※この作品はR-18です。

厄災の魔窟 ―魔界の皇太子誕生―   作:裏の影

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 トロルの群れと上位悪魔『ジートン』を撃退した皇女たち。

 しかし碧眼の勇者は、エルフと共に宿営地から姿を消した……。


仮初めのふたりごこち

先の見えない暗闇を手探りで進む二つの影。

 

青年は暗がりに碧眼をめぐらせながら、金色の髪をなびかせる麗人を伴っていた。

 

音を一つも立てることなく、足早に歩みを進める二人。

 

その後ろに伸びた左手は、雪肌の指と固く結ばれていた……。

 

『シャリッ、シャリッ』と地面を踏む音が、小さく鳴りだした。

 

「精霊魔法の効果が切れた……」

金髪の左右から伸びる長い耳を『ピクピク』と跳ねさせて、美貌をたくわえた顔が声を出した。

 

「ここまで来れば大丈夫かな……」

そう言って手を離す青年。

 

「あっ……」

麗人が声を漏らす。

 

青年は腰に吊り下げたランタンを手に持ち、明かりを灯した……。

 

灯りで浮き上がるその肢体。

青年の栗色の髪が照らされる。

 

「ありがとう。君の魔法のお陰であそこから抜け出せた……」

青年はそう言って金髪の麗人の方を向いた。

 

すると、麗人はその長い髪を『サラッ』と流しながら、彼に背を向ける。

 

その後ろは、少し突き出されていた……。

 

「かなり早足だったから、疲れた?」

青年がそう言うと、エルフは背中越しにその頭を横へと振った。

 

「ここで休憩していく?」

そう声をかける青年。

 

暫くの間を置いて、金髪の頭が『コクリ』と頷かれた……。

 

岩壁に寄りかかって尻をつく二人。

 

「ねえ、これからどうするの?」

金髪の麗人が顔を伏せたまま、栗色の髪の青年に訊いた。

 

青年は答える。

「俺は選ばれし勇者だから、『逢魔の扉』を閉じに行かないとね……」

 

「それを閉じればどうなるの?」

エルフがさらに深い所を求めた……。

 

「魔物が出てこなくなって、世界が平和になるかなぁ……」

捻り出すように答えを出す青年。

 

エルフは声をこもらせながら言った。

「そうじゃなくって……みんなに凄いって言われるの?例えば、その……あの綺麗な女の人とか……」

 

「皇女さま……」

青年は手の平で空気を握りしめ、その頭を垂れた……。

 

肩を震わせる栗色の髪の青年。

 

エルフはその細い指で彼の裾を摘み、そのまま口をつぐんだ……。

 

訪れた食事の時。

 

短刀の先が震える……。

 

「今まで、女神官さんが全てやってくれていたからなぁ……」

慣れない手付きで、干し肉を切り分ける青年。

 

エルフは艶やかな脛を抱きながら、真剣な彼を眺めていた……。

 

青年はその瑠璃色の瞳を上目に見据えると、「ゴクリ」と喉を鳴らし、肉を摘まんで上にあげた。

 

剥き出しの身から香る、芳しい匂い。

 

「あっ……」

エルフは目を見開くと、彼の指が持ち上げる自分の肉を、白い手で覆うように包み込んだ。

 

『クチャッ……』

青年の口が鳴る。

 

彼は自分を満たすように、旨そうに見える細長い肉へとかぶり付いていった……。

 

恥ずかしげもなく上下する栗色の髪。

 

彼はただ、一心不乱にそれを味わっていた……。

 

『グチュグチュ』という唾液を絡ませる音。

それが鳴る度に、長い耳が『ピクピク』と小刻みに動く。

 

「あんなに美味しそうに……」

そう呟くエルフ。

 

その目は次第に細くなって行った……。

 

至福の時を楽しんでいたエルフの耳が、『ピクリ』と動いた。

 

「――何か聞こえる……」

小声で告げるエルフ。

 

栗色の髪の青年は素早く身を起こす。

そして音を立てないように、エルフの指す方へと動いた。

 

岩陰に身を隠し、横穴を覗き込む二人。

エルフはその躰を青年へと重ねるようにして、背後から視線を共にした。

 

視線の先で蠢く大きな影……。

 

青年は碧眼を凝らす。

 

「あれは……!」

栗色の髪の近くで、エルフは唸るような声を聞かせた……。




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