※この作品はR-18です。

厄災の魔窟 ―魔界の皇太子誕生―   作:裏の影

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 二人の強者が剣を争うように、トロルを打ち倒していく。

 しかし灰色の巨体に隠されていた者が、その禍々しい姿を現した……。


疑惑の剣

暗闇の奥に立つ姿。

それは死屍累々の間を縫って、ゆっくりと進撃を始めた。

 

黒衣の少女が言った。

「ここにも上位悪魔(グレーターデーモン)……どうやら、魔窟の最奥部に近づいているみたい……」

 

影は『ピシッ、ピシッ』と何かを打つ音を鳴らしながら、鎧の乙女たちへと近づく。

 

そこへ綺麗にそろえられたあごひげの男が、剣を携えて前線に現れた……。

 

「ここは危険です!ネットリー公爵」

うら若き女神官が男を諫める。

 

公爵は向かってくる異形の姿に声を上げた。

「なんだ?あの、頭の上の鶏冠(とさか)のような髪は!」

 

盛り上がった胸の前で交差する革の帯。

他の悪魔と同じような……いや、銀色に塗りつぶされたような顔面。

そしてその目の縁には、申し訳程度に施されたくまどりが見えた……。

 

「上位……悪魔?」

白銀の鎧の乙女は少し首を傾けた。

 

とにかくその異様な姿は、逞しい胸を突き上げて、両手の硬鞭を振り下ろしながら、声を高らか上げた。

 

「俺は上位悪魔の『ジートン!』大地の膜鳴をお見舞いしてやる!」

 

「ジーノンではないの?」

白銀の鎧姿の乙女が、細い剣を構えて問う。

 

悪魔は鶏冠を逆立てて言った。

「違うっ!俺はズイィィィトンだっ!」

 

「あら、それは失礼……」

乙女はそう言って、金髪の麗人へと振り返る。

 

しかし、エルフの綺麗な白頬が、『スッ』と目線を下げた……。

 

――えっ⁉

乙女の心に出来た隙間……。

 

彼女の後ろから手が肩に触れる。

 

あごひげの男は乙女の前に立つと、剣を抜いて勇ましく言った。

「ここは俺の出番だな!」

 

『カラーン!』

細い剣を投げ捨てる音。

鎧の乙女は男の持つ立派な剣を、目を瞑りながら後ろより拝借した。

 

「ええっ!」

声を上げる公爵。

皇女が勢いよく地面を蹴る。

 

彼女は剣を振りかぶって、鶏冠の悪魔へと叩きつけた……。

 

『ポキッ!』

 

まるで、細長いプレッツェルのように折れる剣。

 

立派に見えたその剣は、悪魔の表皮を貫けなかった……。

 

公爵は叫びを上げた。

「俺が高い金を払わせて、世界中を回らせて探させた金属で、お抱えの錬金術師に考えさせて、腕の巧みな技師に作らせた剣がぁぁぁっ!」

 

黒衣の少女が呟いた。

「見事に、何一つ自分の労力が加わっていない……」

 

鎧の乙女は折れた剣を投げ捨てる。

そして、男の剣に触れてしまったその手を、甲冑より覗く服の端で拭った。

 

今まさに、力の誇示の象徴となった上位悪魔。

その姿を青年の碧い瞳が見据えていた……。

 

『ゴクリ』と鳴る喉の音。

 

その時『ワッ』と歓声が上がった。

 

素早く振り返る鎧の乙女。

 

長髪の男がその髪先を浮かせ、上位悪魔の大きな体を切り伏せていた……。

 

「ジッ、ジィィィトン……」

断末魔を上げ、斜めに滑り落ちる悪魔の上半身。

 

鎧の乙女は残心する男の背中を眺め、背に冷ややかなものを感じていた……。

 

男を称える歓声が沸き起こる。

その中で黒衣の少女は声を上げた。

 

「間違いない、あれは……『聖剣ソリッドペネトレイター』」

 

「えっ⁉聖剣!」

乙女は男の剣を見て声を上げる。

そして『キッ』と目を吊り上げると、大司祭のいる幕屋へと大股で近づいて行った……。

 

「これが、あの悪魔ねぇ……」

壮年の男は、地に転がる身を引き裂かれた一羽の鶏を眺めて言った。

 

場に怒鳴り声が鳴り響いた。

 

「エヴァルールー!これはどういう事ですか!」

鎧の乙女は近侍する女神官を押しのけて、ふくよかな男へと詰め寄った。

 

皇女は目の前にいる疑惑の塊へ、胸の奥底に燻るもやをぶつけようとしていた……。




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