撤退を考えた皇女の前に、仇であるエルークが現れた……。
大扉の前に集結した五体の黒い姿。
逆立てられた頭髪に、頬へと稲妻の模様を浮かべる魔人。
天へと突き上げられた両手には、一撃で鋼鉄をも砕きそうな硬鞭(こうべん)が握られている。
頭上に二本の角を立て、口の裂けたような両端を見せる大鬼。
その大きな図体で、地に突き刺さりそうなほどの広さの大斧を構えている。
そしてその真ん中では、金色の髪を逆立て、青い縁取りを目の周りに浮かべる悪魔が立っていた……。
白銀の鎧の女は、その名を確認するように心で呟いた。
――確かあいつは『アモン』……そして、そこにいるのは……。
鎧の女はその視線を、獅子のたてがみのような頭髪へと移動させる……。
その、剣のように先を尖らせた顔の模様。
長身の悪魔は、長い剣を構えた……。
「エルークぅぅぅっ!」
鎧の女は仇の名を叫びながら、聖剣『ソリッドペネトレイター』を振りかぶって、エルークへと猛進した。
その粗い剣の軌道を軽くあしらう上位悪魔。
「なぜ俺に怒っているかは知らないが、それは俺の依り代であった、その虫がやった事だ……」
聖剣が空を斬った後、鎧の女の肩には『キリギリス』がへばり付いていた。
彼女は肩を素早く掃うと、声を震わせた。
「虫に……そうやってあの人のことを馬鹿に……」
「皇女さん!危ない!」
壮年の男が鎧の女へと突進する。
「きゃっ!」
『メキッ!』
倒された彼女の後ろで岩壁が大きく窪む。
浅葱色の髪の幼い容姿が、腹に据えた白い涙型の弦楽器へと右腕を振り下ろしていた。
「あなた!もう少し皇女さまの体を大切に扱いなさい!」
熟れた年頃の女神官から飛ぶ叱咤の声。
皇女は膝を付きながら、手をかざしその声を制する。
「自重せよ!」
金色の髪を逆立てる姿が、その厳かな声を上げた。
少年の姿の悪魔は横を向く。
アモンが高らかに言った。
「我らが皇太子へと、讃美歌を奉じる!」
上位悪魔たちは、それぞれの武器をその身に構えた……。
その頃、黒い革鎧に身を包んだ青年は、暗い道を一歩一歩と歩んでいた。
脇にはあの、黒い兜が抱えられている。
その道端には、身体を陥没させた魔物たちが横たわっていた。
血にまみれた拳。
青年は身を時折『くっ……』と屈ませながら、魔窟を突き進んだ……。
開かれた大きな扉の前では、金髪の先を尖らせた悪魔がその声を放ち、悪魔の叫びを上げていた。
「ン、ナアァァァァァッ!」
熟れた年頃の女神官が叫ぶ。
「皇女さま!あの声はお身体に障ります!」
たてがみの悪魔と対峙する白銀の鎧の女。
剣を合わせていた彼女は、一瞬その表情を歪めた。
――くっ!お腹に響く……。
空間を激しく打つ双鞭の音。
双角の大鬼は大斧から重低音を鳴らし、曲に添える。
「おっ、重い……立ってるのがやっとだ……」
壮年の男が背を屈めて呻いた。
重ねられていく音。
そこにルシェイルの、その容姿からは想像できない、力強く鋭い伴奏の繰り返しが乗せられた。
「なっ、何が始まろうとしているの!」
鎧の女の口から、薄っすらと赤い線が流れる。
隙を突いて身を引くエルーク。
悪魔は剣を構えなおし、邪悪な旋律を奏で始めた。
そして、金色の髪を逆立てた悪魔がその歌声を披露する。
三人の人間は口から鮮血を噴き出し、辺りへとその不協和音を響かせた。
アモンの歌声が主への賛美と、悪魔の繁栄を歌い上げる。
「だめっ……立っていられない……」
地面へと突っ伏す三人。
その時、黒い革鎧を纏う姿が、地面を這うキリギリスを『メリッ』と踏みつぶした……。
評価をぜひっ、お願いします!