皇女はそれに憤慨し、クーザーに模擬戦を挑んだ……。
黒衣の少女が持つ、身の丈より長い木の杖。
彼女は杖の頭に魔法の光を灯した。
広がる光が辺りを照らす。
揃いの木剣を持った二人の影が、『すうっ』と岩肌に伸びた。
白銀の鎧の乙女は対峙する長髪の男の剣を、じっと凝視していた……。
――この男の実力は、大方あの立派な剣によるもの……。
彼女がそう思った瞬間……。
その腹部に強い衝撃が走る。
乙女の腹へと突き刺さる足の裏。
「かはっ‼」
彼女は口からしぶきを飛ばした。
栗色の髪の青年は、師の痛々しい姿から顔を逸らした……。
上体を前に倒す乙女。
男の左手が頭上へと迫る。
――いけない、髪を掴まれる!
乙女は不格好に剣を振り回した。
空を斬る剣。
男はすでにその体を引いていた。
体勢を整えようとした乙女の真上を木の剣が襲う。
「くっ……」
彼女は思わず、それを手で受けようとした。
――稽古とはいえ、これは剣の勝負……。
咄嗟に思い直した彼女は剣を横一文字に掲げ、受ける姿勢を取った。
すると……。
――くっ、剣が動かない!
乙女の剣が宙に固定される。
彼女は目線を上げた。
すると長髪の男は、その刀身の真ん中を掴んでいた。
「ちょっと!これは剣の勝負ですよ!」
大声で訴える乙女。
すると男は鼻息を『フッ』と吹き、左手を開いて彼女へと見せた。
「そんな……」
声を出す鎧の乙女。
彼の手の平。
そこには横一文字の傷痕があった……。
「俺は、勝つためには何でもしてきた……」
乙女は、鼻の奥が『ツン』と熱くなるのを感じた……。
体を起こして剣を構えなおす乙女。
彼女は全意識を集中して彼を見ようとした。
再び注がれる男の眼光。
その胸は、『ドクンドクン』と音を響かせた……。
乙女は髪を振り乱し、洗練された剣技を存分に振るう。
無表情でそれを受ける長髪の男……。
激しい動きに、二人は汗を飛び散らせる。
男へと繰り出される師の烈しき技。
栗色の髪の青年はその光景に、目を曇らせていた……。
徐々に後ろへと退く長髪の男。
乙女の動きが速さを増す。
――彼のやり方は間違っていない……でも!
彼女の扱う剣が、男の首筋で『ピタリ』と止まった。
「はっ、はっ……」
息を荒くする乙女。
「ふっ……」
男は鼻息を吹くと、剣を軽く放り投げて後ろを向いた。
木の跳ねる音が『カラーン』と鳴り響く。
「ほっほっほ、あいつの悪い癖よのう……」
大司祭が呟いた。
長髪の男は背中越しに細い煙を昇らせ、『スーッ』と息を吸って、顔を上げた。
「なんですか⁉あなたのその態度は!」
乙女は男へと声を浴びせ、その目で不遜な態度を取る背中を見据えた。
彼は背を向けたまま声を放った……。
「俺の負けだ、勝負はお前にやる……」
男はそう言いながら、白い筒を挟む指を上げた。
「何を言っているの!もっとかかって来なさい!」
落ちた剣を拾い上げ、男の背へと吠える乙女。
彼女の胸は、止まぬ鼓動を荒くしていた……。
腰に差した剣の柄を撫で、鎧の乙女をあしらう長髪の男。
黒衣の少女は男が持つその剣を、ずっと見続けていた……。
壮年の男はいそいそと、倒れた褐色の体を物色している。
そんな中、大司祭が声を響かせた。
「我が御子よ!」
豊かな衣装を揺らし、栗色の髪の青年へと迫り来るその巨体。
青年は眉間を寄せていった……。
エルフたちの因縁。
襲いかかる堕天たち。
魔窟の層が深くなる程に、その爪牙が剥き出しにされていく。
皇女と青年は、それに呑み込まれていくのだろうか……。
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