二人が殺し合っている頃、皇女はエヴァルールーへと聖剣を向けていた……。
土を固めて造られた、緩やかな階段。
その頂点には玉座があり、そこには、碧い瞳を持つ男児が鎮座していた……。
段を守るようにして、金色の髪を逆立て腹に赤い宝石を光らせる黒い姿と、獅子のたてがみのような頭髪を持つ黒き衣を纏う背の巨躯が『ユラリ』とそびえる。
「アモン!エルーク!」
二つの姿へと声を荒げる白銀の鎧の女。
金髪頭は天へと顔を上げて高笑いすると、女に言った。
「我らが主、玉座の間へようこそ……」
そして、指で部屋を囲む燭台を指し
「お前もあの蝋のような、燃え尽きカスにしてやろうか!」
と叫び声を上げた。
その言葉を合図とするかのように、エルークの体に斜めに構えられた長い剣が、邪悪な旋律を奏で出した。
禍々しい曲が流れる中、アモンは息を吸う。
「来る!」
鎧の女はそう言って聖剣を握りしめた。
歌われようとするその楽曲。
女が地面を蹴ろうとした、その時。
浅葱色の髪の少年が玉座の間に、その姿を現した……。
「ルシェイル!」
鎧の女は声を放つ。
その少年は腹の辺りに、木目調の弦楽器を構えていた。
指板を巧みに操る左指に、叩きつけるように振り下ろされる右手……。
彼の奏でる鋭い旋律が、悪魔の楽曲が発する攻撃性を相殺していた。
「ルシェイル……血迷ったか!」
金色の髪の悪魔が、浅葱色の髪の悪魔へと言葉を浴びせる。
弦をかき鳴らしながら彼は言った。
「ボクは、偽の王を認めない……」
アモンは玉座の男児を指差し、同胞へと声を上げた。
「見ろ!あの碧い瞳こそ、われらの主の証!」
「あれはただの操り人形だろ……?」
ルシェイルはそう返しながら、邪悪な旋律を打ち消していった……。
その頃、魔窟の長い坑道。
黒い虫の脚を裸体に絡ませた女と、黒き兜を被った革鎧の青年の対峙は、戦闘の硬直状態へと入っていた。
露出された女の股の隙間に侵入している虫の本体。
青年の兜の目庇(まびさし)より覗く漆黒の瞳が、それを見据えていた……。
女の胎内を突くように、その本体が『ヌルッ』と入り込んでいく。
「はあぁぁぁっ♡」
嬌声を上げ、白目を剥くうら若き女性。
その官能を支配する動きが止まると、女は革鎧の方へ向かって躰を前進させた。
足を『ジリッ』と地面へと擦り付けるようにして拳を構える黒い革鎧の青年。
彼は繰り出される拳を見切るように、右手で受け止めた。
押し付けられる拳骨が青年の手の平に食い込む……。
「こんなに近づいていいの?」
女はそう言うと、空いていた左拳で青年の頭部を襲った。
「ガッ!」
響く鈍い音。
「くっ……!」
青年は眉間を寄せて、膝を地面へと折る。
その上から被さるようにして、女は兜の一点を狙って殴打し始めた。
「これで、おしまいね!」
彼女は拳を振るい上げながら、大きく声を上げる。
そして
「これを破壊して、お前をエヴァルールーさまの元へと連れていくわ!」
と言って連打を続けた。
「ぐっ……」
唸り声を上げる青年。
彼の両手は彼女の股から這い出ている、虫の脚を掴んでいた。
青年は歯を噛んで、杭のように突き刺さったそれを引っ張る。
「はうぅぅぅっ……どちらが先に力尽きるか、勝負よ!」
女はそう言うと、拳の殴打で兜の表面を少しずつ窪ませていった……。
二人の泥臭い絡み合いを始める中、玉座の間では白銀の鎧の女がたてがみの悪魔へと、その華麗な剣技を振るっていた。
その隣では、熟れた年頃の女神官と金色の髪の悪魔が向かい合っていた。
悪魔の腹で大きな赤い宝石が、その妖しい光を放っていた……。
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