しかし碧眼の青年は、クーザーへと執拗に勝負を挑む、師の姿を目にしてしまった……。
絹の肌着姿で暗闇を歩く乙女。
幕屋の前で彼女は足を止める。
彼女が帳をめくって中に入ろうと時、後ろから声がした……。
「どうした?そんなに肩を落として」
力無く振り返る乙女。
その目線の先には、揃えられたあごひげの男がいた。
彼は言った。
「随分とやつれた顔だな……」
乙女は口をつぐむと、幕の中へと身を入れた。
男の唇の片端が上がる。
動きを止める乙女の体。
彼女は背後から二の腕を、男に掴まれていた……。
「なあ、俺と剣を交えないか……」
乙女の耳元で囁く男。
彼女は、『サッ』と腕を振って彼の手を解く。
「おっと……」
身を引くあごひげの男。
彼は腰に手を添え、立派な刀身をゆっくりと抜いていった……。
見開かれる乙女の瞳。
彼女は、胸を腕で覆って小声で罵る。
「なんと破廉恥な……恥を知りなさい……」
『ゴクリ』という喉の鳴る音。
「フフフッ、流石のあなたもコイツを見れば……」
男が言い切ろうとした時……。
「敵襲!敵襲!」
その近くを、神官の声が駆け巡った。
乙女は幕屋へと身を投げる。
そして白銀の鎧をその身に纏うと、折れた剣を帯びて悲鳴の上がる方へと走った……。
前方の天井へと伸びる光。
それが『パラパラパラ』と降る粉塵を照らしている。
人間の倍近くある灰色の巨体群が、その背で天井を『ガリガリガリ』と擦りながら宿営地へと押し寄せていた。
駆けつけた鎧の乙女。
黒衣の少女が声を上げた。
「あれは『トロル』よ!」
数人の傷付いた神官がすでにその身を横たえている。
先に来ていた栗色の髪の青年は、剣を手に巨体群へと走っていった。
「気を付けて!奴らの頑丈な体には剣が効かないかも!」
勇者の背に声を放つ黒衣の少女。
白銀の鎧の乙女は彼の背中を眺めながら、折れた剣の柄を『ギュッ』と握り締めていた……。
すばしっこく走り、大きな体を翻弄する青年。
降りる灰色の手が彼を追う。
大司祭の天幕を守る長髪の男は、柄に手を添えて目を細めていた……。
「あいつの弱点は火……」
杖を横に寝かせ前へと出す黒衣の少女。
彼女はその抑揚のない言葉を紡ぎ始める。
その時
『ズドォォォン!』
と大きな地鳴りがした。
「おおっ!」
後ろで傍観を決め込んでいた壮年の男が歓声を上げる。
灰色の巨人の一体が、青年にその身を寝転ばせられていた。
「なるほど……このために走り回っていたのですね……」
鎧の乙女は呟く。
『ユラリ』と動く長い髪……。
青年は横たわる巨体に跨ると、その剣を敵の眼球へと突き下ろした。
「やった……」
青年から漏れる声。
「グゴオォォォッ‼」
地を枕にした魔物から叫びが上がる。
「うわっ!」
声を出す青年。
彼の剣は貫通を果たす事なく、その直前で止まった。
青年の後ろで長い髪の男が剣を叩きつけて、寝そべる巨体を腹から真っ二つに斬っていた……。
鎧の乙女は足を踏み出す。
そして、長髪の男へと大声を上げた。
「クーザー!あなたっ!」
男は剣を持ち上げて女に背を向けた。
乙女は吠える。
「これでは、彼がただ逃げ回っていただけになってしまいます!」
浴びせられる罵倒を背に、男は長い髪をなびかせながら次の敵へと向かっていった……。
機敏に動き回る勇者。
その無防備な背を広い手がかすめる。
長髪の男がトロルを斬ろうとした時、『カキーン』という音が鳴った。
「ならば、私と勝負です……」
身を倒す巨躯の向こう。
そこにはどこからか手に入れた、細い剣を巨体へと叩きつける皇女の姿があった……。
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