※この作品はR-18です。

オレ様っ娘な相棒(ドラゴン)は、エロ本なんかに負けたくない!〜共に世界を救った二人が、人生のパートナーになるまで〜   作:APP3

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第十二話 軒下で彼女は待っている

「……ん?」 

 

 

 蒸し暑さと寝苦しさを覚え、目を覚ます。

 窓から差し込む日の光から、今がお昼くらいなのだろうと察する。

 

 胸元に目を向けると、竜の姿のレッドラグーンが丸くなって眠っていた。

 

 

「やな夢、見ちまった……」

 

 

 胸元のレッドラグーンの背中に手を置き、ぽつりと零す。

 

 本当に思い出すのが嫌だ。

 何故なら、"こうなったらいいな"と思えてしまう夢だったからだ。

 夢の中だとしても、レッドラグーンに酷いことを言わせてしまった自分の弱さに辟易してしまう。

 

 それでも、向き合うと決めたのだ。

 ──弱い自分自身と。

 

 

「よいしょっ」

 

 

 レッドラグーンを起こさないように、胸元からお腹のところまでずらし、体を起こす。

 

 そして、気持ちよさそうに眠るレッドラグーンの頭を撫でる。

 

 ずっと側で見守ってくれる、面倒見の良い友達。

 誰よりも強くてカッコよくて、でもちょっとどこか抜けている、放っておけない友達。

 

 俺の、大切な────

 

 

「なんだよ、これ」

 

 

 ──家族。

 そう思った瞬間、キュッと胸が締め付けられるような、息苦しさが襲ってくる、不思議な感覚。

 

 レッドラグーンを撫でる度、その感覚が積もっていく。

 

 

『ん……? だいち?』

 

「ごめん、起こしちゃったか」

 

『んん……』

 

 

 瞼を薄く開いたレッドラグーン。

 真っ赤な瞳を見ると、手を伸ばす自分自身の姿が映っていた。

 

 小さく伸びをしたレッドラグーンは、体を仰向けにし、こちらに手触りの良さそうな、もちっとしたお腹を向ける。

 

 

『……今日は、部活……休みか?』

 

「おう。監督にも無理するなって言われたし、そもそもこの足じゃしたくてもできないしな」

 

『そうか……なら、久しぶりに、二人っきりでゆっくりできるな』 

 

 

 そう言ってにへらと笑ったレッドラグーンを見て、先程の感覚が今一度強くなる。

 

 悶々とした、行き場のない、名前も分からぬ感情。

 

 ダイチの手は、自然とレッドラグーンのお腹に触れていた。

 お餅のように、柔らかで弾力もある、気持ちのよい感触が手を包む。

 

 撫でたり、指を沈ませたり、指先でなぞったり。

 

 

『くっ、くすぐったいから! はははっ! やめてくれ!』

 

 

 身を捩らせ、制止の言葉を叫ぶレッドラグーンだったが、抵抗せず、されるがままで受け入れる。

 

 

「どうだどうだ! 参ったか!」

 

『ギ、ギブ! 参った! 参ったから! あははっ!!』

 

 

 その事実が、さらに手の動きを速めた。

 お腹以外にも、背中の小さな翼の付け根を撫でたり、首下を擦ったり。

 レッドラグーンが声を上げる度、もっと触りたくなってしまう。

 

 

『あははっ……もう、限界……! はぁ、はぁ……』

 

 

 笑い疲れ、体をぷるぷると震わせながら、小さい手でパジャマにしがみついてくるレッドラグーン。

 

 ゆらゆらと揺れる尻尾。

 そんなドラグーンのお尻の下に手を入れ、抱き上げる。

 

 

「ドラグーン、昨日はありがとな。もう大丈夫だよ」

 

『そうか…………うん、元気になってよかったぞ!』

 

 

 すんなりと出てきた感謝の言葉。

 レッドラグーンは一瞬目を丸くしたが、すぐに笑みを浮かべた。

 

 その笑顔を見て、胸が大きく跳ねた。

 顔に熱が集まっていくのがわかり、顔をレッドラグーンに見られないために抱き締める。

 

 

『むぐっ…………んっ! ダイチ? どーしたのだ。今日は一段と積極的だな』

 

 

 苦しそうに呻いたレッドラグーンだったが、顔を腕の隙間から出して覗かせる。

 腕の中から突き刺さる、レッドラグーンの視線がむずがゆい。

 

 ──激しく音を立てる心臓。

 レッドラグーンにも聞かれてしまっているかもしれない。

 

「なぁドラグーン」

 

『ん?』

 

「なんだろ…………今日は、今日だけは、ずっとこうしてても、いいか?」

 

『──!』

 

 それでも、この心音。

 今この瞬間、レッドラグーンにも聞こえて欲しいと願ってしまったのだ。

 一度そう思ってしまうと、止まらなかった。

 

 

『……勿論、構わないぞ? このまま、ずっと、ずっと。離さないでくれ』

 

「絶対離さないから。──あっ、でもトイレとかご飯の時は流石に離すかも」

 

『むぅう! 離さないって言ったのに!』

 

「へへっ。ごめんって」

 

 

 ぽかぽかと小さな手で胸を叩いてくるレッドラグーンの背中を撫でて、抱き締め直す。

 

 すると、レッドラグーンは自身の尻尾を、抱き締める腕に絡めてくる。

 

 どくどくと脈打つ自身の心臓の音。

 その音が、重なった気がした。

 

 

◯────

 

 

『あの、大地君。変なこと、聞くんだけど──好きな人とか、付き合ってる人とかって、いる?』

 

 

 好きな人はだれか。

 あの日、そう聞かれた時、返答に困ってしまった。

 

 何故なら生まれてこの方、誰かをそういった意味で好きになったことなどなかったからだ。

 そんな事を考える間もなく、世界は自分を置いて進んで行くからだ。

 

 だったら、追い付かないといけない。

 大人にならないといけない。

 

 そんなふうに生きてきたのだ。

 誰かを好きになる暇なんてなかった。

 

 だから、好きという気持ちが分からない。

 分からないはずだった。

 

 それでも、その瞬間、微かに香ったのだ。

 嗅ぎ慣れた、柑橘系のボディソープの香りが。

 

 今なら分かる。

 好きという気持ちを理解したつもりはない。 

 それでも、今、レッドラグーンに抱くこの不思議な感覚が、好きだという感覚ならどれだけ良いのかということに。

 

 

 ──俺は、レッドラグーンが好きなんだ。

 

 

 そう思えば、パズルのピースがぴったりとはまったような気がした。

 

 だったら、俺の答えは決まっている。

 

 

「──ごめん。雅ちゃんの気持ちは嬉しいけど、好きな人ができたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 計画は順調だった。

 順調だったはずだ。

 

 プレハブ小屋内の鏡の中から、主人である真琴雅と、真琴雅の想い人である少年を眺める。

 

 第一段階として、学校内で告白ブームを巻き起こし、告白を恥ずかしくないものとする。

 これはほぼ成功と言えるだろう。

 

 第二段階、精霊と契約する少年の無力化。

 契約精霊では見抜けない仕掛けも用意していたため、今現在も気付かれていない。

 これで計画を邪魔するものはいなくなった。

 

 第三段階、主人の想い人である陽ノ下大地を追い込み、主人に依存させること。

 心が弱った人間は、縋るものを求める。 なら、その手を差し伸べるのが主人であればいい。

 

 親は仕事の関係で家を空け、一人で居ることが多い少年。

 怪我でもさせれば体と一緒に心も弱っていく。

 そこを主人の献身で立ち直らせ、主人の存在を少年の中で大きなものとする。

 

 問題はそこだった。

 

 何故弱っていない?

 何故縋ろうとしていない?

 

 頼れる者がいなかったのではないのか?

 

 

 ────知らなかったのだ。

 この少年が、世界を救った英雄であったのだと。

 この少年の側には、強大な精霊がいたのだと。

 

 なんともまぁ可哀想に。

 お嬢は、とんでもない身分違いの恋をしてしまったのか。

 

 それにしても、告白するのはまだまだ後だと計画していたのだが。

 

 

『生き急ぎすぎやで、お嬢』

 

 

 ローズピーコックの呟きは、鏡の向こう側には届かなかった。

 

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