しかし、その始動を妨げたのは、憧れのその人であった……。
長髪の男が、額を下げて「フッ」と鼻息を鳴らす。
折れた剣を手に晒す、白銀の鎧を纏う乙女。
――こんな頼りない剣では、私は……。
彼女の見据えるその先では、栗色の髪の青年が走り回っていた……。
迫りくる巨人の群れ。
巧みに翻弄する青年。
それを冷笑するかのように、男が剣を一閃させる。
力強い剣筋に跳ねる男の長い髪。
灰色の巨躯は瞬く間に、その体を真っ二つにされた。
両側に裂けて崩れる巨体。
機先を制された鎧の乙女は、ただ眉間を『くっ』と寄せた……。
折れた剣を握ったまま、立ち尽くしている乙女。
その時、鎧の後ろ側。
壮年の男が鞘を持って、彼女に剣を差し出していた。
乙女はそれを力強く握り、細い刃を『スラッ』と抜き出す。
「まいどっ!」
後ろで、男の軽い声が鳴る。
彼女は長髪の男を一瞥すると、口をつぐんで地面を蹴った。
「後でちゃんと代金は弾んでくれよ!」
後ろから男の声が鳴り響く。
乙女はそれを背に受けながら、敵の群れへと向かっていった……。
素早い足捌きで大きな体を、振り回す栗色の髪の青年。
斬られた巨体がなだれ込み、その体をかすめた。
「うわっ!」
青年は声を漏らす。
大きな体に隠れていた長髪の男が姿を見せた……。
「くっ……」と歯噛みをする青年。
彼はすぐさま、別の巨体へと身を走らせる。
そして彼は足を止めると、その剣先を巨敵の方へと向けた……。
巨大な手か青年を襲う。
彼の額から流れ出る汗。
青年は碧い目を一旦閉じ、すぐに『スッ』と見開いた。
覚悟を決めたその時。
『ズドォォォン』と地鳴りを響かせて、巨人が体を崩していった……。
眉間を強く寄せる青年。
彼の体を遮るように、鎧の乙女が刃を折りながら、細い剣を振り切っていた……。
「次、お願い!」
乙女は勇ましく声を上げると、壮年の男が剣を差し出した。
彼女は鞘より剣を抜き、次の獲物へと身を躍らせていった……。
剣で倒せないはずの、巨人を圧倒する皇女の剣技。
栗色の髪の青年は、遠くからそれをただ眺めるしか無かった……。
鎧の乙女と長髪の男。
張り合うように巨人を斬り捨てていく二人。
彼女たちが通ったその後には、巨大な亡骸が道を埋め尽くしていった。
黒衣の少女と金色の髪の麗人も、後方からそれぞれ魔法を放つ。
魔法の炎と魔を斬り裂く精霊の風が激しく飛び交う。
やがて巨人は魔窟の奥から姿を現さなくなり、その侵攻はようやく止んだ……。
「大漁大漁っと!」
壮年の男は剣が抜かれた鞘を抱えて、満面の笑みをこぼす。
「怪我はない?」
栗色の青年に近づく金色の髪の麗人。
青年は麗人に背を向けると、その綺麗なままの剣を静かに納めた……。
焦げた臭いが漂う中、白銀の鎧の乙女は素早く顔を振っていた。
彼女は長髪の男の背中を見つけると、勝ち誇るように声を放った。
「私が六体、私の勝ちのようですね……」
無言で振り返り、その鋭い眼を乙女へと向ける長髪の男。
乙女はそれを毅然として見返した。
――何なの、この胸騒ぎ……。
早鐘を打ち出す乙女の胸の奥……。
長髪の男が聖衣の胸の隙間より、短い筒を『スッ』と取り出す。
彼がそれを口に咥えて、火打ちをしようと石を手に持った時……。
「シャァァァッ!」
小さな蒼い獣が背を突き出して、威嚇する様な声を出した。
「トロルの集団は、あいつに追われていたのね……」
黒衣の少女はそう言って、前方に屹立する影の方を向いた。
灰色の巨人たちの背後に隠れていた怪異が、その身を現したのである……。
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