オレ様っ娘な相棒(ドラゴン)は、エロ本なんかに負けたくない!〜共に世界を救った二人が、人生のパートナーになるまで〜 作:APP3
「こっちだ大地! フリー!」
「おう!」
走って、蹴って。
「いただきまーす!」
『おかわりもあるからいっぱい食べろよ!』
ご飯を食べて、寝る。
全ては大会に勝ち進むため、毎日毎日全力で、走り続けた。
そして当日。
俺は──
「骨は大丈夫でした。打撲ですね」
──病院で診察を受けていた。
「……試合には、戻れそうですか?」
「その腫れ上がった足ではねぇ。私の口からは大丈夫だとは言えないですよ」
「来週はどうですか……? 今回が最後の試合で……何とか出たいんです!!」
「んー……痛み止めは出しておくんで。私の口からは安静にして下さいとしか言えないので、自己判断に任せますよ」
「はい……ありがとうございます」
診察が終わり待合室のソファに、貸し出された松葉杖を突きながら座る。
混み合った待合室の物音がどんどん遠くなっていく感覚。
視界が歪み、鼻の奥がツンとしてくる。
──油断だった。
あの時、あの瞬間。チームメイトのパスから流れるような二点目のゴールを決めた後。
高揚感と全能感に満ちたあの瞬間、気が付かなかったのだ。
背後から滑り込んでくる敵チームの選手に。
あの時、足から響いた鈍い音が耳から離れない。
早く戻りたい。
早く結果が知りたい。
二点の差があったんだ。
大丈夫。自分がいなくてもチームメイトが何とかしてくれる。
「……大丈夫? 大地君」
聞き慣れた声が、遠ざかっていた意識を引き戻す。
顔を上げると、付き添いで来てくれた真琴雅の姿があった。
「お会計は先生が済ませてくれたから。後、先生が大地君のお母さんに連絡してくれたみたいで、迎えに来てくれるって」
ずきりと胸が痛む。
足の痛みなんか比べ物にならない程の痛みだ。
「……ありがと、雅ちゃん」
「あの、その……足は大丈夫そう?」
「うん、大丈夫大丈夫。骨も折れてないみたいだし、次の試合には出れるってさ!」
「……その事なんだけどね……その、さっき連絡があったんだけど」
何とか笑顔を作るダイチだったが、気まずそうな雅の表情を見て固まってしまう。
「……三対二で負けたって」
──何かが砕ける音がした。
「そっか。そっかぁ…………ちくしょー! 俺がいたらまだまだ点、決めてたのになぁ! まじで申し訳ねぇー!」
「……だ、大地君?」
「雅ちゃんもまじでごめん! 決勝まで連れていけなくて!」
分からない。分からない、分からない。
自分の気持ちも、自分が今何を言っているのかも。
何もかも分かりたくない。
「はぁ……それにしても、三点も返されたのかぁ……ほんと──」
──俺がいなきゃダメなんだな!
そう言い放とうとした時、
"ダイチ!"
ここにはいない、真っ赤な竜が見えた気がした。
「──雅ちゃん。もう、大丈夫だから。先生と一緒に戻っていいよ」
「でも…………そうだ! 荷物とか持つの、たっ、大変でしょ? 大地君のお母さんが来るまで待ってるよ! 先生にはそう連絡しておくし──」
「ごめん……ちょっと一人に、して欲しいんだ」
「──ッ!! その、ごめんね……」
いそいそと荷物をまとめ、その場を後にする雅の後ろ姿を見つめる。
本当に最低だ。
心配してくれたのに、冷たくあしらってしまった。
それでも、これ以上誰かに、こんな姿を見られたくなかったのだ。
「……クソっ、くそっ、くそ……」
流水のように溢れるダイチの罵倒は、待合室のテレビの音と共に流れていった。
◯───
「大地。足、どうなの?」
「病院の先生が言うには打撲だって。骨が折れてなくてほんとよかったよ」
「そう……」
降り始めた雨がボンネットに当たる音と、ワイパーの忙しなく動く音が車内に響く。
助手席に座るダイチは、窓から流れる外の景色を見つめる。
「…………今からどこかに食べに行こっか。お腹空いたでしょ」
「いいよ別に。家でドラグーンが待ってるし」
「なら……出前でも取ろうか? 大地の好きなもの、何でも頼んでいいのよ」
母のどこか気を使った声が、カッチカッチと、ウィンカーの音と重なり合う。
「気にしなくていいよ。それに、仕事、忙しいんでしょ」
「そんな事、今は気にしなくていいのよ。遠慮しないで」
「だったら──"時計"、そんなに見ないでよ」
隣の母が息を呑む。
さっきからずっとそうだ。
車に付いた時計に視線が行ったり来たり。
別に、時計を見てるわけじゃなかったのかもしれない。
それでも、そう見えてしまったのだ。
黙り込んでしまった母。
図星だったのだろうか。
それがどうであれ、何でもいい。
もう耐えられない。
「そろそろだし、この辺で降ろしてくれて大丈夫だよ」
「大地……」
車が路側に寄せられ、停まる。
鞄を斜め掛けし、松葉杖を突きながら傘をさす。
「……本当に大丈夫なの?」
「平気平気! ありがと、忙しい中迎えに来てくれて。じゃっ、お仕事頑張ってね」
「………………ごめんね、大地」
母の車が走り去っていく所を見送り、見えなくなった後、自宅へと向かう。
傘を叩く雨音が五月蝿い。
傘をさしているはずなのに、頬に伝う水滴は止まらない。
拭いても拭いても流れてくる水滴と松葉杖が煩わしい。
────あぁ、もう。何もかも大っきらいだ。
「ただいま」
やけに大きく響く、扉を開く音。
壁に手をやり、バランスを取りながら靴を脱ぐ。
『おかえりダイチ! どーだったのだ試合は──って、どうしたのだ、その足は!』
リビングから顔を覗かせたレッドラグーン。
未だに慣れないものの、安心する笑みを向けてくれたが、直ぐに顔を強張らせてしまった。
「試合中コケちゃってさ。いやぁ参った参った」
心配そうに駆けてきたレッドラグーン。
ダイチは何とか取り繕う為、適当におちゃらける。
『ダイチ』
「まだ行けるって言ったのに、監督が大事を取って交代だってさ。結果ウチのチームの負け! まじで悔しい!」
『──ダイチ!!』
「…………なんだよ」
なんなんだよ。
なんでそんな目で見るんだよ。
そんな目で見られたら、俺、俺。
『ダイチ』
雨によって冷え切った体が、急に温まる。
気が付けば、レッドラグーンに抱き締められていた。
「やめろよ……濡れちゃうからさ」
背中に回される手の力が強まる。
「やめてくれ…………離れてくれ……じゃないと、じゃないと……」
更に腕の強まる力。
レッドラグーンの温もりが、体全体に広がっていく。
──冷え切っていた口元が動き出す。
「俺、俺……! 俺が油断したせいで負けちゃった!!」
叫ぶ。
「俺のせいなのに、俺のせいなのに! チームメイトが悪いって、一瞬でも思っちゃったんだ!」
叫ぶ。
「マネージャーの子にも八つ当たりして、母さんにまでも酷いこと言っちゃって!! 母さんだって大変なのに!」
叫ぶ。
滝のように流れ落ちていく想い。
決して表に出してはいけないと、押し殺していたモノが一気に流れ出す。
レッドラグーンは、何も言わなかった。
何も言わず、ただ、ダイチを抱き締め続けた。
雨が晴れるまで、ずっと。