※この作品はR-18です。

厄災の魔窟 ―魔界の皇太子誕生―   作:裏の影

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 壮年の男の機転により、リュートの弦を断った皇女。

 ルシェイルはその温情を跳ね除けられ、怒りを露わにした……。


集結する魔なるものたち

浅葱色の髪の頭上に空いた穴。

 

そこから涙型の白い物体が、ゆっくりと流れるように降りる。

 

その薄い胴体の上へと突き出る弦の張られた細長い板が、少年のような容姿を持つ悪魔の手に収められた。

 

「これが僕のメインさ……」

悪魔はそう言いながら、涙型の胴体から垂れる細帯を肩に掛ける。

そして長板の先端部分に配された六つのつまみを捻りながら、弦を一本一本鳴らし始めた。

 

「あれは何をしているの?」

白銀の鎧の女は小さく言った。

 

壮年の男が答える。

「弦楽器はああやって調律しねえと、その真価を発揮できねぇんだ……」

 

彼は腰裏の双刀に手を掛け

「だから今のうちに殺らねえとなっ!」

と声を上げながら刃を素早く投げた。

 

曲線を描きながら飛ぶ二本の回転刀。

 

「Dm(ディーマイナー)……」

悪魔はそう呟くと、その身に抱えた白の胴体へ右手を素早く振り下ろした。

 

すると彼の幼い顔面に赤と黒の模様が浮き上がる。

そして開かれた大扉より、魔の大音量が放たれた。

 

弾かれる双刀。

 

木製のリュートの時とは比べ物にならない音圧が、鎧の女たちを吹き飛ばした……。

 

同じ頃、岩壁の空洞の片隅では、黒衣の少女が魔物たちに囲まれて横たわっていた。

 

「ううぅぅぅっ……」

 

呻く少女を覗き込む怪異たち。

 

少女の平坦な躰を包む黒い衣は刺激臭を放ち、魔蟲の淫液で汚されていた……。

 

少女は小さな手を前に出して言った……。

「杖を……」

 

緑の小鬼が持つ長い杖。

地に頭を付けるそれを、小鬼は少女へと差し出した。

 

杖のくびれを握る黒衣の少女。

 

「完全にしてやられた……」

彼女はそう呻きながら上体を起こすと、その場へと座り込んで脚を組んだ。

 

体格の異なる魔物たちは、互いに目を見合わせる。

 

「魔法力の回復には、多少時間を喰わねばならなさそうね……」

彼女はそう言うと、魔窟に抑揚のない詠唱を響かせ始めた……。

 

悪魔の和音によって吹き飛ばされた白銀の鎧の女。

彼女は暗い岩の天井を見させられていた。

 

その脳裏へと浮かぶ、金髪で長耳の姿……。

 

――やはり、音の攻撃を制する力が無いと、上位悪魔との戦いはきつそうですね……。

 

彼女はそう心で呟きながら、甲冑に包まれた体を起こす。

 

「皇女さま……ここは一時撤退しましょう……」

熟れた年頃の女神官は、唸るように声を出した。

 

「そうね……」

彼女は小さくそう返すと、壮年の男が声を上げた。

 

「なんだあれは⁉」

 

四つの黒い球体が浅葱色の髪の悪魔の前に現れ、その大きさを増していく。

 

「邪魔するな!これは、ボクの戦いだ!」

少年のような声が響かせられる中、それは徐々にその実体を表していった……。

 

立ち並ぶ黒い姿。

 

白銀の鎧の女はその一体を見て、全身の血液が沸騰するのを感じた。

 

女は吠える。

「お前は、エルーク!」

 

彼女はお腹に手を当て、聖剣を前へと突き出す。

 

剣で指された獅子のたてがみのような頭髪の姿は、言葉を返した。

「なぜ、俺の名を?」

 

鎧の女は声を荒げて放った。

「クーザーの仇!あなただけは、私が必ず殺す!」

 

エルークは首をかしげて言った。

「クーザー?ああっ……あの、半分折れた剣を大切そうに持っていた男か?」

 

鎧の女は悪魔より語られた名に、その肩を『ピクリ』と動かす。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

そして彼女は動悸を荒くしていった……。

 

それぞれ頭上に指で輪を描いていく異形の姿たち。

 

「こいつはかなり分が悪いぜ……」

壮年の男がそう言って鎧の女の腕を引く。

 

しかし皇女は、その手を『サッ』と振り払った……。




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