皇女たちがその喪失に打ちひしがれていた頃、異形の影がその姿を集結させていた……。
大司祭エヴァルールーの目の前。
そこには蝋燭の列に灯された階段があった。
彼は『桃色の筒』を両手でかざしながら、それを一段一段と昇っていった……。
その頃、最高指導者を欠いた神聖教会の幕屋群では、度重なる襲撃によって斃れた者たちへの弔いが行われていた。
下を向いて体を震わせる白銀の鎧姿。
立てる者は皆、墓標へと黙禱を捧げている。
黒衣の少女は神官が書を読み上げ祈りを捧げる中、静かにその場から離れた。
宿営の隅に掛けられた縦長の幕。
黒衣の少女はそれを手で捲り、中へと入る。
その奥では栗色の髪を前に垂らした体が、膝を抱え丸くなっていた……。
少女はその前で膝を屈めると語り始めた。
「ごめんなさい……私があの子に聖剣を奪えと言ったばっかりに……」
目の前のそれは微塵も動かない。
「私は……ここを発つわね……」
少女はそう言うと、青年の前に冴えない『兜』を置いた。
「どうやらこれには、あの上位悪魔たちに対抗出来る力が宿っているみたいなの……」
彼女は続ける……。
「でもこの力を使えば、その身が破滅に追いやられるかもしれない……」
そして少女は立ち上がる。
彼女は出口の帳を割って、振り返った。
「自分の運命に抗う覚悟が出来た時……それを使って……」
少女はそう言い残すと、去っていった……。
宿営所の脇に流れる細い水の道。
白銀の鎧を脱いで、その身を清める女……。
水をすくった手を、体の曲線へと滑らせる。
時折揺れる、張った胸。
その手が腕を撫でた時、彼女の脳裡に、放たれたアモンの言葉が響いた。
――初心者の訓練につき合わされるとは。
下を向いて唇を噛む女。
――このままでは、あのたてがみの悪魔に打ち克てない……。
その時、激しい吐き気が彼女を襲った。
「うぇっ……」
その躰が膝より崩れる。
見張りをしていた熟れた年頃の女神官が、その異変に気付いて駆け寄ってきた。
「皇女さま、どうなさいました!?」
女神官は身を屈めると、えずく裸体を支えた。
「失礼します!」
そう言って触診を始める女神官。
神官は皆、医学と呪詛の解呪を学び、それを修めているのである。
女神官は指で瞼を押し広げ、瞳孔を診る。
「これは……」
彼女は皇女の耳元へ何かを告げた……。
目を閉じる肌を晒す女。
「そう……」
彼女は静かに呟いた。
水際に置かれた青い果実。
露ぶくように水を付けるそれを、皇女はじっと見た……。
身を清めて、白い衣を纏う皇女。
彼女は二本の木剣を手に持ち、あるところへ向かっていた。
洗いたての髪が、歩みに合わせて綺麗な軌跡を描く。
彼女は、栗色の髪の青年の閉じこもる幕の前へと辿り着いた。
「入るわね……」
そう言って身を入れる女。
彼女は、石のように身を固める姿へと話し掛けた。
「あなたにお願いがあります……」
『ピクリ』と動く栗色の髪。
「私は、自分の剣技を失ってしまった……」
女は言葉を続ける。
「あなたには私の全てが教え込まれている……それを私の体に叩き込んで欲しいの!」
彼女は大きな声でそう告げると、木剣を青年に差し出した。
ゆっくりと顔を上げる青年。
彼は『フラリ』と立ち上がり、剣を握った……。
宿営より離れた所にある、所々を岩壁に囲まれた広い場所。
その真ん中で、師匠と弟子は向かい合った。
女は青年の前髪より覗く、濁った黒い瞳を見る。
――彼もあんな酷い目に遭った後……少々てかげ……。
彼女がそう思った瞬間。
青年の木剣が、とてつもない速さで女の右手を襲った……。
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