皇女は彼と行動を共にする事を願い出た……。
岩の回廊を駆ける小さな蒼い姿。
その後ろを栗色の髪の青年と、金髪の麗人が追っていた。
「早く戻らないと、皇女さまが危ない!」
そう声を上げる青年。
麗人は長い耳を寝かせながら、横を向いて駆けていた……。
岩肌を照らすランタンの灯り。
「くそっ!暗がりの中を進んで来たから、戻る道がわかんねえ……」
青年は歯噛みをする。
彼らは蒼き獣の導きに従い、魔窟をさかのぼるしか無かった……。
金髪のエルフは言った。
「私たちだけで『逢魔の扉』を閉じるんじゃ無かったの?」
青年は栗色の髪を乱して振り返る。
「この剣で守るって、俺は皇女さまに言ったんだ!」
魔窟に吸い込まれる彼の声。
その時。
「ミイィィィウ!」
蒼き獣が足を止め、鳴き声を上げる。
その声は警報のように、魔物の襲来を告げた。
「くそっ!お前らの相手などしている暇はないんだ!」
青年はそう叫ぶと、闇に光る赤い眼の群れに向かって、その汚れのない剣を抜いた……。
その頃、幕屋を発つ白銀の鎧の乙女たち。
「では、お互い首尾よく……」
黒衣の少女が乙女に告げる。
それを後ろで眺める、うら若き女神官。
勇者捜索隊は二手に分かれ、違う道へと入っていった……。
『カッチャ、カッチャ……』
長髪の男は腰へと帯びる『剣』を揺らしながら、大股で先頭を歩く。
それを『じっ』と見据える乙女の瞳。
彼女の脳裏へと、かつて別の時間軸で悪魔の長剣に害された青年の姿が浮かぶ。
――あれを得ることができれば、あの子に襲いかかる上位悪魔を打ち倒す事が出来る……。
皇女はそう考えながら、男の隙を窺っていた……。
最後尾から灯りを照らす女神官。
その光が、岩陰に現れた魔物を映し出した。
獅子と山羊の双頭。
広げられた黒い翼に、尾の先で牙を剥く蛇の頭部。
長髪の男は鞘から刀身を『スラッ』と抜く。
乙女はそれを見て喉を鳴らした。
勢いよく地を蹴る男。
乙女はその動きに追随する。
――このまま、あの剣を……。
剣を振り上げた男の腕を、乙女が捕らえようとした。
その時。
二人の影が岩壁へと大きく伸びた。
その光景に乙女は背筋を凍らせる。
魔物が翼を広げ身を舞い上がらせたため、後ろの平らな岩肌へと、剣を掠め取ろうとする女の姿がはっきりと映し出されていた……。
男は長い髪を翻し、身を急旋回する。
――殺される!
女の躰に殺気がよぎる。
「あっ……!」
彼女は男の広い胸へと頬をぶつけ、その腰にしがみついた。
『ドッ、ドッ、ドッ……』
聞こえる胸を打つ音……。
――はっ!
乙女は慌てて男から身を離す。
男は素早く身を翻すと、襲いかかる合成獣を一刀両断した……。
地面に転がる獅子の頭。
長髪の男はそのたてがみを掴むと、その大きな獅子頭を乙女へと向けた。
その生気を失った瞳が、皇女の目と合う。
――この男、わざと帝国の紋章である獅子だけを……。
投げられる獣の頭。
男は剣を鞘へと戻す。
乙女は口をつぐんで、ただ下を向くしかなかった……。
場所は戻って、岩の回廊。
身を伏せる、大小さまざまな姿の魔物たち。
大量の血が土へと吸い込まれる。
返り血ひとつ浴びていない、栗色の髪の青年。
「それがキミの本当の力なんだね……」
金髪の麗人が、手櫛で髪の脇をかき上げながら言った。
無言で剣を鞘へとしまう青年。
彼は蒼き小さな獣の方を見た……。
「ミィウ!」
獣はひと鳴きすると、再び身を走らせる。
栗色の髪を『サラサラ』となびかせながら、青年は金髪の麗人と共にその後を追った……。
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