聖なる一撃が奇跡を呼んだ……。
「アモン!」
幾重にも積み重ねられた段の頂上で、司祭服のふくよかな男が声を上げた。
横へと薙ぐ格好で剣の柄を握る、熟れた年頃の女神官。
上位悪魔の首を刎ねた斬れ味は、まさに『聖剣』の持つそれであった……。
女神官はすぐさま振り返り、後ろにいる壮年の男へと言った。
「バカ……私なんかよりも、皇女さまの方が優先でしょ……」
膝から崩れる首を無くした黒の胴体。
その腹では赤い宝石が、妖しく光り輝いていた……。
『ドサッ』という音を立て異形の体が地に伏す。
女神官と壮年の男の二人は、すぐさま聖剣を届けるため白銀の鎧の女の元へと走った。
転がる悪魔の首がそれを眺めていた。
司祭服の男が、必死の様相で段を駆け降りる。
「させんぞ!」
彼は段の一番下まで降りると、その懐に隠した物を地面へと撒いた。
半円状に膨らむ、透明の姿。
壮年の男は腰を引いて声を上げた。
「げっ!スライム……!」
透明色の水玉が『プルプル』とその身を振るわせながら、二人の足元へと集まっていく。
「うわあぁぁぁっ!」
男の叫びが、魔窟の中に鳴り響いた……。
そこから少し離れた所。
白銀の鎧の女の目で浅葱色の髪の少年のような姿が、双剣を構えていた。
その顔には赤と黒の模様が浮かび、体の所々に斬られた跡が見える。
若いその姿は言った。
「流石は玉園のエルーク。見事な剣捌きだね……」
彼と対峙する、獅子のたてがみのような頭髪の姿が言葉を返す。
「ルシェイル……なぜ、人間なんぞに与する?」
たてがみの悪魔は長い剣を片手で斜めに下げ、少しづつ少年の容姿へと間合いを詰めていた。
ルシェイルは地に転がる、金髪の同胞の首を一瞥して言った。
「魔王の誕生……ボクはそのために動いているだけさ……」
「我らが主は、そこにおわせられるではないか!」
そう言って半身を引くエルーク。
その幾重にも重なる段上では、男児が玉座へと座していた。
「ふっ……」
ルシェイルは浅葱色の髪を揺らし、微笑を見せた……。
その頃暗い坑道では、二人の女性がそれぞれの衣服を掴み上げ、その身へ纏い直していた。
女は股に張り付く魔蟲をそのままにして、黒い衣でそれを覆い隠した。
白き聖衣を整えたうら若き女は、黒い衣の女に尋ねた。
「あなた、その容姿は……」
黒衣の女は間を開けてから、語り始めた……。
「魔蟲に奪われてしまった魔法力を回復するには長い時間が必要……だから私は、自分の体の時間を早めて、回復時間を縮めた……」
女は少女の面影を残す顔に笑顔を作って言った。
「これからは、『霪影の魔女』って名乗らないとね!」
「そう……」
聖衣のうら若き女はそう言って少し額を下げると、自らもその正体を語りだした。
「私も、あなたと同じ魔法使いの血筋……」
彼女は下腹部に手を当て、話を続けた。
「エヴァルールーの放った魔蟲にその身を捕らえられ、今まで別の人格を植え付けられていた……」
白と黒、二色の衣。
彼女たちは顔を見合わせる。
黒衣の女が言った。
「私たちは、あの男に大きな借りを返さないといけないみたいね……」
黒衣の女が持つ杖の先に魔法の明かりが灯されると、二人は魔窟のさらなる奥を目指して歩き始めた……。
小さくなっていく二つの背中。
その時、栗色の髪の青年が頭を『ピクリ』と動かした。
青年は頭を抱えながら、片膝を突いてその場に身を起こした。
そして赤く染まった額を拭い、目を細める。
遠くに見える小さな光……。
彼はゆっくりと立ち上がり、『ヨロヨロ』と光を追って歩き出した……。
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