その圧倒的な存在感が、場を震撼させていた……。
「ミ゙イィィィウ!」
低い鳴き声が響く。
蒼き小さな獣は瞳を縦に細めて、二本角の悪魔の前へと立ちはだかっていた。
悪魔は小さき姿へと言った。
「ルシェイル!」
「ミ゙イィィィウ!ミ゙イィィィウ!」
小さな咆哮を上げる、猫のような体。
しかしその音は、次第に鋭く、太くなっていった……。
「あの子の体が、大きくなっていく……」
鎧の乙女はその変容を目の当たりにしながら、気の抜けたような声を出した。
「ア゙オ゙ォォォッ!」
鳴り響く、畏怖を纏った咆哮。
いつの間にか乙女たちの前へと、立派な猛獣が背を見せていた……。
その時、褐色の淫魔が声を響かせる。
「このまま奴に八つ裂きにされるがいい!」
ルシェイルが変貌を遂げている間に、裏切りの騎士を連れたダークエルフが、出入り口へと身を移していた。
彼らは裂け目に身をいれると、内側から魔法の蔦で膜を張った。
「待ってくれぇぇぇ!」
取り残されるその仲間たち。
しかし、封じられた穴の向こうで、邪悪な笑いが遠ざかっていった……。
悪魔へと飛びかかる蒼き獣。
振りかぶられる大斧が空を切り、地面へと突き刺さる。
すると、柄の平たい部分が四本の太い弦を見せた……。
獣の顎門(あぎと)が、悪魔の脚に喰らいつく。
「ぐわぁぁぁっ!」
声を上げる悪魔。
「今よ!」
白銀の鎧の乙女は声を上げ、地を蹴る。
執拗な噛みつきに脚を捕らえられた二本角の悪魔は、苦悶の表情を浮かべながら親指を立てる。
そしてその指を、持ち上げた斧の柄へと叩きつけた。
『ブゥゥゥゥゥゥン!』
重く低い音が鳴る。
紙一重で避ける乙女。
その振動音は、裂け目の蔦へとしがみつく褐色の体を吹き飛ばした。
「うぐぅっ!」
血しぶきとともに上がる声。
黒衣の少女が、エルフに言った。
「お願い!あなたの力を貸して!」
麗人は静かに頷くと、その手を前へとかざした……。
振動攻撃の煽りを受けて、上位悪魔の足元で身を横たえる蒼き獣。
「ハッハッハ!ノってきたぜ!」
悪魔はそう叫ぶと、大斧の柄を親指で軽快に叩き始めた。
低い音が粒となって、乙女たちへと襲いかかる。
いち早く体勢を整えた栗色の髪の青年。
彼は左右へと身をかわしながら、剣でその振動波を撃ち落としていった。
「やるな!」
悪魔は長い唇の端を伸ばす。
そして叩きつける指に引っ張る動きを足し、『べッ』という尖った音を加えた。
音の隙間を埋められて、青年の体に攻撃が当たり始める。
「くっ……」
膝を突く青年。
「これでトドメだ!」
悪魔の親指が振り下ろされる……。
「うん?」
首をかしげる悪魔。
青年は閉じた目を開けた。
エルフは悪魔へと静かに言った。
「キミの音は封じたよ……」
「なっ!」
体を硬直させる悪魔。
その隙に鎧の乙女は、その図体に剣を叩きつけた。
『カキーン……』
しかし聖剣は不吉な音を立て、その半身が地面へと虚しく転がった……。
「そんな……」
声を吐く乙女。
青年は体を起こし、皇女の付けた傷を見据えて動く……。
そして言った。
「魔法使いさん、俺に威力が倍になる魔法を!」
「わかった!」
応じる黒衣の少女。
その時。
稲妻のように素早い影が現れた。
それは、青年を優に追い抜いていく。
「えっ!」
声を上げる青年。
影は乙女の前へと立つと、その広い背に流れる黒く長い髪を見せた。
「誰!?」
ひと拍打つ胸。
乙女はその後ろ姿をただ眺める……。
振り上げられる剣。
その逞しい刀身に、乙女の瞳は魅せられていた……。
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