オレ様っ娘な相棒(ドラゴン)は、エロ本なんかに負けたくない!〜共に世界を救った二人が、人生のパートナーになるまで〜 作:APP3
「……ん?」
蒸し暑さと寝苦しさを覚え、目を覚ます。
窓から差し込む日の光から、今がお昼くらいなのだろうと察する。
胸元に目を向けると、竜の姿のレッドラグーンが丸くなって眠っていた。
「やな夢、見ちまった……」
胸元のレッドラグーンの背中に手を置き、ぽつりと零す。
本当に思い出すのが嫌だ。
何故なら、"こうなったらいいな"と思えてしまう夢だったからだ。
夢の中だとしても、レッドラグーンに酷いことを言わせてしまった自分の弱さに辟易してしまう。
それでも、向き合うと決めたのだ。
──弱い自分自身と。
「よいしょっ」
レッドラグーンを起こさないように、胸元からお腹のところまでずらし、体を起こす。
そして、気持ちよさそうに眠るレッドラグーンの頭を撫でる。
ずっと側で見守ってくれる、面倒見の良い友達。
誰よりも強くてカッコよくて、でもちょっとどこか抜けている、放っておけない友達。
俺の、大切な────
「なんだよ、これ」
──家族。
そう思った瞬間、キュッと胸が締め付けられるような、息苦しさが襲ってくる、不思議な感覚。
レッドラグーンを撫でる度、その感覚が積もっていく。
『ん……? だいち?』
「ごめん、起こしちゃったか」
『んん……』
瞼を薄く開いたレッドラグーン。
真っ赤な瞳を見ると、手を伸ばす自分自身の姿が映っていた。
小さく伸びをしたレッドラグーンは、体を仰向けにし、こちらに手触りの良さそうな、もちっとしたお腹を向ける。
『……今日は、部活……休みか?』
「おう。監督にも無理するなって言われたし、そもそもこの足じゃしたくてもできないしな」
『そうか……なら、久しぶりに、二人っきりでゆっくりできるな』
そう言ってにへらと笑ったレッドラグーンを見て、先程の感覚が今一度強くなる。
悶々とした、行き場のない、名前も分からぬ感情。
ダイチの手は、自然とレッドラグーンのお腹に触れていた。
お餅のように、柔らかで弾力もある、気持ちのよい感触が手を包む。
撫でたり、指を沈ませたり、指先でなぞったり。
『くっ、くすぐったいから! はははっ! やめてくれ!』
身を捩らせ、制止の言葉を叫ぶレッドラグーンだったが、抵抗せず、されるがままで受け入れる。
「どうだどうだ! 参ったか!」
『ギ、ギブ! 参った! 参ったから! あははっ!!』
その事実が、さらに手の動きを速めた。
お腹以外にも、背中の小さな翼の付け根を撫でたり、首下を擦ったり。
レッドラグーンが声を上げる度、もっと触りたくなってしまう。
『あははっ……もう、限界……! はぁ、はぁ……』
笑い疲れ、体をぷるぷると震わせながら、小さい手でパジャマにしがみついてくるレッドラグーン。
ゆらゆらと揺れる尻尾。
そんなドラグーンのお尻の下に手を入れ、抱き上げる。
「ドラグーン、昨日はありがとな。もう大丈夫だよ」
『そうか…………うん、元気になってよかったぞ!』
すんなりと出てきた感謝の言葉。
レッドラグーンは一瞬目を丸くしたが、すぐに笑みを浮かべた。
その笑顔を見て、胸が大きく跳ねた。
顔に熱が集まっていくのがわかり、顔をレッドラグーンに見られないために抱き締める。
『むぐっ…………んっ! ダイチ? どーしたのだ。今日は一段と積極的だな』
苦しそうに呻いたレッドラグーンだったが、顔を腕の隙間から出して覗かせる。
腕の中から突き刺さる、レッドラグーンの視線がむずがゆい。
──激しく音を立てる心臓。
レッドラグーンにも聞かれてしまっているかもしれない。
「なぁドラグーン」
『ん?』
「なんだろ…………今日は、今日だけは、ずっとこうしてても、いいか?」
『──!』
それでも、この心音。
今この瞬間、レッドラグーンにも聞こえて欲しいと願ってしまったのだ。
一度そう思ってしまうと、止まらなかった。
『……勿論、構わないぞ? このまま、ずっと、ずっと。離さないでくれ』
「絶対離さないから。──あっ、でもトイレとかご飯の時は流石に離すかも」
『むぅう! 離さないって言ったのに!』
「へへっ。ごめんって」
ぽかぽかと小さな手で胸を叩いてくるレッドラグーンの背中を撫でて、抱き締め直す。
すると、レッドラグーンは自身の尻尾を、抱き締める腕に絡めてくる。
どくどくと脈打つ自身の心臓の音。
その音が、重なった気がした。
◯────
『あの、大地君。変なこと、聞くんだけど──好きな人とか、付き合ってる人とかって、いる?』
好きな人はだれか。
あの日、そう聞かれた時、返答に困ってしまった。
何故なら生まれてこの方、誰かをそういった意味で好きになったことなどなかったからだ。
そんな事を考える間もなく、世界は自分を置いて進んで行くからだ。
だったら、追い付かないといけない。
大人にならないといけない。
そんなふうに生きてきたのだ。
誰かを好きになる暇なんてなかった。
だから、好きという気持ちが分からない。
分からないはずだった。
それでも、その瞬間、微かに香ったのだ。
嗅ぎ慣れた、柑橘系のボディソープの香りが。
今なら分かる。
好きという気持ちを理解したつもりはない。
それでも、今、レッドラグーンに抱くこの不思議な感覚が、好きだという感覚ならどれだけ良いのかということに。
──俺は、レッドラグーンが好きなんだ。
そう思えば、パズルのピースがぴったりとはまったような気がした。
だったら、俺の答えは決まっている。
「──ごめん。雅ちゃんの気持ちは嬉しいけど、好きな人ができたんだ」
計画は順調だった。
順調だったはずだ。
プレハブ小屋内の鏡の中から、主人である真琴雅と、真琴雅の想い人である少年を眺める。
第一段階として、学校内で告白ブームを巻き起こし、告白を恥ずかしくないものとする。
これはほぼ成功と言えるだろう。
第二段階、精霊と契約する少年の無力化。
契約精霊では見抜けない仕掛けも用意していたため、今現在も気付かれていない。
これで計画を邪魔するものはいなくなった。
第三段階、主人の想い人である陽ノ下大地を追い込み、主人に依存させること。
心が弱った人間は、縋るものを求める。 なら、その手を差し伸べるのが主人であればいい。
親は仕事の関係で家を空け、一人で居ることが多い少年。
怪我でもさせれば体と一緒に心も弱っていく。
そこを主人の献身で立ち直らせ、主人の存在を少年の中で大きなものとする。
問題はそこだった。
何故弱っていない?
何故縋ろうとしていない?
頼れる者がいなかったのではないのか?
────知らなかったのだ。
この少年が、世界を救った英雄であったのだと。
この少年の側には、強大な精霊がいたのだと。
なんともまぁ可哀想に。
お嬢は、とんでもない身分違いの恋をしてしまったのか。
それにしても、告白するのはまだまだ後だと計画していたのだが。
『生き急ぎすぎやで、お嬢』
ローズピーコックの呟きは、鏡の向こう側には届かなかった。