オレ様っ娘な相棒(ドラゴン)は、エロ本なんかに負けたくない!〜共に世界を救った二人が、人生のパートナーになるまで〜 作:APP3
初投稿です。
「いっけぇえ! レッドラグーン!!」
「任せろ、ダイチ! さぁ世界よ、オレ様の息吹をたんと喰らうがいい!!」
強靭な鱗に守られた巨体が、天をも覆い隠す大翼によって浮かび上がる。
鋭く尖った牙が並ぶ口を開き、そこから赤の奔流が噴き出す。
その赤の奔流が、地上の全てを包み込むはずだった、死臭漂う黒の霧を全て呑み込んだ。
──小学校生活最後の夏休み、少年は、無二の相棒と幼馴染達と共に、世界を救った。
そして時は経ち──
『おかえりダイチ!』
「た、ただいま……ドラグーン」
ダイチは、真っ赤に燃える、炎のような髪を腰まで伸ばした少女に出迎えられていた。
『お風呂も沸かしておいたし、ご飯の準備もしておいたぞ!』
「ありがとな……って、ちょっと近いって!」
──鋭く太い爪も牙も、空を覆う程の翼もどこへやら。
艶めかしい肌色を惜しげもなく晒したレッドラグーンは、ダイチに抱き着く。
鱗で隠した控えめな双丘を、抱き着いた腕に押し付ける。
ふんわりと潰れる胸の感触が腕に伝わり、振り払おうとしていたダイチの動きが思わず止まってしまう。
『ほらっ、風呂に入るだろう? さぁさぁオレ様と一緒に入るぞ!』
「引っ張んなって! おい!」
炎を宿した真紅の瞳がダイチを映す。
あの時から変わらない、人懐っこくも甘えたレッドラグーンの眼。
あぁ、一体どうしてこんなことになってしまったのか。
グイグイと引っ張られるダイチは、すべてが狂い始めた数日前の、平和だった朝を思い出していた。
◯────
呑気にパンをかじりながら、面白くもないニュースを見る。
本日は晴天、夜には雷雨。
傘は持っていかなくてもいいかなんて考えていた時、テレビの右端に映った時間を見て──ダイチの体が跳ねた。
「やべっ、もうこんな時間だ! 行くぞドラグーン!」
そんなダイチの近くをふよふよと浮いていた、真っ赤な鱗を身に纏った小さな竜、レッドラグーン。
小さな翼と両手足で伸びをし、溜息をついた。
『ダイチ、送っていくのはいいが、ここ最近時間にルーズすぎるぞ?』
「へへっ、ごめんごめん」
『はぁ……まぁいい。気を付けて乗れよ?』
共にベランダへ出ると、1Lのペットボトルほどの大きさだったレッドラグーンの体がみるみるうちに巨大化し、あの時と変わらぬ尊大な竜の姿へと戻った。
ダイチはベランダから飛び降り、レッドラグーンの手に乗り移る。
ダイチが乗ったことを確認したレッドラグーンは、大翼をはためかせ、一気に急上昇し、街が一望できる高さまで上がった。
「うーん! 今日も平和だな」
『あぁそうだとも。これがオレ様達が守った景色だ! おっと、こうしている場合じゃないな。しっかり捕まっておけよ!』
ダイチは振り落とされないように、レッドラグーンの指に手を回す。
そして、一気に加速し始める世界。
橙色の髪を揺らすダイチから、自然と笑みが溢れた。
──あの日から三年。
世界の命運を握った戦いも、今では遠い出来事。
陽ノ下大地は今日も、相棒のレッドラグーンと共に、平和な日常を過ごしていた。
「今日も助かったぜ、ドラグーン!」
『毎度毎度世話の焼けるヤツだな。いってらっしゃい。頑張ってこいよ!』
「おう!」
レッドラグーンに見送られ、学校の近くで降ろしてもらったダイチは、部活動で鍛えた脚力であっという間に校門を通過した。
玄関へと着き、靴を即座に履き替え、階段を駆け上る。
「間に合え、間に合え!」
今にも教室に入ろうとしていた担任の横を、スライディングの要領で滑り込み入室。
──キーンコーンカーンコーン。
「ギリギリセーフ!」
「アウトだ馬鹿者」
チャイムが鳴る中、ガッツポーズをかましたダイチの頭に、ポコリと軽い衝撃が走る。
叩かれた頭を擦りながら、ダイチは振り向くと、教科書を丸めてポンポンと叩く担任の姿があった。
「廊下は走るなと何度も言っているだろう? ほら、早く座れ」
「すんませーん」
リュックを降ろしながらいつもの窓際の席に向かい、重いリュックを机の横に引っ掛けた。
担任の朝礼の長ったらしい話を聞き流しながら、次の科目の準備をしていると、トントンと肩をつつかれる。
「おはよう大地」
「おっ。おはよう湊」
窓から吹き込む風に揺られる青髪に、朝日を受けてキラリと光る丸眼鏡。
ダイチの幼稚園の頃からの親友、蒼井湊だ。
小学六年生最後の夏、彼とあと一人、転校してしまった親友の三人で世界を救ったのは今はいい思い出だ。
「おいダイチ───"例のアレ"、もう読んだか?」
湊はダイチの耳元に顔を近付け、声を潜めながら尋ねる。
"例のアレ"。
その単語を聞いた瞬間、ダイチの頬は真っ赤に染まった。
「まっ、まだだよまだ!」
「できれば早めに読んで欲しいんだよね。兄貴に黙って借りてるからさ」
「わかってるって。でもよ……」
「あぁ、なるほど。レッドラグーンか」
例のアレ。俗に言う成人雑誌だ。
湊から半ば押し付けられた形ではあるが、興味が無いわけではない。
だがしかし、家の中、どこに行くにもレッドラグーンが側にいる為、開くことがままならないのだ。
「まぁしょうがないよな。"契約"してたらコレの中にいてもらえるのによ」
そう言って、湊は自身の左手首をトントンと叩く。
腕時計のような、それでいてどこか子供の玩具のような腕輪。
「俺とドラグーンは友達だし。契約とかそういう堅苦しいのはなんか嫌なんだよなぁ」
「そこ! うるさいぞ!!」
「「すんませーん」」
担任にビシッと教卓から指を指された二人は、適当に謝り、授業へと意識を向けるのであった。
「ただいまぁー」
『おかえりダイチ!』
部活動が終わり、ヘトヘトになりながら帰宅したダイチ。
そんなダイチを玄関にて、お玉を小さな手で抱えたレッドラグーンが出迎えた。
『風呂、沸かせておいたぞ!』
「いつもいつもありがとな。一緒に入ろうぜ!」
レッドラグーンを抱きかかえ、荷物をそのまま放り出し、風呂場へと直行するダイチ。
汚れたユニフォームを脱ぎ、洗濯機に放り込む。ついでに溜まっていた洗濯物も突っ込み、スイッチを押した。
ガタガタと動き出す洗濯機の駆動音を背後に、レッドラグーンと共に風呂に入る。
「ふぃー……極楽極楽」
『ダイチ。今日の学校はどうだったのだ?』
浴槽に浸かり、だらけきったダイチに、プラスチックの風呂桶に浸かるレッドラグーンが、尻尾で湯をパシャパシャしながら問いかける。
今日何があったのか、一通り記憶を辿っていくと、
"例のアレ"
何故かそれが、頭をよぎった。
「……普通だよ普通。別になーんにもなかったよ…………あっそうだ! 今日の給食が冷凍みかんでさー──」
頭を振り、変な邪念を払う。
こうやって部活終わり、レッドラグーンと共に風呂に入り、今日あった出来事について語る時間。
小学生の頃より、一緒にいる時間が短くなってしまった二人にとって、とても大切な時間だった。
◯────
「うん、うん。わかってるってば。それに、ドラグーンもいるからさ。そんな心配しなくても大丈夫だって! うん、母さんも仕事頑張って!」
エアコンと扇風機の音が轟々と響く涼しいリビング。
母との電話が終わり、ダイチはソファの上で伸びをする。
母が作り置いてくれたご飯を食べ、今日出た学校の課題も既に終わらせた。
扇風機の前で『あ~』と声を震わせ遊ぶレッドラグーンを横目に、ダイチはちらりと立てかけてある時計に目をやる。
「ドラグーン、俺はそろそろ寝るよ」
『あ~、あ? 今日は随分と早いな?』
「明日朝練だからな」
『そうだったな! 良し、寝よう寝よう』
カチリと扇風機の電源を切ったレッドラグーンは、ふわふわとダイチの元へと飛んでいき、頭の上に身体を預ける。
ずっしりとした確かな質量がダイチの髪を散らした。
──レッドラグーンの言う通り、明日朝練があるにしても、普通ならまだ寝ない時間だ。
レッドラグーンを落とさないように片手で支えながら自室へと入り、自身のベッドに体を預ける。
レッドラグーンはダイチの頭から飛び立つと、部屋の電源の元へと飛ぶ。
『じゃ、電気消すからな』
電気が消され、豆電球の淡い暖色の光が、部屋を薄く彩る。
高鳴る胸を抑えながら、ダイチは目を瞑り少しすると、ダイチの枕元が少し揺れた。
レッドラグーンがいつもの定位置に来たのだろう。
『おやすみダイチ』
「おやすみドラグーン」
耳元でレッドラグーンが囁き、ダイチも返事を返す。
いつもならこのまま睡魔によって意識を手放しているだろう。
しかし、今のダイチは、遠足前日の夜か、あるいは激しい運動後かのように眠れなかった。
まぶたを薄く開け、豆電球のぼんやりとした光を見つめる。
レッドラグーンは目を瞑ればすぐにでも寝てしまうし、一度寝てしまえばちょっとやそっとのことでは起きやしない。
──例のアレを読むなら、このタイミングしかない。
どうするかと考えを巡らせていると、数分もしない内に規則正しい呼吸音が聞こえ始めた。
レッドラグーンの寝息に乱れがないことを確認した後、ゆっくりと体を起こす。
大福のようにもちもちとした腹を上に向け、涎を垂らして眠るレッドラグーンの姿を見て胸を撫で下ろした。
なるべく音を立てないように、ゆっくりとベッドから降り、ベッドの下に手を突っ込む。
「……あった」
パラッと指先に紙の質感を感じ、そのまま掴み出す。
豆電球の光が手に取った本の表紙を照らすと、布面積の少ない水着を着た綺麗な女性が、扇情的なポーズを取っている姿が目に映る。
ゴクリと唾を飲み込む音が、無音の部屋に響く。
ダイチは立ち上がり、抜き足差し足忍び足、雑誌を脇に挟み、部屋から出ようとノブを回そうと手を伸ばしたその時──
──ゴロゴロドッシャーン。
窓から差し込む閃光と共に、雷鳴が轟いた。
激しい雨が屋根を叩く乾いた音が、静かな夜を塗りつぶしていく。
『うぅ……ダイチ……』
すると、先程まで気持ちよさそうに寝ていたレッドラグーンが、うなされ始めた。
「…………はぁ。仕方ないな」
ダイチは脇に挟んでいた雑誌を"勉強机の上"に置き、ベッドへと戻る。
「大丈夫だぞドラグーン。──俺が絶対助けるから」
うなされるレッドラグーンを抱きかかえ、そのまま布団へと潜り込み、背中を撫でる。
ひんやりとして、ツルツルとした硬い鱗。
詰め替えたばかりの、柑橘系のボディソープの香り。
いつもは強くてカッコいい、頼りになる親友。
ダイチはあくびを噛み殺しながら、レッドラグーンが落ち着くまで、何度も何度も撫で続けた。
◯───
「で、結局読めたのかよ?」
机に突っ伏すダイチ。そんな様子のダイチに、湊の呆れた声が掛かる。
「思いっきり寝落ちしました」
「頼むぜぇ、早く返しとかねぇと面倒なことになるからさ」
「それはもう重々承知してます……」
レッドラグーンを撫でながら寝落ちしてしまったダイチ。
正直布団に入り直した時点で嫌な予感はしていた。
抗い切れなかった自分が憎いと、突っ伏したまま『あー』と、やり場の無い怒りを声に乗せる。
「おっ、もうこんな時間だ。次は理科室に移動だぞ」
「……先行っててくれ」
「早く来いよー」
湊の声が遠ざかると、ダイチはむっくりと体を起こす。
窓から入る日光に目を細めながら、移動教室に向けての準備を始める。
──そういえば、何か忘れてるような気が。
変な予感が頭をよぎると同時に、ブルリと背筋が震える。
窓から見える太陽はあんなにも照っているにも関わらず、肌寒さを感じてしまう。
──キーンコーンカーンコーン。
「やべっ」
しかし、そんな予感は、予鈴の音によってかき消されていった。
『さてと、まずは部屋の片付けだな!』
ダイチを見送った後、レッドラグーンはダイチの部屋へと向かう。
ダイチのいない間、ダイチの負担を減らしてやろうと家事をする。
それが、精霊界で"孤高の竜"と恐れられていたレッドラグーンの、ダイチ不在時の過ごし方だ。
『んっ、これは?』
部屋へと入り、ベッドメイキングでもしようかとしたその時────勉強机の上に置かれた本へと、レッドラグーンの視線が注がれた。