その告げられた真実が、淡い期待の想いを完全に砕いた……。
寝具へと上体を伏せる白銀の鎧の女。
熟れた年頃の女神官はそれを抱き起こす。
「うえっ……」
鎧の女は口の隙間から白い粘液を、地面へと滴らせた。
「皇女さま、こちらを……」
女神官は細長い瓶の蓋を開け、中の黄金色の液体を鎧の女の口へと含ませる。
「んくっ……」
喉を鳴らす皇女。
――うえぇぇぇっ、苦い……。
口の中に残る粘るモノが、体内へと流し込まれていく。
「これで多少、傷ついた体が癒えていく筈です……」
女神官はそう言うと、主の上体を寝具へと寝かせた……。
目の周りをむくませた鎧の女。
その時。
「ミィウ……」
弦を弓で弾いたような金切り声が鳴る。
「何の用……」
鎧の女は、音が鳴った方へと目を向けて言った。
影より覗く、蒼い小さな獣……。
その縦長に伸びた瞳孔が細くなる。
皇女は吸い込まれるように、意識を遠のかせていった……。
――ここは……。
目を開ける鎧の女。
色とりどりの果実を実らせた、果樹園が目の前に広がる。
そこに浅葱色の髪の、白い薄衣を着た少年が立っていた……。
女は言った。
「ルシェイル……もう姿を偽らないのですね……」
少年は静かに口を開く。
「ここは王の庭園の中……僕は元々、ここで果実にリュートを奏でていたんだ……」
彼はそう言うと、木製の弦楽器を爪弾き始めた。
慌てて両手を耳へと近づける皇女。
「大丈夫……これは樹木たちに聴かせる曲だよ……」
少年はそう言いながら、優しい旋律を辺りへと響かせる。
するとそれに応えるように、甘い香りが漂い始めた……。
「なぜ私たちを襲うの⁉」
鎧の女は大声を少年へと浴びせる。
彼は答えた。
「言っただろう……ボクは果実さえ手に入ればいいのさ……」
少年は話を続ける。
「取り引きをしないかい?」
「取り引き……?」
そう言って身を引く女。
「君が『叡智の果実』を渡してくれたら、ボクはエルークを倒すための手引きをするよ……」
リュートの奏でる旋律と共に、それは告げられる……。
「エルークを倒す方が先……」
鎧の女はそう口ごもると、少年は彼女のお腹へと視線を向けて言った。
「わかった……キミにはあまり時間が残されてなさそうだからね……」
浅葱色の髪の悪魔が爪弾く手を止めると、皇女はその意識を取り戻していった……。
――はっ!
目を開ける鎧の女。
暗い部屋の隙間へと、蒼い小さな獣が『サッ』と身を潜らせる。
鎧の女は躰を起こし、獣を追った。
「皇女さま!お待ちください!」
女神官がその後へと続く。
壮年の男は部屋の中で立ち尽くす栗色の髪の青年を一瞥し、女たちの出て行った方へ走り出した……。
獣を追って狭い通路を行く三人。
白銀の鎧の女は、透明な球体がひしめき合う部屋へと出た。
「ここは……?」
球体を下から照らす光。
それは中で身を丸める、緑色の小さな体を透かしていた。
「あっちのは灰色……オークか?」
鎧の女の後ろで、壮年の男が呟いている。
その時、球体同士の隙間から、『ユラッ』と獅子のたてがみのような髪形がその姿を覗かせた。
「エルーク!」
目を吊り上げ素早く抜刀する鎧の女。
遭遇した上位悪魔は、すぐさま手に持つ長い剣を振り下ろし、鋭い旋律を女たちへと放った。
衝撃波を受ける球体群。
それらは『ビチョッ、ビチョッ』と液体をまき散らしながら次々と割れていく。
外へと放り出された小さな命たちは、その胎動を止めていった。
「後で『アモン』に叱られてしまうな……」
エルークは剣を斜めに下げたまま、そう呟いた……。
評価をぜひっ、お願いします!