皇女が剣の柄を握った時、その本性が暴かれようとしていた……。
『ズズゥゥゥン、ズズゥゥゥン……』
大きな体が微震と共に、剣の柄を握る鎧の女の方へと近づいて来る。
――トロルは聖剣なら簡単に倒せる……でも……。
彼女は、迫りくる巨体を眺めながら戸惑っていた。
――クーザーとの関係が、あの子に知れてしまう……。
折れた剣でなおも戦いを続ける栗色の髪の青年。
金色の髪の麗人から、鋭い風の矢が放たれる。
「勇者さまを援護しろ!」
神官たちはがらくたを拾い上げ、灰色の巨躯へと投げつけていた。
皆の抵抗で少しずつ後退する巨大な体。
しかし魔物の上体が影を作り、大きな手が青年の躰を捕らえた。
『カラーン……』
音を響かせて地に跳ねる、刀身を失った剣……。
「このっ、このっ!」
青年は、その身を掴む太い腕を殴りつける。
灰色の巨人は青年を肩へと担ぎ、ゆっくりと身を翻し始めた。
――いけない!
とっさに動く皇女の手。
彼女は聖剣を抜き、その秘めたるものを衆目へと晒した……。
その頃黒衣の少女たちは、縮んでいく雷の魔人を眺めていた。
満身創痍で横たわる壮年の男を、膝の上で抱きかかえる熟れた年頃の女神官。
彼女は小さく言った。
「あれは……」
黒衣の少女は答えた。
「ゴリラ……」
彼女たちの目の前に現れた、大きな体の猿人。
猿人は広い胸を上に向け、両手で太鼓のように叩き始めた。
「あれは……何をしているの?」
女神官はそのさまに首をかしげる。
彼女の膝に乗る頭が、低く呻いた。
「あれは、怒っているな……ゴリラは人間より普通に強いぞ……」
熟れた年頃の女神官は、慌てた様子で男の体を担ぎ上げた。
黒衣の少女は、地に転がる冴えない兜を拾い上げ呟く。
「この力、役に立つかもしれない……」
彼女たちは荒ぶる猿人に背を向けると、暗い一本道を戻った……。
巨体が身を返す中、不浄の刃を赤裸々に晒す女。
トロルの肩の上で、青年は碧眼の瞳を見開く。
「何で皇女さまがあいつの剣を……!?」
「これは違うの!」
我に返って声を上げる皇女。
彼女が立ち尽くしている間、巨大な体は投擲を身に受けながら、ゆっくりと坑道の暗闇へと消えて行った……。
「キミ……酷いね!」
金髪の麗人は皇女にひと言浴びせる。
そして、青年が連れ去られた闇へと走っていった。
目を閉じて顔を伏せる皇女。
その時。
「ミィウ……」
彼女の足元で鳴き声がした。
皇女は目を開けると、蒼き小さな獣の姿があった。
「ルシェイル……」
獣は暗闇の方を向いて鳴いた。
「そうね、私も行かないと……」
皇女は聖剣の刃を晒したまま、ルシェイルの後ろに付いて走った。
集まる神官たちの目……。
うら若き女神官は、虚ろな表情をして突っ立っていた……。
破られて落とされた幕屋の幌の中で、白き衣を纏う長髪の男は大声を上げていた。
「オヤジ!……オヤジぃっ!」
彼は地に落ちた分厚い幕を、片っ端から勢いよく捲っていった。
「くそっ!居ない……」
「クーザー……」
彼を呼ぶ震える声が近くから聞こえた。
長髪の男は声がした覆いを払いのける。
そしてそこへ横たわる、揃えられたあごひげの男の胸ぐらを掴み怒鳴った。
「おいっ、オヤジはどこだ!」
あごひげの男は手を震わせながら、狭い坑道を指差して言った。
「大司祭は……『アモン』と名乗る男を連れて、あそこに入っていった……」
「アモン⁉……誰だそいつは!」
長髪の男は大声を放つ。
あごひげの男はその頭を『ダラリ』と垂れた……。
彼は坑道を一目見ると、辺りに転がるランタンを拾い上げた……。
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