎士は主を護る為に戦うもの……俺は彼の為に戦う」
騎士の躰に巻き付く褐色の肢体。
その長い髪から覗く瞳は、潤いを帯びていた……。
互いに異なるエルフを背に対峙する青年と騎士。
風が吹いた。
騎士の頬に赤い線が入る。
彼はそれを撫で、『ペロリ』と指先を舐めた。
「風の精霊魔法、そうか……」
手を前にかざしてエルフが言った。
「キミ、もう黙りなよ……」
「そう焦らずとも……あとでじっくり俺の剣で可愛がってやる……」
騎士はエルフに細めた目を向ける。
「私は、もう……」
真っ直ぐな目で、前にいる男を見るエルフ。
「そうか……わかった……」
騎士が決別の言葉を受けた……。
その時。
蒼き小さな獣が、女神官の足元で鳴き声を響かせ始めた。
「ミュウ!ミュウ!」
「どうしたの?」
戦棍を振るう女神官。
彼女は小さな獣の方へと顔を向けた。
黒衣の少女が大声で言った。
「この感覚……何か、大きな魔力が迫ってる!」
戦闘が行われている隅で倒れていた壮年の男。
彼は身を起こして目を擦る。
「ううん……よく寝た……」
そして天井に『ぽっかり』と開いた、大きな穴を見てしまった……。
「なんじゃありゃぁぁぁっ!」
そこから物凄い速さで落ちる謎の影。
『ズドーン』という音が鳴り、それは地面に土埃を上げた。
皆の視線が、そこに集まる。
落下の衝撃で陥没した地面。
その真ん中で、大きな黒い姿がゆっくりと身を起こした。
「祭りの場所は、ここか……」
それは低い声を聞かせる。
頭から突き出す二本の角。
隈取のような模様を浮かばせる真っ白な顔。
その手には、巨大な斧を引っ提げていた。
「気をつけて、上位悪魔よ!」
黒衣の少女が叫んだ。
悪魔は大斧を持ち上げる。
そしてその柄をトゲのある肩当てに乗せ、唇を横へと伸ばした。
上位悪魔が、声を高らかに張り上げた。
「俺は『王相ジーノン』!!」
壮年の男は何も見なかったかのように、静かに再びその身を伏せた……。
「さあ、侵略の始まりだ!」
巨体を揺らして大股で歩く悪魔。
「精霊魔法の術士はそろった……あとは……」
黒衣の少女はそう呟いて、白銀の鎧の方へと顔を向けた……。
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