※この作品はR-18です。

厄災の魔窟 ―魔界の皇太子誕生―   作:裏の影

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 剣の力に酔いしれる皇女。

 その頃、黒衣の少女たちは、謎の地鳴りに追われていた……。


第五章 開かれる青い花蕾
鳴り響く鼓動


「はっ、はっ、はっ……」

息を荒くして走る、熟れた年頃の女神官。

 

戦棍を揺らすその腰裏へと、大きく波をうつ地表が『ドドドドド』と音を立て迫っていた……。

 

必死で駆ける女神官の前。

長い裾を捲り上げて、黒衣の少女が走っている。

その生脚の間からは瑞々しい李(すもも)が『チラチラ』と、禁忌の姿を覗かせていた。

 

少女は前へと罵声を飛ばした。

「ちょっと、あなた!……少しくらいは男を見せなさいよ!」

 

彼女の前を突っ切る壮年の男。

彼は一切振り返らず、息絶え絶えに返した。

「うるせぇ!……お前らが束になっても勝てない奴に……俺が敵う訳ねえだろ!」

 

彼らを追う波の向こう。

針山ような頭髪から、声が飛んだ。

 

「俺は『雷のリーリー・ユサーマ』。進撃する大地を喰らうがよい!」

 

黒衣の少女は大声で言った。

「あいつは上位悪魔の仲間!……訐露(けつろ)術式の詠唱の間、奴を二人で食い止めて!」

 

『チラッ』と振り返る壮年の男。

 

禁断の一本線の向こう。

 

『ドコドコドコ……』

太鼓の連打で、大地に波動を起こす魔神。

塗ったような白い顔面が、すぐそこまで迫っている。

 

「見てない見てない……」

男は念仏のように唱えながら、前を向きなおした……。

 

その頃、横穴に張られた幕の中。

吊るされたランタンの灯りが、背中の刺青を照らす。

 

長髪の男は鬼神の彫り物越しに言った。

「本体から離れて随分と経つ……オヤジの事が気がかりだ……」

 

櫛を通す動きを止める女……。

 

――彼との時間が終わる……。

彼女はその背に、『サッ』と何かが引く感覚を覚えた。

 

「でっ、でも、あの子を探し出さないと、あなたの使命は達せられないのですよ……」

女は声を震わせる。

 

男は無言で服を着始めた。

 

――彼について行かないと。

女は胸を薄衣で『サッ』と覆った……。

 

その時。

 

秘事を覆う幕の向こうで、かつて毎日聞いた声がした……。

「女神官さん!このままだと、皇女さまが大変な事になるんだ!」

 

絹の衣服を纏って帳を出る女。

躰にけだるさを秘めながら、以前のような厳格な指導者の表情を作る。

 

対面する二人……。

 

「皇女さま!大司祭が……」

言いかけた途端、栗色の髪の青年は口ごもる。

かつての師の後ろに、長髪の男が姿を見せていたのである……。

 

「えっ、なんであんたが!?」

一瞬、青年のエメラルドのように透き通った瞳が陰りを見せた。

 

少しの沈黙。

青年の後ろに立つエルフは、終始目を細めていた……。

 

暫くして青年は、背嚢を慌てた様子で弄り始める。

そして甲冑の一部分を取り出し、師へと示した。

「俺、あの騎士に一人で勝ったんだぜ!」

 

女の目の前に晒された御印。

 

――これは……誉れ高き獅子の紋章……。

湧き上がる、帝国を侮辱されたような感覚。

皇女は吐き気を催すも、それを飲み込み口を開いた。

 

「勝手に飛び出して、何やってるのですか!あなたのせいで、皆にどれだけ迷惑が掛かっているか!」

響く怒鳴り声。

 

青年の瞳が、涙でにじんでいった……。

 

長い一本道に少女の声が響く。

 

「しっかりしなさい!あなた、男でしょ!」

 

息の上がって来た、熟れた年頃の女神官。

 

「きゃっ!」

『ドサッ』という音と共に声が響く。

 

足を止める壮年の男。

彼が振り返ると、女神官が倒れていた……。

 

「くっ……」

男は素早く女神官の足先へと回り込む。

そして座り込んで諸手を挙げ、身を前へと倒した。

 

「この通りです、許してください!」

魔窟に響く情けない声。

悪魔の前で跪く男は、目を閉じて冴えない兜を被った……。




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