オレ様っ娘な相棒(ドラゴン)は、エロ本なんかに負けたくない!〜共に世界を救った二人が、人生のパートナーになるまで〜 作:APP3
『本当に送っていかなくてもいいのか?』
「大丈夫大丈夫。松葉杖に慣れときたいし。じゃっ、行ってくる!」
『んん……仕方ないな。気を付けろよ! いってらっしゃい!』
レッドラグーンに見送られ、玄関から出るダイチ。
朝日がまだ上がりきっていない、冷たい青と柔らかなオレンジが混ざり合った空が見える。
何があっても良いように早めに出たダイチ。
本来は今日の朝練に出なくても良かったが、チームメイトにも自分の怪我のことで謝りたかった為丁度よかった。
カツカツと松葉杖を突く音が、閑静な住宅街に響く。
そんな時、
「大地君?」
背後から聞き慣れた声が掛かった。
「雅ちゃんか。おはよ」
「おはよ、じゃないよ。大丈夫なの? そもそも、三年生は引退だから朝練はもう無いよ?」
朝日を反射させた黒髪を靡かせる真琴雅は、ダイチに詰め寄る。
そんな雅の様子に気圧されつつ、ダイチは首を掻く。
「いやぁ、土曜日の事でみんなに謝りたくってさ。てか、それを言うなら雅ちゃんも朝練こなくていいじゃん」
「それは……その…………もう! 私のことはどうでもいいでしょ? はい、荷物渡して」
「えぇ、悪いよ」
「いいから。えいっ」
肩に掛けた荷物を雅に引ったくられたダイチ。
「もっと、私に頼ってくれてもいいんだよ?」
「でもなぁ………………まぁいいか。ありがとな雅ちゃん」
二人で並び、学校へと向かう。
その間に会話は無く、無言の時間が続く。
学校が見えてきた頃、ダイチはおもむろに口を開いた。
「雅ちゃん。土曜日、付き添ってくれてありがと。マジ助かったよ」
「いいのいいの、気にしないで!」
少しペースを上げ、雅の前に立つ。
そして、頭を下げた。
「それに、その、結構冷たく当たっちゃっただろ? 心配してくれてたのに。本当にごめん」
「…………ふふっ。優しいねダイチ君」
ふわりと笑う雅が肩にかかった黒髪を撫でると、シトラスの香りが跳ねた。
「……あの、ね。今日の放課後、大地君、時間ある?」
「あるけど」
「だったらさ、部室に来てくれないかな」
「おっけー。丁度、放課後部室に置いてた荷物の整理しようと思ってたし」
「よかった。じゃあ、楽しみにしてるね」
先程同様、花のように笑う雅。
朝日で照らされるはずだったその笑顔は、校舎の陰に隠れ、よく見えなかった。
◯────
「好きです」
私は、大地君が好きだ。
ほかの誰にも負けないくらい、大好きだ。
転入してきて、友達ができなかった私。
地味で内気で暗い、良いところなんて一つもなかった私に話しかけてくれた。
どの部活に入ろうか悩んでいた時に、サッカー部のマネージャーを勧めてくれた。
「好きです」
彼が私に与えてくれたモノ全てが、私を、私を取り巻く世界を変えてくれたのだ。
教室の真ん中で笑う彼につられて、いつの間にか私まで笑ってしまっていた。
私にはない明るさが、何よりも眩しく、羨ましかった。
彼が遠足の時、足を挫いた私の手を掴んでくれた。
彼の側にいるだけで、私まで明るくなれた気がした。
「大好きです」
だから私も、彼に相応しい人間になりたいと、彼の隣に立っても恥ずかしくない人間になりたいと願った。
『なら、努力するしかないで』
そんな時、出会ったのだ。
私を変えてくれる、唯一無二の友達に。
『ええか? 美しさは一朝一夕で身に付かん。日々の努力が、美しさに変わるんや!』
『特異な力で自分を変えても、根本は何も変われへん。日々の積み重ねこそが重要なんや!』
適度な運動。規則正しい睡眠。無理のない食生活。
全部全部、彼の為に積み上げてきた。
お陰で私は変われたのだ。
学校内でも美人だと褒めそやされているのも知っているし、現に告白だって何度もされた。
誰もが認める、綺麗な人に生まれ変われたのだ。
恥ずかしい所なんてない、彼に相応しい女の子に成れたんだ。
だから、だから──
「来てくれたんだね、大地君」
立て付けの悪い扉が異音を鳴らしながら開くと、松葉杖を突く彼が視界に入る。
制汗剤の匂いが充満する汚い部室。
ロケーションとしては最悪だ。
だけど、ここだ。
ここだからこそ、伝えることができる。
「雅ちゃん。朝言ってたやつって」
「それなんだけどね」
胸に手を当て、深く深呼吸する。
「──怪我している間、私に大地君のお世話をさせて欲しい。
荷物も持つし、一人じゃ不便な所、全部助けたい。
私も大地君の志望する高校に行って、またマネージャーになる。
だから──私に大地君を支えさせて欲しいの。
だって、私、大地君のことが好きだから。
大地君、前に、好きな人いないって言ってたでしょ?
…………私じゃだめ、かな?」
滝のように流れ出た告白。
言った、遂に言ってしまった。
なんて返答されるだろうか。
良いよ、なんて言われたらどうしようか。
二人でどこに遊びに行こうか。
遊園地? 水族館?
いきなりお家デートとか?
それは流石に早すぎだよね。
落ち着かなきゃ。先ずはクールに、冷静に。
早くローズにも伝えたいな。ローズのお陰で──
「──ごめん。雅ちゃんの気持ちは嬉しいけど、好きな人ができたんだ」
制汗剤の匂いしかしなかった部室に、何故か柑橘の香りが混ざった気がした。
◯─────
「はぁ……」
ダイチは一人、部室内の椅子に腰掛け、溜息をついた。
グラウンドにて活動する生徒達の声が、微かに聞こえてくる。
──始めて、告白された。
好きだと言ってくれた。
支えたいとも言ってくれた。
始めて、他人から好意を向けてもらった。
それなのにあの瞬間、頭の中をよぎったのは、小さな竜の愛らしい姿だけだったのだ。
断った後の、彼女の顔が頭から離れない。
あんなにも人は、光を失った表情を浮かべることができるのか。
「ごめん……それでも──」
──俺は、レッドラグーンが好きなんだ。
パンッと両頬を叩き、まとめた荷物をカバンに詰め込み、部室を後にした。
「ふふふっ」
ふらりふらり。
「あははは!」
ふらりふらり。
夕暮れの空が陰を伸ばし、足取りがおぼつかない少女を覆う。
「バカじゃん。ホントバカじゃん」
『お嬢……』
少女が手に握りしめる手鏡から、少女を心配する声が発せられる。
『なんでや。なんであのタイミングで告白したんや……もっとあの少年を追い込んで、依存させて、振り向かせる。それがウチらの計画やったはずや』
「無理だよ……そんな事できないよ………」
『お嬢!』
「だって好きなんだもん!! 好きな人に、あの日の、病院の時みたいな顔、もうさせたくなかったんだもん!!」
『──!!』
少女は髪を振り乱す。
頭を抑え、アスファルトにへたり込む。
「なんであの日……手紙を渡せなかったんだろう。なんで勇気が出なかったんだろ…………本当……本当に、本当に本当に!! バカだよね! 死んじゃえよ!!」
手鏡を滑り落とし、カシャンと音が響く。
割れた鏡がそこら中に広がり、夕日を乱反射する。
「大好きなの……心の底から愛してるの…………どうしようもない私に、手を伸ばしてくれた、私だけの王子様……」
うわ言のように愛の言葉を呟く少女。
割れた鏡から何かを伝えようと声が聞こえるも、少女には届かない。
そんな最中、
「──では、その王子様と、もう一度結ばれるチャンスがあるとしたら、君はどうしますか?」
フードを深く被り、黒衣のローブを纏った者が、蹲る少女に陰を落とした。