現れたうら若き女神官は、光る手で壮年の男に纏わりつくスライムを取り除き、その窮地を救った……。
『ゴン!』
「いてっ!」
熟れた年頃の女神官のげんこつが壮年の男の頭頂部に下されると、魔窟に男の悲鳴が響かせられた。
それはさておき……。
黒衣の女は身長ほどの木の杖を前へとかざす。
そして、口もとで抑揚のない詠唱を紡ぎ始めた。
司祭服を纏う、ふくよかな男が言った。
「なるほど……禁忌の法を用いたか……。お前のその成長した体を見れば、兄上はさぞかしお喜びになるであろうな……」
黒衣の女は少し歯噛みをすると、その言葉に応えるよう、杖を振りかざしてつづら折りの閃光を雷鳴と共に男へと放った。
ふくよかな男は両手を前にかざして目を瞑る。
しかしその魔法の稲妻は、肌の色を見せる腕で跳ね除けるように打ち消された。
司祭服の男の前で立つ、一糸纏わぬ青年の姿。
「『聖降の碧眼』……あなたが、『魔界の皇太子』ね……」
黒衣の女はその端正な顔を崩すことなく、そう言ってから『ゴクリ』と喉を鳴らす。
「さすが!私と御子の子……よくぞ防いだ」
司祭服の男は緊張した表情を崩し、そう言った。
碧眼の青年はその下半身へと、凶暴な魔力を『ビンビン』にたぎらせていた……。
浅葱色の髪の、少年のような姿の悪魔を追い詰める激しい剣捌き。
獅子のたてがみのような髪型を蓄える、黒ずくめの長身が、長い剣で少年のような未熟な胸を裂く。
黒い生地を飛び散らせ開く胸元。
そこから何かがこぼれ落ちる。
『ドッ……』
音を立てて、蒼い果実が地面へと落ちた……。
たてがみの姿は静かに言った。
「叡智の果実、遂に見つけた……」
胸を押さえ地に膝を突く、浅葱色の髪の少年。
その顔の模様が薄くなっていく……。
長身の悪魔は手を伸ばし、地に転がる果実へと掴みかかった。
「これは、人間には余りにもゼイタクだ……」
悪魔がそう言って穏やかな表情を見せた時、黒い飛沫と共に何かが宙を舞った。
「エルーク!今こそ仇を!」
鳴り響く女の声。
片手で聖剣を斬り上げて、白銀の女が残心する。
たてがみの悪魔が、呻くように声を上げた。
「俺としたことが、抜かったか……」
庇うように左腕を『ダラリ』と垂らす鎧の女。
その重さに剣を降ろし、『ザクッ』と地を貫く音を聞かせる。
「どうやら、お前も片腕をやられているようだな……」
そう言って片手で長剣を構えるたてがみの悪魔。
「皇女さま!」
熟れた年頃の女神官が声を上げ、駆け寄ろうとした。
しかし鎧の女は首を横に振ると、長い髪を前へと垂らし、地に刺さる聖剣を抜いた。
「こいつだけは、私が仕留めます……」
そう言って鎧の女がたてがみの髪へと向かい合った時。
『サッ』
ひと息の瞬間、彼女の横を通り過ぎる風……。
たてがみの悪魔の腹へと別の黒ずくめの姿が、伸ばした脚を槍のように突き刺していた。
「ぐはっ!」
身をくの字に折って乱れる悪魔の髪。
黒ずくめの姿は足を引いて姿勢を整える。
その綺麗な栗色の髪を下ろす姿に、多くの声が上がった。
「あなた!」
「お前!」
「御子!」
「新たなる主!」
さまざまな呼び名を浴びる栗色の髪の青年。
彼は手刀を作る。
そしてたてがみの下の首を、横一文字に薙いだ。
「ダメっ!」
大きく響かせられる鎧の女の声。
静止の声も虚しく、青い隈取りの白い顔が『ゴロリ』と落ちる。
青年は背を向けたまま、手刀を横へと伸ばしていた。
彼は腕を下ろすと、鎧の女の方へと振り返った。
「あなた……その顔!?」
声を震わせる皇女。
青年の栗色の髪の下には、悪魔の隈取りが浮かび上がっていた……。
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