彼女はそこで、クーザーの仇『エルーク』と遭遇した……。
「なるほど……これなら剣の実力のみで勝負を付けることが出来るということか……」
たてがみのような頭髪の悪魔はそう言うと、唇の端を長く伸ばした……。
妖しく光る球体の中で育まれる魔物の胎児。
壮年の男はそれに背を付け、その身を隠していた。
「何だよ、この気色の悪い部屋は……」
『グチャッ』と言う音と共に、その背後で球体が割れる。
背中へとこびり付く粘液。
男は、「気ぃもちわりぃ……」と眉をひそめた。
壮年の男が振り返ると、長い剣を持つ獅子のたてがみのような頭髪が、その背後へと迫っていた。
「ひいっ!」
彼は素早く前を向き、足を踏み出す。
悪魔は目の下に、先の尖った模様を浮かび上がらせていた……。
「また割ってしまったな……」
異形の姿はそう呟き、うねる後ろ髪をなびかせる。
突き出された剣の先が、壮年の男の背へと迫った……。
その時。
『キン!』
刀身を弾く音。
「エルーク!私が相手よ!」
白銀の鎧の女が聖剣の刃を光らせて、たてがみの悪魔へと立ちふさがった……。
その頃、大扉の中の部屋では、栗色の髪の青年が寝具へと顔を伏せていた。
彼は朦朧とした表情で、その目の周りを腫らした顔を上げる。
すると、その背後に大斧を引っさげた、頭に二本の角を持つ大鬼がいた……。
「おっ、目を覚ましたようだな!」
その言葉に青年は返す。
「寝てる間に殺ればよかったのに……」
大鬼は、その大きな口を開けて快活に言った。
「お前を連れて来いと、エヴァルールーの奴に言われたんだよ!」
青年はその眉間を寄せて答えを示す。
「だよなあ!あいつは人間の分際で、俺に指図しやがるんだ!」
大柄な姿はそう言うと、肩に担いだ大斧を下げ、青年を指差して言葉を続けた。
「ここでお前を殺しちまえばお前の望みにも叶うし、あの野郎の言うことを聞かずに済む……名案だろ?」
栗色の髪の青年はゆっくりと身を起こす。
そして言った。
「好きにするがいいさ……」
その身を差し出す青年。
しかしその顔面には薄っすらと、模様が浮かび上がっていた……。
球体のひしめき合う空洞では、金属を打つ音が絶え間なく響かせられていた。
『キンキンキンキン……』
二つの体が球体の並ぶ隙間を素早く駆けながら、剣を切り結ぶ。
『これが、負けるという事だよ……』
白銀の鎧の女の脳裏には、栗色の髪の青年に放たれた言葉が響いていた。
口の中へと甦る、熱さを帯びた粘液の不快感。
彼女は背筋を『ヒヤッ』とさせる度に、その身のこなしを鋭くしていった……。
人間離れした速さで剣を激しく打ち合うさまを眺める、二つの姿。
「皇女さま……!」
何かを言いかけた熟れた年頃の女神官は、そのまま言葉を飲む。
その肩へと、壮年の男が手を置いた。
彼女はその手を強く握り、仇討ちを見守った……。
研ぎ澄まされていくその感覚。
彼女は、今まで到達しえなかった頂点を目指した。
――お願い!あともう少しなの……。
想いと共に撥ね上げられるその聖剣。
『カラーン』
それは悪魔の剣を弾き、地を跳ねさせた。
振り上げられた右手をそっと降ろすエルーク。
鎧の女は仇の方へと近づく……。
「おえっ……」
身を屈めてえづき出す皇女。
――くっ……こんな時に……。
その時。
「ン、ナァァァァァッ!」
甲高い金切り声が、場に乱入する。
後ろになびく皇女の長い髪。
次の瞬間、鎧の女は悪魔の衝撃波によってその身を後ろへと飛ばされた。
金色の髪を逆立て、腹に大きな赤い宝石を輝かせる姿が、球体群を背に現れた……。
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