※この作品はR-18です。

厄災の魔窟 ―魔界の皇太子誕生―   作:裏の影

53 / 94
 功績を皇女に否定され、クーザーの暴行を受ける勇者。

 同じ頃、迫りくる魔人へと命乞いをしていた壮年の男は、不思議な力を発動させていた……。


限界を超えたその力

一本の棒を握り合う、針山のような頭髪の魔人と冴えない兜を被った男。

 

男の兜の頂きからは、煙が立ち昇っていた……。

 

「離せ!」

兜を見下ろす巨躯が、その髪を大きく振る。

そして掴まれている硬鞭を、荒々しく奪い返した。

 

小競り合いを行うその後ろでは、黒衣の少女が詠唱を微かに響かせていた……。

 

「もう許さん!」

髪を逆立てる魔人は取り返したバチで空間を打ち、地を蹴る動作をそれに加えた。

 

重く低い音が地を震わせ、その打擲(ちょうちゃく)が烈しさを増していく。

 

「あぁぁぁっ!」

腹を突くようなその激震に、熟れた年頃の女神官は身を屈めた。

 

兜を被る男の体は、『ドカドカ』と鳴る音に同調するかのように足踏みを始める。

 

兜の頭上へと集まる光の線。

針山頭の魔人が右手を振り降ろすと、『シャーン!』という音が鳴った。

その音を合図とするように、稲妻が轟音を響かせた。

 

兜の男はとてつもない速さで曲折を繰り返し、その身をかすめる凶悪な閃光を避けながら前に出る。

 

そして兜が魔人へと近接すると、拳をその腹へと叩き込んだ。

 

「ぐはぁぁぁっ!」

くの字に折れる大きな体。

白塗りのような顔から、飛沫が勢いよく散った。

 

針山の頭はうずくまって唸る。

「何だその力は⁉……だが、打撃だけでは俺は倒せんぞ……」

 

直立する兜の男。

彼は魔人を指差す。

 

「何だ!」

両手の平を顔の前で交差する大柄な体。

 

男は兜から再び煙を昇らせると、後ろ向きにぶっ倒れた……。

 

女神官は男の元へと駆け寄ると、投げるように兜を脱がせた。

 

「いてえ!体中が千切れる様にいてえ!」

大声を上げる壮年の男。

 

その時、少女の詠唱が止まった。

「良く持ちこたえた!術式を解放する!」

 

少女の杖が雷の魔人を指すと、その体は見る見る内に縮んで行った……。

 

その頃、大司祭の元へと帰る皇女たち。

 

長髪の男は、碧眼の青年の腕を掴んでいた。

 

「きゃぁぁぁっ!」

遠くから悲鳴が響く。

 

皇女は叫んだ。

「あれは、宿営所の方!」

 

「オヤジ!」

長髪の男は青年を解放して、一人暗い坑道を駆けていった。

 

青年を一目見る皇女。

彼女は、白銀の鎧を鳴らして長髪の男を追った。

 

青年の背中を『チョイ』と押すエルフ。

彼も鞘を握って、皇女の後を追った……。

 

地へと落ちる幕屋の幌。

 

動かぬ神官たちの体が、所々に寝そべっていた。

 

腰横の鞘に手を振れる皇女の目の前で、天井を擦る大きな姿が宿営を蹂躙している。

 

「あれは、トロル!」

皇女がそう言うと、その背後から青年が声を放った。

 

「くそっ!……あいつはクーザーの持つ剣でしか倒せない!」

 

その言葉を聞いて、皇女は聖剣の鞘を『ギュッ』と握る……。

 

「あの時打ち漏らした一匹か……?」

皇女がそう呟いていると、魔物の目線が彼女たちの方を向いた。

 

柄を握る皇女と勇者。

青年が素早く剣を抜き、巨体へと斬りかかる。

 

繰り出されるその洗練された動き。

 

――あれは、私の剣技……。

皇女は胸をすくような感覚を覚えた。

 

『カラーン……』

しかしその想いを嘲笑うように、青年が旅立ちの時から身を任せていた剣は、トロルの厚い皮膚に跳ね返されて折れた……。

 

地に横たわる、穢れを知らぬ刀身。

 

青年は敵を目の前にしても、その身を引くことはなかった。

 

後から来た金髪の麗人が魔法の詠唱を始める。

 

――お前が剣を抜き皆が俺のだと知った時、特にあの坊っちゃんはどんな顔をするのだろうな……。

皇女の脳裡に響くクーザーの言葉。

 

彼女は柄を握りしめたまま、その場へと立ち尽くした……。




評価をぜひっ、お願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。