彼女たちは、一旦その拠点へと後退した……。
寄り集まる厄災
広い空洞に設営された天幕の群れ。
爪跡の残るその中で、なんとか形を保つ幕屋。
そこには、怪我を負った者たちがその身を集められていた……。
敷布へと身を横にする壮年の男。
彼は苦しそうに言った。
「いててて……俺はもうダメだ……」
黒衣の少女と熟れた年頃の女神官は、膝を突く姿勢で彼を覗き込んでいる。
女神官は瞳を潤ませ、悩ましげな表情を浮かべていた。
男は震える手を上げる。
そしてそれを女神官に近づけると、呻くように言った。
「死ぬ前に……せめてオッパ……いてっ!」
頭に女神官の裁きを受ける壮年の男。
「それだけ元気なら大丈夫そうね」
女神官が声を放つ。
彼女たちがそんなやり取りをしている中、処置室がざわめき出した……。
処置を行っていた神官の一人が立ち上がり、声を上げる。
「皇女さま!」
幕屋の入口へと顔を向ける二人の女。
黒衣の少女はその目を見開いて、『スッ』と立ち上がった。
「勇者さま!」
少女の声が処置室に響いた。
白銀の鎧の女と金髪の麗人が入り口の幕を捲って、その両脇を抱えた、栗色の髪を顔に垂らす青年の姿を見せていた。
悲痛さを物語るその様相。
黒衣の少女は青年へと駆け寄り、声を荒げた。
「勇者さまに何があったの⁉」
鎧の女と長い耳を突き出す金髪はその目を逸らした。
黒衣の少女はうつむく青年の顎をすくい、その顔を覗き見る。
「えっ!?」
声を上げる少女。
彼女は顔色を青ざめさせながら言った。
「『聖降の碧眼』を失ってる⁉」
「とっ、ところで、ソリッドペネトレイターはどうなったの!」
鎧の女は黒衣の少女からその言葉が発せられると、鼻の奥を締め付けられるような不快感に目を吊り上げて、少女を見た。
その時、立ち尽くす皇女たちの後ろに人影が現れた……。
『ドン!』
肩で鎧の女の背を突くうら若き女神官。
その足元には彼女に襟の後ろを掴まれた、長髪の大きな体が見えた。
鎧の女は、青年を抱える腕を慌てて離す。
うら若き女神官は虚ろな表情を見せながら、『ズザッ、ズザッ』と男の体を引きずりながら、処置室の奥へと歩いていく。
彼女は立ち止まると、手に掴む大柄な体を片腕で放り投げた。
『ドサッ……』
――まさか⁉
彼女の背筋を『ヒヤリ』としたものが突き抜け、その両手で口を覆った。
身を横たえる体……。
「クーザー!」
鎧の女は悲鳴のような声を上げその体へと駆け寄り、抱き起した。
目を閉じる長い髪を流す男。
白き衣は赤く染まり、胸を貫かれた跡が見えた。
鎧の女は声を震わせる。
「剣の跡……たてがみの悪魔……」
彼女は大きな扉で見た『獅子のたてがみのような頭髪』を思い浮かべていた……。
鎧の女は涙まじりで声をふり絞る。
「聖剣を手に入れたばっかりに、彼を喪うなんて……」
そして、血で汚れた男の胸板へと顔を沈めて叫んだ。
「あなた!魔法で時間が戻せるのでしょ!」
その悲痛な声は、処置室に大きく響かせられた……。
「魔法で戻せる時間には……」
言葉を詰まらせる黒衣の少女。
その時、うら若き女神官の肩が『ビクッ』と動いた。
「ここは?……私は何を……」
彼女はゆったりとした口調で、独り呟いている。
金髪の麗人に抱えられた青年は辺りを俯瞰するように、栗色の髪の隙間より虚無な目を覗かせていた……。
場所は代わり、無数の蝋燭が並ぶ部屋。
腕に巻き込んだ衣服で身を隠した男が、そこへ駆け込んできた。
自ら火を灯していく蝋燭に照らされる赤い絨毯。
それを囲むようにして、六体の異形の姿が立っていた……。
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