オレ様っ娘な相棒(ドラゴン)は、エロ本なんかに負けたくない!〜共に世界を救った二人が、人生のパートナーになるまで〜 作:APP3
『ご飯の準備するから、ちょっと待っててくれ』
あの後、介護されながらシャワーを浴び、今はソファで濡れた髪を乾かしていた。
カチャカチャと食器を取り出す音が聞こえる。
──誰にも見られたくなかった、格好悪く、情けない姿を見せてしまった。
でも、レッドラグーンは何も言ってこなかった。
ただいつも通りの笑顔を向けてくるだけだった。
『準備できたぞー』
背後から声が掛かると共に、レッドラグーンはお盆を持ってソファ前のテーブルに夕飯を並べ始める。
彩りの良いサラダに、艶のあるふっくらしたお米。
そして、形は不格好ながらも、食欲を誘う匂いを立たせるハンバーグ。
『ほら。ぼーっとしてないで食べようではないか! いただきます!』
「いただきます……」
二人で手を合わせた後、箸を手に取る。
箸でハンバーグを一口サイズに割り、口に運ぶ。
『今日は色々と本を読んで、ハンバーグを作ってみたのだが……どうだ?』
「……美味しいよ」
『ホントか!? ……少し心配だったのだ。焼くときに形が崩れてしまってな』
頬を緩ますレッドラグーン。
そんなレッドラグーンの皿の方に目をやると、その皿には形が崩れ、グズグズになったハンバーグが載せられていた。
『どーした? 冷めないうちに早く食べるのだぞ』
レッドラグーンに促され、目線を自身の皿へと戻し、もう一度ハンバーグを口に運ぶ。
一口運べば運ぶほど、冷え切っていた胸が、温まっていくのが分かる。
『いい食いっぷりだな。作った甲斐があったものだ!』
気が付けば、レッドラグーンの作ってくれたご飯をかきこむように食べ、口の中がいっぱいになっていた。
『しっかり噛んで食べるんだぞ』
「むぐむぐ」
『ふふっ。分かった分かった。ゆっくり、ゆっくり。喉をつまらせたら危ないからな?』
何度も咀嚼し、口の中のものがなくなったと同時に、冷えた麦茶の入ったコップが手元に置かれた。
「ありがと、ドラグーン」
コップを手に取り、一息付く。
レッドラグーンの方を見ると、目が合った。
いつもと変わらない、温かな瞳だ。
『なぁダイチ』
いつも通りの、レッドラグーンの声がダイチに向けられる。
『──オレ様には、弱い所を見せてもいいんだぞ』
そうして続けられた言葉は、ダイチの心臓を跳ね上がらせた。
『オレ様はダイチじゃないから、ダイチの気持ちは分からない。でもな、オレ様はダイチがどれだけ頑張ってきたのか知ってるぞ』
コップを握る手に、自然と力が籠もる。
『どれだけカッコ悪くてもいい。どれだけ見栄を張ったっていい。オレ様は、本当のダイチを見てきてるから』
視界が霞む。
レッドラグーンの顔がまともに見れない。
『全部全部知ってるから。だから、ダイチは気にせず────オレ様に甘えればいいんだ』
いつの間にかレッドラグーンはダイチの背後へと回り、ダイチを抱き締めていた。
着古し、ガサついたジャージの下から、レッドラグーンの温もりが伝わってくる。
『前にも言っただろう? オレ様はどんなダイチでも受け入れるって。どんなダイチでも、友達であり、家族であることは絶対に変わることはないのだから』
レッドラグーンの囁きが耳に入ってくる度、意識が遠退いて行くような、脳が溶けていくような感覚を覚えてしまう。
「ドラ……グーン…………」
『オレ様が絶対に守ってやるから。オレ様の前では肩肘張らず、ありのままのダイチを見せてくれ。なっ?』
そう言って、レッドラグーンは首筋に顔を埋め、唇を軽く押し当てた。
乾いたリップ音が耳元に残る。
『さっ、ご飯の続きだ。食べ終わったらすぐ寝よう! 気分が下がってる時は寝るに限るからな!』
レッドラグーンはダイチの背後から自分の食器の前へと戻ると、いそいそと食べ始める。
「……あぁ。そうだな」
ダイチは首筋に残った感触を名残惜しむように、サラリと撫でた。
◯────
疲れ果て、眠りにつくダイチの頭を撫でつける。
パラパラときめ細かい髪の感触が手に広がった。
ダイチが横たわるベッドに腰を掛けたレッドラグーン。
何度も、何度も、ダイチの頭を優しく撫でていると、
『──あはっ』
思わず笑みが溢れた。
手に入らなかったモノが、手に入るはずがないと思っていたモノが、自分から転がり込んできたのだ。
ダイチが、今まで以上に自分を求めてくれている。
ダイチが大切にしてきたものが崩れ、いまや自分だけにその感情を向けようとしてくれる。
それが面白くて仕方がない。
何故誰もこの子を見ようとしないのか。
何故誰もこの子に寄り添おうとしないのか。
実の母でさえこれなのだ。
誰がこの子を救えるのだ。
オレ様だ。オレ様しかいない。
ダイチを撫でる手が止まる。
────ふざけるな。
この子がどれだけ頑張っているのか。
この子がどれだけ大人になろうと、我慢しているのか。
誰も見ちゃいないし、誰も分かろうともしない。
本当に、あまりにも愚かで、滑稽で、笑ってしまいそうだ。
オレ様だけだ。
オレ様だけが、ダイチを見てあげることができるのだ。
オレ様"しか"、ダイチを見ている者がいないのだ。
だったら、オレ様がダイチの全てを赦そう。
周りの者たちが、この世界の全てが、ダイチがダイチであることを赦さないのであれば、オレ様だけがダイチはダイチであると証明しよう。
だから──
『──安心して、オレ様と共に生きよう。なぁ、ダイチ』
◯────
『おはようダイチ。お寝坊さんだな』
目を覚ますと隣には、こちらを見つめながら、自分と同じようにベッドに横たわるレッドラグーンがいた。
「……おはよう」
『ふふっ。今日は休みだろう? どうする? 二度寝でもするか?』
「ありかも……」
『じゃあ寝るか。ちょっと寄るぞ』
「……おう」
レッドラグーンの腕と足がダイチに絡まる。
『暖かいな』
「暑いの間違いだろ……」
エアコンの切れた自室では流石に暑く感じたため、絡まるレッドラグーンから抜け出し、ベッドから"立ち上がる"と、エアコンのリモコンを操作する。
「あれっ」
足元を見るダイチ。
足に巻いてあったギプスが無くなり、足の腫れも引いている。
『どーしたのだ? ダイチ』
「いや、足の怪我が……」
『ん? 何の話だ?』
「えっ? いや、怪我しただろ? 大会の時に。昨日その話もドラグーンにしたし。介護までしてもらってさ」
『大会? 何の話をしているのだ。そんなことより──』
「──うわっ」
レッドラグーンに手を引っ張られ、ベッドに倒れ込む。
そして、レッドラグーンはダイチに跨った。
『──えっち、しようではないか』
「へっ?」
レッドラグーンはダイチのパジャマに手を伸ばすと、器用な手つきでボタンを外していく。
「ちょっ、ちょっと! 待ってくれ!」
ダイチの制止を聞かず、ボタンをどんどん外していくレッドラグーン。あっという間にボタンを全て外され、ダイチの上半身が晒される。
「ストップ! ストップ!! 話を聞いてくれ!」
『むぅ。何かあったのか?』
不満気な顔を見せながらも、手を止め、ダイチを見下ろすレッドラグーン。
「怪我! したはずなのに無くなってんだよ! 本当に何も覚えてないのか?」
『ダイチ……本当にどうしたのだ?』
「大会で負けて、色々と慰めてくれただろ? その時、足の怪我の介護で、お風呂も一緒に入っただろ!?」
『んー。よく分からないが──どうでもいいだろう? そんなこと』
──はっ?
『ダイチは何も考えず、ただ、オレ様に甘えればいいのだ。オレ様はどーんなダイチでも、受け入れてやるから』
事も無げに、さらりと言い放ったレッドラグーン。
嫌な汗が首筋を伝う。
『大会だとか、友達だとか、母親だとか。オレ様がいればいらないだろう? だってオレ様が、その全てを満たせてやれるのだぞ?』
屈託のない笑顔を向けてくるレッドラグーンの顔をしたナニカ。
『ダイチはなーんにもしなくていい。オレ様が全部全部、面倒見てやるからな!』
──その顔で、それ以上しゃべるな。
「なぁ、ドラグーン。昨日のハンバーグ、美味しかったよ」
『?』
「ありがとな。俺の方に、綺麗に焼けたハンバーグをよそってくれて」
『ダイチ?』
「俺のために勉強してくれたんだよな? 勉強して作ってくれたんだよな? 努力して作ったんだよな!?」
自身に跨るレッドラグーンの顔をしたナニカを突き飛ばす。
そして、ベッドの上で立ち上がり、呆然とした顔を浮かべるナニカに指を突き出す。
「今お前が俺に言った、どーでもいいってのは、それを否定してんだよ!」
「アイツは……ドラグーンは! 絶対に、ぜぇったいに! そんなこと言わねぇ!!」
「俺は、ドラグーンと友達なんだ! 親友なんだ!! 家族なんだ!!」
「だから俺は! どんだけカッコ悪くて、情けなくても!! アイツに甘えたとしても!! 絶対に寄りかからねぇ!!」
「対等でなくちゃいけないんだよ!!」
目の前の偽物は俯き、ベッドシーツをクシャリと握る。
『いいのか? 辛いことばかりだぞ? 嫌なことばかりだぞ? 誰もダイチを──"俺"の事を見てくれないんだぞ?』
レッドラグーンの姿が瞬きしたと同時に変わる。
雨に濡れ、ギプスを巻いた、"自分自身の姿"へと。
「違う。ちゃんと見てくれてるんだよ。レッドラグーンは勿論、母さんもちゃんと。じゃないと昨日、迎えに来てくれるはずも無かったんだ」
『……』
「まぁ自分自身、本当にそうか? って今も思っちゃうけどさ。でもそれは当たり前なんだって、昨日ドラグーンが教えてくれたんだ。だから俺は、迎えに来てくれた母さんを信じるって決めた!」
突き出した指を引っ込め、ずぶ濡れの自分に手を差し伸べる。
「俺は負けない。ドラグーンの隣に立つために! だから、一緒に行こう!」
ずぶ濡れのダイチに差し伸べられた手。
目の前の"自分"は、何度か視線を行き来させた後──その手を取った。