※この作品はR-18です。

オレ様っ娘な相棒(ドラゴン)は、エロ本なんかに負けたくない!〜共に世界を救った二人が、人生のパートナーになるまで〜   作:APP3

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第十一話 だったら二人で濡れていたい

『ご飯の準備するから、ちょっと待っててくれ』

 

 

 あの後、介護されながらシャワーを浴び、今はソファで濡れた髪を乾かしていた。

 

 カチャカチャと食器を取り出す音が聞こえる。

 

 

 ──誰にも見られたくなかった、格好悪く、情けない姿を見せてしまった。

 

 でも、レッドラグーンは何も言ってこなかった。

 ただいつも通りの笑顔を向けてくるだけだった。

 

 

『準備できたぞー』

 

 

 背後から声が掛かると共に、レッドラグーンはお盆を持ってソファ前のテーブルに夕飯を並べ始める。

 

 彩りの良いサラダに、艶のあるふっくらしたお米。

 そして、形は不格好ながらも、食欲を誘う匂いを立たせるハンバーグ。 

 

 

『ほら。ぼーっとしてないで食べようではないか! いただきます!』

 

「いただきます……」

 

 

 二人で手を合わせた後、箸を手に取る。

 箸でハンバーグを一口サイズに割り、口に運ぶ。

 

 

『今日は色々と本を読んで、ハンバーグを作ってみたのだが……どうだ?』

 

「……美味しいよ」

 

『ホントか!? ……少し心配だったのだ。焼くときに形が崩れてしまってな』

 

 

 頬を緩ますレッドラグーン。

 そんなレッドラグーンの皿の方に目をやると、その皿には形が崩れ、グズグズになったハンバーグが載せられていた。

 

 

『どーした? 冷めないうちに早く食べるのだぞ』

 

 

 レッドラグーンに促され、目線を自身の皿へと戻し、もう一度ハンバーグを口に運ぶ。

 

 一口運べば運ぶほど、冷え切っていた胸が、温まっていくのが分かる。

 

 

『いい食いっぷりだな。作った甲斐があったものだ!』

 

 

 気が付けば、レッドラグーンの作ってくれたご飯をかきこむように食べ、口の中がいっぱいになっていた。

 

 

『しっかり噛んで食べるんだぞ』

 

「むぐむぐ」

 

『ふふっ。分かった分かった。ゆっくり、ゆっくり。喉をつまらせたら危ないからな?』

 

 

 何度も咀嚼し、口の中のものがなくなったと同時に、冷えた麦茶の入ったコップが手元に置かれた。 

 

 

「ありがと、ドラグーン」

 

 

 コップを手に取り、一息付く。

 レッドラグーンの方を見ると、目が合った。

 

 いつもと変わらない、温かな瞳だ。

 

 

『なぁダイチ』 

  

 

 いつも通りの、レッドラグーンの声がダイチに向けられる。

 

 

『──オレ様には、弱い所を見せてもいいんだぞ』

 

 

 そうして続けられた言葉は、ダイチの心臓を跳ね上がらせた。

 

 

『オレ様はダイチじゃないから、ダイチの気持ちは分からない。でもな、オレ様はダイチがどれだけ頑張ってきたのか知ってるぞ』

 

 

 コップを握る手に、自然と力が籠もる。

 

 

『どれだけカッコ悪くてもいい。どれだけ見栄を張ったっていい。オレ様は、本当のダイチを見てきてるから』

 

 

 視界が霞む。

 レッドラグーンの顔がまともに見れない。

 

『全部全部知ってるから。だから、ダイチは気にせず────オレ様に甘えればいいんだ』

 

 

 いつの間にかレッドラグーンはダイチの背後へと回り、ダイチを抱き締めていた。

 

 着古し、ガサついたジャージの下から、レッドラグーンの温もりが伝わってくる。

 

 

『前にも言っただろう? オレ様はどんなダイチでも受け入れるって。どんなダイチでも、友達であり、家族であることは絶対に変わることはないのだから』

 

 

 レッドラグーンの囁きが耳に入ってくる度、意識が遠退いて行くような、脳が溶けていくような感覚を覚えてしまう。

 

 

「ドラ……グーン…………」

 

『オレ様が絶対に守ってやるから。オレ様の前では肩肘張らず、ありのままのダイチを見せてくれ。なっ?』

 

 

 そう言って、レッドラグーンは首筋に顔を埋め、唇を軽く押し当てた。

 

 乾いたリップ音が耳元に残る。

 

 

『さっ、ご飯の続きだ。食べ終わったらすぐ寝よう! 気分が下がってる時は寝るに限るからな!』

 

 

 レッドラグーンはダイチの背後から自分の食器の前へと戻ると、いそいそと食べ始める。

 

 

「……あぁ。そうだな」

 

 

 ダイチは首筋に残った感触を名残惜しむように、サラリと撫でた。

 

 

◯────

 

 

 疲れ果て、眠りにつくダイチの頭を撫でつける。

 パラパラときめ細かい髪の感触が手に広がった。

 

 ダイチが横たわるベッドに腰を掛けたレッドラグーン。

 

 何度も、何度も、ダイチの頭を優しく撫でていると、

 

 

『──あはっ』

 

 

 思わず笑みが溢れた。

 

 手に入らなかったモノが、手に入るはずがないと思っていたモノが、自分から転がり込んできたのだ。

 

 ダイチが、今まで以上に自分を求めてくれている。

 ダイチが大切にしてきたものが崩れ、いまや自分だけにその感情を向けようとしてくれる。

 

 それが面白くて仕方がない。

 

 何故誰もこの子を見ようとしないのか。

 何故誰もこの子に寄り添おうとしないのか。

 

 実の母でさえこれなのだ。

 誰がこの子を救えるのだ。

 

 オレ様だ。オレ様しかいない。

 

   

 ダイチを撫でる手が止まる。

 

 ────ふざけるな。

 この子がどれだけ頑張っているのか。

 この子がどれだけ大人になろうと、我慢しているのか。

 

 誰も見ちゃいないし、誰も分かろうともしない。

 本当に、あまりにも愚かで、滑稽で、笑ってしまいそうだ。

 

 オレ様だけだ。

 オレ様だけが、ダイチを見てあげることができるのだ。

 オレ様"しか"、ダイチを見ている者がいないのだ。

 

 だったら、オレ様がダイチの全てを赦そう。

 

 周りの者たちが、この世界の全てが、ダイチがダイチであることを赦さないのであれば、オレ様だけがダイチはダイチであると証明しよう。

 

 だから──

 

 

『──安心して、オレ様と共に生きよう。なぁ、ダイチ』

 

 

 

 

◯────

 

 

『おはようダイチ。お寝坊さんだな』

 

 

 目を覚ますと隣には、こちらを見つめながら、自分と同じようにベッドに横たわるレッドラグーンがいた。

 

 

「……おはよう」

 

『ふふっ。今日は休みだろう? どうする? 二度寝でもするか?』

 

「ありかも……」

 

『じゃあ寝るか。ちょっと寄るぞ』

 

「……おう」

 

 

 レッドラグーンの腕と足がダイチに絡まる。

 

 

『暖かいな』

 

「暑いの間違いだろ……」

 

 

 エアコンの切れた自室では流石に暑く感じたため、絡まるレッドラグーンから抜け出し、ベッドから"立ち上がる"と、エアコンのリモコンを操作する。

 

 

「あれっ」

 

 

 足元を見るダイチ。

 足に巻いてあったギプスが無くなり、足の腫れも引いている。

 

 

『どーしたのだ? ダイチ』

 

「いや、足の怪我が……」

 

『ん? 何の話だ?』

 

「えっ? いや、怪我しただろ? 大会の時に。昨日その話もドラグーンにしたし。介護までしてもらってさ」

 

『大会? 何の話をしているのだ。そんなことより──』

 

「──うわっ」

 

 

 レッドラグーンに手を引っ張られ、ベッドに倒れ込む。

 そして、レッドラグーンはダイチに跨った。

 

 

『──えっち、しようではないか』

 

「へっ?」

 

 

 レッドラグーンはダイチのパジャマに手を伸ばすと、器用な手つきでボタンを外していく。

 

 

「ちょっ、ちょっと! 待ってくれ!」

 

 

 ダイチの制止を聞かず、ボタンをどんどん外していくレッドラグーン。あっという間にボタンを全て外され、ダイチの上半身が晒される。

 

 

「ストップ! ストップ!! 話を聞いてくれ!」

 

『むぅ。何かあったのか?』

 

 

 不満気な顔を見せながらも、手を止め、ダイチを見下ろすレッドラグーン。

 

 

「怪我! したはずなのに無くなってんだよ! 本当に何も覚えてないのか?」

 

『ダイチ……本当にどうしたのだ?』

 

「大会で負けて、色々と慰めてくれただろ? その時、足の怪我の介護で、お風呂も一緒に入っただろ!?」

 

『んー。よく分からないが──どうでもいいだろう? そんなこと』

 

 

 ──はっ?

 

 

『ダイチは何も考えず、ただ、オレ様に甘えればいいのだ。オレ様はどーんなダイチでも、受け入れてやるから』

 

 

 事も無げに、さらりと言い放ったレッドラグーン。

 

 嫌な汗が首筋を伝う。

 

 

『大会だとか、友達だとか、母親だとか。オレ様がいればいらないだろう? だってオレ様が、その全てを満たせてやれるのだぞ?』

 

 

 屈託のない笑顔を向けてくるレッドラグーンの顔をしたナニカ。

 

 

『ダイチはなーんにもしなくていい。オレ様が全部全部、面倒見てやるからな!』

 

 

 ──その顔で、それ以上しゃべるな。

 

 

「なぁ、ドラグーン。昨日のハンバーグ、美味しかったよ」

 

『?』

 

「ありがとな。俺の方に、綺麗に焼けたハンバーグをよそってくれて」

 

『ダイチ?』

 

「俺のために勉強してくれたんだよな? 勉強して作ってくれたんだよな? 努力して作ったんだよな!?」

 

 

 自身に跨るレッドラグーンの顔をしたナニカを突き飛ばす。

 そして、ベッドの上で立ち上がり、呆然とした顔を浮かべるナニカに指を突き出す。

 

 

「今お前が俺に言った、どーでもいいってのは、それを否定してんだよ!」

 

「アイツは……ドラグーンは! 絶対に、ぜぇったいに! そんなこと言わねぇ!!」

 

「俺は、ドラグーンと友達なんだ! 親友なんだ!! 家族なんだ!!」

 

「だから俺は! どんだけカッコ悪くて、情けなくても!! アイツに甘えたとしても!! 絶対に寄りかからねぇ!!」

 

「対等でなくちゃいけないんだよ!!」

 

 

 目の前の偽物は俯き、ベッドシーツをクシャリと握る。

 

 

『いいのか? 辛いことばかりだぞ? 嫌なことばかりだぞ? 誰もダイチを──"俺"の事を見てくれないんだぞ?』

 

 

 レッドラグーンの姿が瞬きしたと同時に変わる。

 雨に濡れ、ギプスを巻いた、"自分自身の姿"へと。

 

 

「違う。ちゃんと見てくれてるんだよ。レッドラグーンは勿論、母さんもちゃんと。じゃないと昨日、迎えに来てくれるはずも無かったんだ」

 

『……』

 

「まぁ自分自身、本当にそうか? って今も思っちゃうけどさ。でもそれは当たり前なんだって、昨日ドラグーンが教えてくれたんだ。だから俺は、迎えに来てくれた母さんを信じるって決めた!」

 

 

 突き出した指を引っ込め、ずぶ濡れの自分に手を差し伸べる。

 

 

「俺は負けない。ドラグーンの隣に立つために! だから、一緒に行こう!」

 

 

 ずぶ濡れのダイチに差し伸べられた手。

 目の前の"自分"は、何度か視線を行き来させた後──その手を取った。

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