※この作品はR-18です。

厄災の魔窟 ―魔界の皇太子誕生―   作:裏の影

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 魔窟の奥で合流する黒と白の衣。

 その時皇女は弟子から、敗北の屈辱を味わわされていた……。


戦慄の厄魔

白い衣を纏う女の頬に垂れる、粘り気のある汁。

彼女は、眉間を寄せながらそれを拭う。

 

「はっ……はっ……」

息を整える栗色の髪の青年。

 

強い刺激臭を放つ狂気の体液が、女の瞳に沁みた……。

――彼はおかしくなってしまったの……!?

 

霞む目に映る青年。

彼は衣服を正すと、背を向けて手に持つ木の剣を地に捨てた……。

 

「待って……私にはまだ……」

女は遠ざかっていく背中へと、強い痛みを伴う手をかざした。

 

彼女の脳裏に言葉が浮かぶ。

――彼が聖剣を……。

 

しかし同時に、上に跳ねるたてがみのような頭髪が思考をよぎった。

 

――悪魔め!

女は地に着ける手を『グッ』と握った……。

 

明けっ放しの大きな扉の向こうには、瓶などのがらくたが散らかっているのが見える。

 

生臭さがほんのりと漂う部屋の中には、黒と白、二色の衣の姿があった……。

 

「ここは恐らく、あいつの研究室ね……」

 

黒衣の少女は目の前に垂らした長い箋(せん)をめくり、呟いた。

 

「大司祭さまは、数多くの器具を教会にもたらしました……」

白き聖衣を纏う、うら若き女神官が言った。

 

少女は紙の束を机に置いて返す。

「ああ……おじさんは私の一族の中で、何故か一人だけ魔法が使えなかったんだ……」

 

そして、足元に散らばる物を見ながら声を放った。

「それを補うため、出所不明のこれらを作ったんだろうね……」

 

二人が部屋を探っていると。

 

「ハハハハハハ……厶ハハハハ……」

人間の笑い声を真似た鳥が、部屋にある寝具の端で胸を反っていた。

 

「まあっ、賢い鳥ですね……」

女神官は目を丸くする。

 

「これは、オウムね……」

黒衣の少女がそう言うと、鳥は五色に彩られた翼をはためかせて、部屋の奥へと飛び立った。

 

『ドン!』という音を立てて壁に激突するオウム。

「イテテ、イテテ……」

 

「うん?」

黒衣の少女は壁面へと近づく。

そして、その覆いを捲った……。

 

見つけた抜け道を歩く二人。

 

女神官の腰裏に装備された、戦棍が揺れている。

 

道を抜け広い空洞に出ると、そこには司祭服を纏う、ふくよかな男がいた。

 

黒衣の少女は声を荒げる。

「お前!……碧眼の彼に何をしたの⁉」

 

目を細める男。

「ほほう、お前もあいつを……だが、もう手遅れだ!」

 

男が言葉を終えると、空間が所々で歪み出した。

 

二人の女子が、身を引いて構える。

 

徐々に具現化していく異形の姿。

 

「やっぱり、悪魔の手引きを……」

その光景を見て少女は唇を噛んだ……。

 

姿を完成させた、黒い革の衣服を纏う巨躯。

 

それらは、それぞれに名乗りを上げ始めた……。

 

「迫撃の先兵!ジートン!」

 

「王相!ジーノン!」

 

「雷の魔神、リーリーユサーマ!」

 

「玉園の守護者、エルーク……」

 

蒼い髪の少年が、涼やかに名乗った……。

「碩学の蒼い光……ルシェイル……」

 

そして、金色の逆立つ髪を振り上げ、白い顔が目を見開く。

 

「ワガハイは、大元帥アモン!」

 

二人の女子に被さる大きな影。

黒衣の少女は、唇の片端を引いた……。

 

魔窟に建てられた幕屋の中で、白銀の鎧を纏う女。

 

――まだ、あの恐怖が燻っている……。

包帯の巻かれた小指を見つめる皇女。

 

――でも……。

彼女は『蒼い果実』を背嚢にしまうと、隅に立てかけられた聖剣を手にした。

 

すると。

 

血相を変えた熟れた年頃の女神官が入り口を捲る。

彼女は大声で言った。

「皇女さまは今、戦える状態ではございません!」

 

「これは、私がせねばならぬ事なのです!」

鎧の女はそう声を上げ、『ツカツカ』と歩き出した……。




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