※この作品はR-18です。

厄災の魔窟 ―魔界の皇太子誕生―   作:裏の影

61 / 94
 その身を汚されながらも、何とか栗色の髪の青年を保護した皇女。

 彼女たちは、一旦その拠点へと後退した……。


第六章 散らされた花々と残される棘
寄り集まる厄災


広い空洞に設営された天幕の群れ。

 

爪跡の残るその中で、なんとか形を保つ幕屋。

 

そこには、怪我を負った者たちがその身を集められていた……。

 

敷布へと身を横にする壮年の男。

彼は苦しそうに言った。

「いててて……俺はもうダメだ……」

 

黒衣の少女と熟れた年頃の女神官は、膝を突く姿勢で彼を覗き込んでいる。

 

女神官は瞳を潤ませ、悩ましげな表情を浮かべていた。

 

男は震える手を上げる。

そしてそれを女神官に近づけると、呻くように言った。

「死ぬ前に……せめてオッパ……いてっ!」

 

頭に女神官の裁きを受ける壮年の男。

 

「それだけ元気なら大丈夫そうね」

女神官が声を放つ。

 

彼女たちがそんなやり取りをしている中、処置室がざわめき出した……。

 

処置を行っていた神官の一人が立ち上がり、声を上げる。

「皇女さま!」

 

幕屋の入口へと顔を向ける二人の女。

黒衣の少女はその目を見開いて、『スッ』と立ち上がった。

 

「勇者さま!」

少女の声が処置室に響いた。

 

白銀の鎧の女と金髪の麗人が入り口の幕を捲って、その両脇を抱えた、栗色の髪を顔に垂らす青年の姿を見せていた。

 

悲痛さを物語るその様相。

 

黒衣の少女は青年へと駆け寄り、声を荒げた。

「勇者さまに何があったの⁉」

 

鎧の女と長い耳を突き出す金髪はその目を逸らした。

 

黒衣の少女はうつむく青年の顎をすくい、その顔を覗き見る。

 

「えっ!?」

声を上げる少女。

彼女は顔色を青ざめさせながら言った。

「『聖降の碧眼』を失ってる⁉」

 

「とっ、ところで、ソリッドペネトレイターはどうなったの!」

鎧の女は黒衣の少女からその言葉が発せられると、鼻の奥を締め付けられるような不快感に目を吊り上げて、少女を見た。

 

その時、立ち尽くす皇女たちの後ろに人影が現れた……。

 

『ドン!』

肩で鎧の女の背を突くうら若き女神官。

 

その足元には彼女に襟の後ろを掴まれた、長髪の大きな体が見えた。

 

鎧の女は、青年を抱える腕を慌てて離す。

 

うら若き女神官は虚ろな表情を見せながら、『ズザッ、ズザッ』と男の体を引きずりながら、処置室の奥へと歩いていく。

 

彼女は立ち止まると、手に掴む大柄な体を片腕で放り投げた。

 

『ドサッ……』

 

――まさか⁉

彼女の背筋を『ヒヤリ』としたものが突き抜け、その両手で口を覆った。

 

身を横たえる体……。

 

「クーザー!」

鎧の女は悲鳴のような声を上げその体へと駆け寄り、抱き起した。

 

目を閉じる長い髪を流す男。

白き衣は赤く染まり、胸を貫かれた跡が見えた。

 

鎧の女は声を震わせる。

「剣の跡……たてがみの悪魔……」

彼女は大きな扉で見た『獅子のたてがみのような頭髪』を思い浮かべていた……。

 

鎧の女は涙まじりで声をふり絞る。

「聖剣を手に入れたばっかりに、彼を喪うなんて……」

 

そして、血で汚れた男の胸板へと顔を沈めて叫んだ。

「あなた!魔法で時間が戻せるのでしょ!」

その悲痛な声は、処置室に大きく響かせられた……。

 

「魔法で戻せる時間には……」

言葉を詰まらせる黒衣の少女。

 

その時、うら若き女神官の肩が『ビクッ』と動いた。

 

「ここは?……私は何を……」

彼女はゆったりとした口調で、独り呟いている。

 

金髪の麗人に抱えられた青年は辺りを俯瞰するように、栗色の髪の隙間より虚無な目を覗かせていた……。

 

場所は代わり、無数の蝋燭が並ぶ部屋。

 

腕に巻き込んだ衣服で身を隠した男が、そこへ駆け込んできた。

 

自ら火を灯していく蝋燭に照らされる赤い絨毯。

 

それを囲むようにして、六体の異形の姿が立っていた……。




評価をぜひっ、お願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。