※この作品はR-18です。

厄災の魔窟 ―魔界の皇太子誕生―   作:裏の影

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 ルシェイルの攻撃に耐える三人。

 撤退を考えた皇女の前に、仇であるエルークが現れた……。


悪魔の賛美歌

大扉の前に集結した五体の黒い姿。

 

逆立てられた頭髪に、頬へと稲妻の模様を浮かべる魔人。

 

天へと突き上げられた両手には、一撃で鋼鉄をも砕きそうな硬鞭(こうべん)が握られている。

 

頭上に二本の角を立て、口の裂けたような両端を見せる大鬼。

 

その大きな図体で、地に突き刺さりそうなほどの広さの大斧を構えている。

 

そしてその真ん中では、金色の髪を逆立て、青い縁取りを目の周りに浮かべる悪魔が立っていた……。

 

白銀の鎧の女は、その名を確認するように心で呟いた。

――確かあいつは『アモン』……そして、そこにいるのは……。

 

鎧の女はその視線を、獅子のたてがみのような頭髪へと移動させる……。

 

その、剣のように先を尖らせた顔の模様。

 

長身の悪魔は、長い剣を構えた……。

 

「エルークぅぅぅっ!」

 

鎧の女は仇の名を叫びながら、聖剣『ソリッドペネトレイター』を振りかぶって、エルークへと猛進した。

 

その粗い剣の軌道を軽くあしらう上位悪魔。

 

「なぜ俺に怒っているかは知らないが、それは俺の依り代であった、その虫がやった事だ……」

 

聖剣が空を斬った後、鎧の女の肩には『キリギリス』がへばり付いていた。

 

彼女は肩を素早く掃うと、声を震わせた。

「虫に……そうやってあの人のことを馬鹿に……」

 

「皇女さん!危ない!」

壮年の男が鎧の女へと突進する。

 

「きゃっ!」

 

『メキッ!』

倒された彼女の後ろで岩壁が大きく窪む。

 

浅葱色の髪の幼い容姿が、腹に据えた白い涙型の弦楽器へと右腕を振り下ろしていた。

 

「あなた!もう少し皇女さまの体を大切に扱いなさい!」

熟れた年頃の女神官から飛ぶ叱咤の声。

 

皇女は膝を付きながら、手をかざしその声を制する。

 

「自重せよ!」

金色の髪を逆立てる姿が、その厳かな声を上げた。

 

少年の姿の悪魔は横を向く。

 

アモンが高らかに言った。

 

「我らが皇太子へと、讃美歌を奉じる!」

 

上位悪魔たちは、それぞれの武器をその身に構えた……。

 

その頃、黒い革鎧に身を包んだ青年は、暗い道を一歩一歩と歩んでいた。

 

脇にはあの、黒い兜が抱えられている。

 

その道端には、身体を陥没させた魔物たちが横たわっていた。

 

血にまみれた拳。

 

青年は身を時折『くっ……』と屈ませながら、魔窟を突き進んだ……。

 

開かれた大きな扉の前では、金髪の先を尖らせた悪魔がその声を放ち、悪魔の叫びを上げていた。

「ン、ナアァァァァァッ!」

 

熟れた年頃の女神官が叫ぶ。

「皇女さま!あの声はお身体に障ります!」

 

たてがみの悪魔と対峙する白銀の鎧の女。

剣を合わせていた彼女は、一瞬その表情を歪めた。

――くっ!お腹に響く……。

 

空間を激しく打つ双鞭の音。

双角の大鬼は大斧から重低音を鳴らし、曲に添える。

 

「おっ、重い……立ってるのがやっとだ……」

壮年の男が背を屈めて呻いた。

 

重ねられていく音。

 

そこにルシェイルの、その容姿からは想像できない、力強く鋭い伴奏の繰り返しが乗せられた。

 

「なっ、何が始まろうとしているの!」

鎧の女の口から、薄っすらと赤い線が流れる。

 

隙を突いて身を引くエルーク。

悪魔は剣を構えなおし、邪悪な旋律を奏で始めた。

 

そして、金色の髪を逆立てた悪魔がその歌声を披露する。

 

三人の人間は口から鮮血を噴き出し、辺りへとその不協和音を響かせた。

 

アモンの歌声が主への賛美と、悪魔の繁栄を歌い上げる。

 

「だめっ……立っていられない……」

地面へと突っ伏す三人。

 

その時、黒い革鎧を纏う姿が、地面を這うキリギリスを『メリッ』と踏みつぶした……。




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