※この作品はR-18です。

厄災の魔窟 ―魔界の皇太子誕生―   作:裏の影

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 神聖教会の大勢力に保護された皇女一行。

 勇者はその庇護の元、魔窟での使命を果たす事となった……。


交わされることのない刃

暗闇を探る小さな光。

 

勇者のかざすランタンが、魔窟の闇を照らしていく。

 

陰を晴らす背後には、大司祭を乗せた大きな駕籠が付き従っていた。

 

神官たちに担がれる、豪華な装飾で覆われた籠。

その帳からは薄っすらと、外を窺うように眼球が浮かんでいた……。

 

『カチャッ、カチャッ』と軽快に鳴る金属の音。

白銀の鎧の乙女は、栗色の髪の青年に身を近づけて歩く。

 

そしてその周りを、揃えられたあごひげの男がまとわりついていた……。

 

「なあ、もう一度俺と勝負してくれないか……」

きめ細かく施された装飾の鎧を見せながら、男は乙女を執拗に誘う。

 

乙女は言った。

「だ、か、らっ、何度もお断りしているではありませんか……」

 

「俺はあれから有名な剣士に教えを請うて、自分の剣を磨き上げて来たんだ……」

食い下がる男。

 

彼は腰に差した剣の柄を握ると、その身を鞘から少し抜き

「今度こそ、あなたを満足させる自信がある!」

と彼女へと見せつけた。

 

「まあっ!」

慌てて目を逸らす乙女。

 

そして

「剣を不用意に抜くとは……作法も何もないですね」

と眉を歪ませ、青年へと身を寄せた……。

 

担ぎ手の足取りに合わせて身を揺らす大きな籠。

 

その中より声が漏れる。

「邪魔な奴よのう……」

 

駕籠を守る長髪の男は、前への睨みを強めた……。

 

集団の後ろの方を歩く壮年の男。

 

その背嚢からは、数本の剣の柄が飛び出している。

 

こちらの方でも『カチャッ、カチャッ』と金属の擦れる音を響かせていた。

 

黒衣の少女は彼に言った。

「そんなに剣を集めて、まさか皇女に挑むのか?」

 

男は『プッ』と吹き出して答える。

「皇女さま剣を折っちまっただろ?商売だよ、しょうばい」

 

「お前はどこまでも……」

少女がため息混じりの会話をしている内に、休憩の時が訪れた……。

 

突然の雨を危惧する必要のない洞窟の中。

 

神官たちは思い思いの場所で身を休める。

 

張られた幌の中で休憩を取る、大司祭や公爵たち。

 

栗色の髪の青年も、その中に寝床を用意されていた……。

 

皆が寝静まった頃。

 

青年は身を起こし、幌から出る。

 

集団から離れた所で、女の声が聞こえた。

 

彼は慌てた様子で身を隠す。

 

「もう一度、私と勝負しなさい!」

 

白銀の鎧を外した薄着の乙女が、長髪の男へと声を上げていた。

 

男は細い煙を上らせながら言った。

「何かと思えば、そんな事か……」

 

「あの勝負、納得がいきません!」

彼女はそう言って、木の剣を彼へと差し出す。

 

男は煙の燻る細い筒を足で踏み潰し

「俺はオヤジの護衛で忙しいんだ……」

と女に背を向けて去っていった。

 

「待ちなさい!」

追いかける乙女。

 

その様子を見た青年の瞳は、深く淀んでいた……。

 

人気のない所まで来た栗色の髪の青年。

彼は辺りを『キョロキョロ』見回す。

 

そして、ひっそりと自分の剣を抜いた……。

 

青年は歯を『クッ』と噛む。

 

振られたその剣。

彼は剣を握る手を、一心不乱に動かし始めた……。

 

「皇女さま……」

声が口から漏れる。

 

研ぎ澄まされていく青年の剣。

 

その想いは、彼の剣からしっかりと溢れていた……。

 

「はぁっ、はぁっ……」

激しく上下する肩。

 

「まだまだこんなものじゃ……」

青年はそう呻く。

 

その姿を眺める視線に気付かぬまま、彼は再び剣を握り直した……。

 

集団の中で横になる神官へと、別の神官が声を掛けた。

「おい、交代だ」

 

彼は身を起こし、見張りに付く。

 

目を擦る神官。

彼は目を細めた。

 

魔窟の天井から『パラパラ』と、砂埃が降っていた……。




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