※この作品はR-18です。

オレ様っ娘な相棒(ドラゴン)は、エロ本なんかに負けたくない!〜共に世界を救った二人が、人生のパートナーになるまで〜   作:APP3

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第十話 隣で傘をさす、君の肩は濡れていて

「こっちだ大地! フリー!」

 

「おう!」 

 

 

 走って、蹴って。

 

 

「いただきまーす!」

 

『おかわりもあるからいっぱい食べろよ!』

 

 

 ご飯を食べて、寝る。

 

 全ては大会に勝ち進むため、毎日毎日全力で、走り続けた。

 

 そして当日。

 俺は──

 

 

「骨は大丈夫でした。打撲ですね」

 

 

 ──病院で診察を受けていた。

 

 

「……試合には、戻れそうですか?」

 

「その腫れ上がった足ではねぇ。私の口からは大丈夫だとは言えないですよ」

 

「来週はどうですか……? 今回が最後の試合で……何とか出たいんです!!」

 

「んー……痛み止めは出しておくんで。私の口からは安静にして下さいとしか言えないので、自己判断に任せますよ」

 

「はい……ありがとうございます」

 

 

 診察が終わり待合室のソファに、貸し出された松葉杖を突きながら座る。

 

 混み合った待合室の物音がどんどん遠くなっていく感覚。

 視界が歪み、鼻の奥がツンとしてくる。

 

 ──油断だった。

 あの時、あの瞬間。チームメイトのパスから流れるような二点目のゴールを決めた後。

 高揚感と全能感に満ちたあの瞬間、気が付かなかったのだ。

 背後から滑り込んでくる敵チームの選手に。

 

 あの時、足から響いた鈍い音が耳から離れない。

 

 早く戻りたい。

 早く結果が知りたい。

 

 二点の差があったんだ。

 大丈夫。自分がいなくてもチームメイトが何とかしてくれる。

 

 

「……大丈夫? 大地君」 

 

 

 聞き慣れた声が、遠ざかっていた意識を引き戻す。

 顔を上げると、付き添いで来てくれた真琴雅の姿があった。

 

 

「お会計は先生が済ませてくれたから。後、先生が大地君のお母さんに連絡してくれたみたいで、迎えに来てくれるって」

 

 

 ずきりと胸が痛む。

 足の痛みなんか比べ物にならない程の痛みだ。

 

 

「……ありがと、雅ちゃん」

 

「あの、その……足は大丈夫そう?」

 

「うん、大丈夫大丈夫。骨も折れてないみたいだし、次の試合には出れるってさ!」

 

「……その事なんだけどね……その、さっき連絡があったんだけど」

 

 

 何とか笑顔を作るダイチだったが、気まずそうな雅の表情を見て固まってしまう。

 

 

「……三対二で負けたって」

 

 

 ──何かが砕ける音がした。

 

  

「そっか。そっかぁ…………ちくしょー! 俺がいたらまだまだ点、決めてたのになぁ! まじで申し訳ねぇー!」

 

「……だ、大地君?」

 

「雅ちゃんもまじでごめん! 決勝まで連れていけなくて!」

 

 

 分からない。分からない、分からない。

 

 自分の気持ちも、自分が今何を言っているのかも。

 

 何もかも分かりたくない。

 

 

「はぁ……それにしても、三点も返されたのかぁ……ほんと──」

 

 

 ──俺がいなきゃダメなんだな!

 

 そう言い放とうとした時、

 

 "ダイチ!"

 

 ここにはいない、真っ赤な竜が見えた気がした。

 

 

「──雅ちゃん。もう、大丈夫だから。先生と一緒に戻っていいよ」

 

「でも…………そうだ! 荷物とか持つの、たっ、大変でしょ? 大地君のお母さんが来るまで待ってるよ! 先生にはそう連絡しておくし──」

 

「ごめん……ちょっと一人に、して欲しいんだ」

 

「──ッ!! その、ごめんね……」

 

 

 いそいそと荷物をまとめ、その場を後にする雅の後ろ姿を見つめる。

 

 本当に最低だ。

 心配してくれたのに、冷たくあしらってしまった。

 それでも、これ以上誰かに、こんな姿を見られたくなかったのだ。

 

 

「……クソっ、くそっ、くそ……」

 

 

 流水のように溢れるダイチの罵倒は、待合室のテレビの音と共に流れていった。

 

 

◯───

 

 

「大地。足、どうなの?」

 

「病院の先生が言うには打撲だって。骨が折れてなくてほんとよかったよ」

 

「そう……」

 

 

 降り始めた雨がボンネットに当たる音と、ワイパーの忙しなく動く音が車内に響く。

 

 助手席に座るダイチは、窓から流れる外の景色を見つめる。

 

 

「…………今からどこかに食べに行こっか。お腹空いたでしょ」

 

「いいよ別に。家でドラグーンが待ってるし」

 

「なら……出前でも取ろうか? 大地の好きなもの、何でも頼んでいいのよ」

 

 

 母のどこか気を使った声が、カッチカッチと、ウィンカーの音と重なり合う。

 

 

「気にしなくていいよ。それに、仕事、忙しいんでしょ」

 

「そんな事、今は気にしなくていいのよ。遠慮しないで」

 

「だったら──"時計"、そんなに見ないでよ」

 

 隣の母が息を呑む。

 

 さっきからずっとそうだ。

 車に付いた時計に視線が行ったり来たり。

 

 別に、時計を見てるわけじゃなかったのかもしれない。

 それでも、そう見えてしまったのだ。

 

 黙り込んでしまった母。 

 図星だったのだろうか。

 それがどうであれ、何でもいい。 

 

 もう耐えられない。

 

 

「そろそろだし、この辺で降ろしてくれて大丈夫だよ」

 

「大地……」

 

 

 車が路側に寄せられ、停まる。

 鞄を斜め掛けし、松葉杖を突きながら傘をさす。

 

 

「……本当に大丈夫なの?」

 

「平気平気! ありがと、忙しい中迎えに来てくれて。じゃっ、お仕事頑張ってね」

 

「………………ごめんね、大地」 

 

 

 母の車が走り去っていく所を見送り、見えなくなった後、自宅へと向かう。

 

 傘を叩く雨音が五月蝿い。

 傘をさしているはずなのに、頬に伝う水滴は止まらない。

 拭いても拭いても流れてくる水滴と松葉杖が煩わしい。

 

 ────あぁ、もう。何もかも大っきらいだ。

 

  

 

 

 

 

「ただいま」

 

 やけに大きく響く、扉を開く音。

 壁に手をやり、バランスを取りながら靴を脱ぐ。

 

 

『おかえりダイチ! どーだったのだ試合は──って、どうしたのだ、その足は!』

 

 

 リビングから顔を覗かせたレッドラグーン。

 未だに慣れないものの、安心する笑みを向けてくれたが、直ぐに顔を強張らせてしまった。

 

 

「試合中コケちゃってさ。いやぁ参った参った」

 

 

 心配そうに駆けてきたレッドラグーン。

 ダイチは何とか取り繕う為、適当におちゃらける。

 

 

『ダイチ』

 

「まだ行けるって言ったのに、監督が大事を取って交代だってさ。結果ウチのチームの負け! まじで悔しい!」

 

『──ダイチ!!』

 

「…………なんだよ」

 

 

 なんなんだよ。

 なんでそんな目で見るんだよ。

 

 そんな目で見られたら、俺、俺。

 

 

『ダイチ』

 

 

 雨によって冷え切った体が、急に温まる。

 気が付けば、レッドラグーンに抱き締められていた。

 

 

「やめろよ……濡れちゃうからさ」

 

 

 背中に回される手の力が強まる。

 

 

「やめてくれ…………離れてくれ……じゃないと、じゃないと……」

 

 

 更に腕の強まる力。

 レッドラグーンの温もりが、体全体に広がっていく。

 

 ──冷え切っていた口元が動き出す。

 

 

「俺、俺……! 俺が油断したせいで負けちゃった!!」 

 

 

 叫ぶ。

 

 

「俺のせいなのに、俺のせいなのに! チームメイトが悪いって、一瞬でも思っちゃったんだ!」

 

 

 叫ぶ。

 

 

「マネージャーの子にも八つ当たりして、母さんにまでも酷いこと言っちゃって!! 母さんだって大変なのに!」

 

 

 叫ぶ。

 

 

 滝のように流れ落ちていく想い。

 決して表に出してはいけないと、押し殺していたモノが一気に流れ出す。

 

 レッドラグーンは、何も言わなかった。

 何も言わず、ただ、ダイチを抱き締め続けた。

 

 雨が晴れるまで、ずっと。

 

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