※この作品はR-18です。

厄災の魔窟 ―魔界の皇太子誕生―   作:裏の影

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 熟れた年頃の女神官が青年へと放った言葉。

 その告げられた真実が、淡い期待の想いを完全に砕いた……。


悪魔との取り引き

寝具へと上体を伏せる白銀の鎧の女。

 

熟れた年頃の女神官はそれを抱き起こす。

 

「うえっ……」

鎧の女は口の隙間から白い粘液を、地面へと滴らせた。

 

「皇女さま、こちらを……」

女神官は細長い瓶の蓋を開け、中の黄金色の液体を鎧の女の口へと含ませる。

 

「んくっ……」

喉を鳴らす皇女。

 

――うえぇぇぇっ、苦い……。

口の中に残る粘るモノが、体内へと流し込まれていく。

 

「これで多少、傷ついた体が癒えていく筈です……」

女神官はそう言うと、主の上体を寝具へと寝かせた……。

 

目の周りをむくませた鎧の女。

 

その時。

 

「ミィウ……」

弦を弓で弾いたような金切り声が鳴る。

 

「何の用……」

鎧の女は、音が鳴った方へと目を向けて言った。

 

影より覗く、蒼い小さな獣……。

 

その縦長に伸びた瞳孔が細くなる。

 

皇女は吸い込まれるように、意識を遠のかせていった……。

 

――ここは……。

 

目を開ける鎧の女。

 

色とりどりの果実を実らせた、果樹園が目の前に広がる。

 

そこに浅葱色の髪の、白い薄衣を着た少年が立っていた……。

 

女は言った。

「ルシェイル……もう姿を偽らないのですね……」

 

少年は静かに口を開く。

「ここは王の庭園の中……僕は元々、ここで果実にリュートを奏でていたんだ……」

 

彼はそう言うと、木製の弦楽器を爪弾き始めた。

 

慌てて両手を耳へと近づける皇女。

 

「大丈夫……これは樹木たちに聴かせる曲だよ……」

少年はそう言いながら、優しい旋律を辺りへと響かせる。

 

するとそれに応えるように、甘い香りが漂い始めた……。

 

「なぜ私たちを襲うの⁉」

鎧の女は大声を少年へと浴びせる。

 

彼は答えた。

「言っただろう……ボクは果実さえ手に入ればいいのさ……」

 

少年は話を続ける。

「取り引きをしないかい?」

 

「取り引き……?」

そう言って身を引く女。

 

「君が『叡智の果実』を渡してくれたら、ボクはエルークを倒すための手引きをするよ……」

リュートの奏でる旋律と共に、それは告げられる……。

 

「エルークを倒す方が先……」

鎧の女はそう口ごもると、少年は彼女のお腹へと視線を向けて言った。

「わかった……キミにはあまり時間が残されてなさそうだからね……」

浅葱色の髪の悪魔が爪弾く手を止めると、皇女はその意識を取り戻していった……。

 

――はっ!

目を開ける鎧の女。

 

暗い部屋の隙間へと、蒼い小さな獣が『サッ』と身を潜らせる。

 

鎧の女は躰を起こし、獣を追った。

 

「皇女さま!お待ちください!」

女神官がその後へと続く。

 

壮年の男は部屋の中で立ち尽くす栗色の髪の青年を一瞥し、女たちの出て行った方へ走り出した……。

 

獣を追って狭い通路を行く三人。

 

白銀の鎧の女は、透明な球体がひしめき合う部屋へと出た。

 

「ここは……?」

 

球体を下から照らす光。

 

それは中で身を丸める、緑色の小さな体を透かしていた。

 

「あっちのは灰色……オークか?」

鎧の女の後ろで、壮年の男が呟いている。

 

その時、球体同士の隙間から、『ユラッ』と獅子のたてがみのような髪形がその姿を覗かせた。

 

「エルーク!」

目を吊り上げ素早く抜刀する鎧の女。

 

遭遇した上位悪魔は、すぐさま手に持つ長い剣を振り下ろし、鋭い旋律を女たちへと放った。

 

衝撃波を受ける球体群。

 

それらは『ビチョッ、ビチョッ』と液体をまき散らしながら次々と割れていく。

 

外へと放り出された小さな命たちは、その胎動を止めていった。

 

「後で『アモン』に叱られてしまうな……」

エルークは剣を斜めに下げたまま、そう呟いた……。




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