しかし碧眼の勇者は、エルフと共に宿営地から姿を消した……。
先の見えない暗闇を手探りで進む二つの影。
青年は暗がりに碧眼をめぐらせながら、金色の髪をなびかせる麗人を伴っていた。
音を一つも立てることなく、足早に歩みを進める二人。
その後ろに伸びた左手は、雪肌の指と固く結ばれていた……。
『シャリッ、シャリッ』と地面を踏む音が、小さく鳴りだした。
「精霊魔法の効果が切れた……」
金髪の左右から伸びる長い耳を『ピクピク』と跳ねさせて、美貌をたくわえた顔が声を出した。
「ここまで来れば大丈夫かな……」
そう言って手を離す青年。
「あっ……」
麗人が声を漏らす。
青年は腰に吊り下げたランタンを手に持ち、明かりを灯した……。
灯りで浮き上がるその肢体。
青年の栗色の髪が照らされる。
「ありがとう。君の魔法のお陰であそこから抜け出せた……」
青年はそう言って金髪の麗人の方を向いた。
すると、麗人はその長い髪を『サラッ』と流しながら、彼に背を向ける。
その後ろは、少し突き出されていた……。
「かなり早足だったから、疲れた?」
青年がそう言うと、エルフは背中越しにその頭を横へと振った。
「ここで休憩していく?」
そう声をかける青年。
暫くの間を置いて、金髪の頭が『コクリ』と頷かれた……。
岩壁に寄りかかって尻をつく二人。
「ねえ、これからどうするの?」
金髪の麗人が顔を伏せたまま、栗色の髪の青年に訊いた。
青年は答える。
「俺は選ばれし勇者だから、『逢魔の扉』を閉じに行かないとね……」
「それを閉じればどうなるの?」
エルフがさらに深い所を求めた……。
「魔物が出てこなくなって、世界が平和になるかなぁ……」
捻り出すように答えを出す青年。
エルフは声をこもらせながら言った。
「そうじゃなくって……みんなに凄いって言われるの?例えば、その……あの綺麗な女の人とか……」
「皇女さま……」
青年は手の平で空気を握りしめ、その頭を垂れた……。
肩を震わせる栗色の髪の青年。
エルフはその細い指で彼の裾を摘み、そのまま口をつぐんだ……。
訪れた食事の時。
短刀の先が震える……。
「今まで、女神官さんが全てやってくれていたからなぁ……」
慣れない手付きで、干し肉を切り分ける青年。
エルフは艶やかな脛を抱きながら、真剣な彼を眺めていた……。
青年はその瑠璃色の瞳を上目に見据えると、「ゴクリ」と喉を鳴らし、肉を摘まんで上にあげた。
剥き出しの身から香る、芳しい匂い。
「あっ……」
エルフは目を見開くと、彼の指が持ち上げる自分の肉を、白い手で覆うように包み込んだ。
『クチャッ……』
青年の口が鳴る。
彼は自分を満たすように、旨そうに見える細長い肉へとかぶり付いていった……。
恥ずかしげもなく上下する栗色の髪。
彼はただ、一心不乱にそれを味わっていた……。
『グチュグチュ』という唾液を絡ませる音。
それが鳴る度に、長い耳が『ピクピク』と小刻みに動く。
「あんなに美味しそうに……」
そう呟くエルフ。
その目は次第に細くなって行った……。
至福の時を楽しんでいたエルフの耳が、『ピクリ』と動いた。
「――何か聞こえる……」
小声で告げるエルフ。
栗色の髪の青年は素早く身を起こす。
そして音を立てないように、エルフの指す方へと動いた。
岩陰に身を隠し、横穴を覗き込む二人。
エルフはその躰を青年へと重ねるようにして、背後から視線を共にした。
視線の先で蠢く大きな影……。
青年は碧眼を凝らす。
「あれは……!」
栗色の髪の近くで、エルフは唸るような声を聞かせた……。
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