取り戻した恐怖心によって悪魔の長剣を弾いた時、金髪を逆立てる悪魔の咆哮が襲った……。
魔窟に響く、不気味な高笑い。
黒ずくめの体はたてがみのような髪を流し、笑う姿へと顔を向け、その名を口にした。
「アモン……」
金髪を逆立てるその姿は、笑うのをやめる。
そして、
「欲とは時に、悪魔を凌ぐほど人間を研ぎ澄ます……実に面白いではないか……」
と仰々しく紡ぎ、
「あの男も吾輩の囁きに応え、次々と発明を生み出していたな……」
と、言葉を繋いだ……。
白銀の鎧の女は、聖剣の先で宣う姿を指し叫ぶ。
「言っている意味はわかりませんが、全ての元凶はあなただったのですね⁉」
金髪の悪魔は顎を上げ、見下ろし気味に言った。
「吾輩は少々言葉を与えたのみ……あとは人間たちが勝手に動き出した……」
鎧の女は、たてがみを蓄える姿を指して大声を上げた。
「あいつは……あの悪魔は私の大切な人を殺した!」
指された悪魔は、長い剣を拾い上げる。
そして静かに返した。
「武人が高みを目指し、殺り合うのは作法である……まさか、おのれだけが狩る側にいるとでも?」
「くっ……!」
歯を噛む女。
話の流れを遮るように、熟れた年頃の女神官が割って入った。
「皇女さま!悪魔の言葉に耳を貸してはなりません!」
アモンは呟く。
「神官か……」
そして悪魔は語り始めた……。
「魔物の欠片を集めれば、お前たちを性的に貪ることが出来る仕組み……それによって魔物の欠片は価値を持ち、人間同士で、欲による欲の取引が行われていった……」
――あいつは何を言っているの?
悪魔の難解な高説に眉間にシワを寄せる鎧の女。
女神官が目を見開いて肩を落とした。
「つまり……私たちはここで生み出される魔物と引き換えに、この躰を捧げさせられていたの……」
壮年の男が、彼女の肩へと手を置く。
「とんだ茶番だわ!」
と、その手を振り払う女神官。
白き聖衣の胸のしわが伸び、翼を広げた鳥の意匠が女の躰の線を高尚に飾る……。
アモンが壮年の男へと言葉を投げた。
「魔物を退治する度に富が手に入る……そして、それで装備を整え、さらなる深みへと挑んで行く……実に素晴らしい冒険遊戯だと思わないか、なあ?」
「俺は……」
下を向く壮年の男。
「よく解らないけど、とにかくあなた達を倒せば全ては解決すると言うことですね!」
鎧の女はそう言うと、聖剣を振り上げ金髪を逆立てる悪魔目掛けて地を蹴った……。
その頃、開け放たれた部屋の大扉。
そこから頭上に二本の角を持つ大鬼が、身をくの字にして飛び出して来た。
その腹には、黒色の兜を被った革鎧姿から突き出される右足が突き刺さっていた。
「ぐっ……!」
地面へと投げ出された大柄な姿が腹を押さえる。
扉の向こうには、柄の折れた大斧が見えていた……。
ゆっくりと近づく黒い兜。
それは声を低くして言った。
「親玉に会わせろ……」
「俺は王相……王に忠誠を誓う者……」
二本角の大鬼は端の長い口で呻くようにそう言った。
栗色を見せる兜の襟足が揺らめく。
黒ずくめの姿が宙を舞い、悪魔をその影で覆った。
革靴の両底で腹を踏みつけられる大柄な体。
「ぐえっ……」
大鬼は白目を剥いて声を上げた。
扉の向こうから黒ずくめの姿が、柄の折れた大斧を引っ提げて来た。
そしてその刃を、横たわる大鬼へと落とした……。
魔物を育む球体の空洞では、金髪を逆立てる悪魔を守るようにして、たてがみの悪魔がその長い剣を振るっていた。
「エルーク、ここは退くぞ!」
金髪の悪魔が、顔の模様を歪ませて言った。
空を斬る皇女の剣。
二体の悪魔は、そのまま闇へと消えていった……。
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