※この作品はR-18です。

オレ様っ娘な相棒(ドラゴン)は、エロ本なんかに負けたくない!〜共に世界を救った二人が、人生のパートナーになるまで〜   作:APP3

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第十七話 掴んだモノは──

 幸せとは何なのか。

 

 今まで生きてきたうち、様々な経験をしてきた。

 唯一無二の親友と出会った。

 その親友と困っている人達を救い、仲間を救い、世界まで救った。

 

 その過程で、色んな幸せを見かけて、分かった。

 

 幸せに決まった形なんかないんだと。

 

 今自分が胸に抱く幸せが、誰かにとっての不幸せなのかもしれない。

 昔の自分だったら、小学生のレッドラグーンと出会った頃の自分だったら、そんな幸せ要らないと投げ捨てていただろう。

 

 でも今は、この幸せを捨てたくない。

 たとえこの幸せのせいで、誰かを泣かしてしまうことになったとしても、絶対に。

 

 だから────俺じゃ、"君を"救えない。

 

◯────

 

 

『おはようダイチ! ご飯できてるぞ』

 

「おはよ……」

 

 

 寝ぼけ眼を擦り、自室から出ると、最愛の相棒の声と共にいい匂いが漂ってくる。

 

 ダイチは足を引き摺りながら洗面所へと向かい、身支度を済ます。

 

 リビングへと戻ると、エプロンを身に付けたレッドラグーンが目に入り、その姿を見ると、昨日の出来事を幻視してしまい顔が熱くなってしまう。

 

 頭を振り、朝ご飯が用意されたテーブルまで向かい、足を庇いながら座る。

 

 

『いただきます!』

 

「いただきます……」

 

 

 こんがり焼けたトーストを齧る。

 程よく溶けたマーガリンが染み、美味い。

 

 

『足は大丈夫か?』

 

「昨日と変わらないよ。普通普通」

 

『そうか…………よかった! 昨日のあれで悪化していたらどうしようかと思ってな!』

 

「──ッ! ドラグーン!」

 

『ククッ。そんな顔するなダイチ!』

 

「そうじゃなくて今ご飯中だろ!」

 

『おっと失敬』

 

 

 適当なやりとりをしつつ食べ進める。

 塩が良く効いたスクランブルエッグに、刻んだキャベツにハム。

 そんな朝食を見るだけで、自然と頬が緩んだ。

 

 時計をちらりと見て、なかなか遅い時間であると分かり、ダイチは急いで掻っ込む。

 

 

「ごちそうさま! じゃ、行ってくる」

 

『おぉ、もうそんな時間か』

 

「ドラグーン!」

 

『ん?』

 

 

 首を傾げたレッドラグーンの頭に手を伸ばし、撫でる。

 

 

「ありがとな! ドラグーン!」

 

『──! ふふっ……頑張ってこいよ』

 

「おう!」

 

 

 ふわりと笑う相棒。

 その表情を見られただけで一日頑張れる。

 

 玄関に立て掛けた松葉杖を持ち、玄関の扉を開いた。

 

 

◯────

 

 

「おはよう大地」

 

「おはよー」

 

 

 いつも通りの学校の教室にて、ダイチは湊と挨拶を交わし、椅子に座る。

 

 開いた窓から入る、生温い風が気持ち悪い。

 

 一息ついて辺りを見渡すと、時間も時間なためか、他のクラスメイトも全員着席していた。

 

 朝礼まであと少しだけ時間があり、後ろに座るどこか上の空な湊にダイチは話し掛ける。

 

 

「いやぁ、マジで大変だった。土曜日サッカーの試合で怪我しちゃってさ」

 

「そうか。そんなことより大地。話したいことがあって──」

 

 

 ガラガラガラ。

 

 教室の扉が開く音がやけに大きく響く。

 入ってきたのは担任。

 それと同時にチャイムが鳴る。

 

 

「ごめん。後で話す」

 

「お、おう」

 

 

 朝礼が始まり、話が中断されてしまう。

 ダイチはぼーっとしながら担任の話を聞き流し、先程の湊の様子を思い返していた。

 

 

 ──一限目が始まる。

 科目は国語であり、ダイチは鞄から国語の教科書とノートを取り出す。

 担当の教師は担任であり、朝礼後そのまま一限目に入るのが月曜日のルーティーンだ。

 

 しかし、どこか様子がおかしい。

 

 周りから教科書や筆箱を取り出すような音が一切しない。

 

 ダイチは視線を辺りに向ける。

 何故か、周りのクラスメイトは国語の教科書を用意していない。そもそも、何も準備していない。

 

 もしかして朝礼の時、大切なことでも言っていたのか?

 

 

「お、おい湊。もしかして、小テストでもある感じか? これ」

 

 

 嫌な汗が背筋をなぞったダイチは湊に聞こうと振り向く。

 

 ──頭を抑え、俯く湊の姿が目に映った。

 

 

「──湊?」

 

「よし。じゃあ一限目は"笑顔の練習"だ!」

 

 

 様子のおかしい湊に手を伸ばそうとした時、背後の黒板の方から、不思議な単語が聞こえてきた。

 

 ガサガサガサガサ。

 一斉に周りのクラスメイトが鞄を漁り始める。

 

 そして、全員、"手鏡"を取り出した。

 形は統一されておらず、各自の家にあるのであろう手鏡。

 

 

「全員鏡は持ったか?」

 

「「「はーい」」」

 

 

 何が起こっている?

 

 思考が纏まらない中、ダイチは咄嗟に左手に力を込め、"アルマリング"を呼び出す。

 瞬時に左手に巻き付いた腕輪。

 嵌め込まれた無色透明の石が、赤く点滅していた。

 

「これはっ!?」

 

 ──欲望エネルギーの行使。

 周囲を欲望エネルギーが取り巻いている証。

 小学生の頃、嫌になるほど見た、事件の始まりを告げる証。

 

 ダイチはガタンッと音を立てて立ち上がる。

 

 

「せんせー。陽ノ下君、鏡を持ってませーん」

 

「そうか? なら皆、陽ノ下に貸してやれ」

 

「「「はーい」」」

 

 

 クラスメイト全員の視線が、ダイチへ集まった。

 皆立ち上がると、ふらふらとこちらに近付いてくる。

 

 

「みんな!? ──グッ!」

 

 

 ダイチはこの場から離れようと試みるも、右足に痛みが奔る。

 こんな足では、逃げることもままならない。

 

 何とかしようと足を引き摺りながら後ろに下がる。

 しかし、背後から腕が伸ばされ、羽交い締めにされてしまう。

 

「みっ、湊!?」

 

 顔色は見えない、だがしかし、羽交い締めにしてくる腕に巻き付いたアルマリングが、背後の存在を湊だと証明してくる。

 

 

「湊! 何やってんだ!!」

 

 

 クラスメイト達はさらに近付いてくると、こちらに向けた手鏡が虹色に光り始める。

 

 必死に背後の湊に声を掛けるものの、返事は無い。

 

 教室内がクラスメイトの持つ手鏡達の光によって、不気味な影を帯び始め、その影がダイチをも包み込もうとしたその時──

 

「──目を瞑れ、大地」

 

 背後の、羽交い締めしてくる友からの小さな声が耳を突き抜ける。

 咄嗟に目を瞑るダイチ。

 そして──

 

「こいっ! ブルーオルカ!!」

 

 ──湊の叫びが胸に響いた。

 

 

◯────

 

 

「いやぁ。間一髪だったな!」  

 

「マスター。無茶をし過ぎです」

 

 

 能天気に笑う湊。 

 そんな湊を咎めるように、鋭い視線を向けるブルーオルカ。

 

 ──ここは先程の教室の向かい側の旧校舎。

 呼び出されたブルーオルカによってダイチと湊は運ばれ、ここ、理科室へと避難していた。

 

 

「湊……よかった。お前も変になっちまったんじゃないかって」

 

「そんなヘマはしないっての。心配すんなって!」

 

 

 割れた窓から吹き込む風に青髪を揺らす湊。

 丸眼鏡を掛け直し、ダイチの肩をバンっと叩いた。

 

 

「湊! あれはなんなんだ! なんでみんなあんなふうに──」

 

「落ち着け落ち着け。ちゃんと説明するからさ」

 

 

 湊はダイチに事のあらましを簡潔に伝える。

 

 

「──てな感じで、俺は洗脳されたフリをして潜入してたってわけだ」

 

 湊からの話を聞き終わったダイチは唇を噛み締め、俯く。

 

 

「大地……その──」

 

「──二人とも、学校が何かおかしいって、知ってたってことだよな?」

 

 

 湊とブルーオルカ。どちらともバツの悪そうな顔をし、視線を逸らす。

 

 

「……そうだ」

 

「なんで言ってくれなかったんだよ!!」

 

「そりゃ……」

 

「なんで二人だけで抱え込もうとしたんだよ!! 仲間だろ!?」

 

「──仲間だからだよ!!」

 

 

 湊の剣幕に一瞬たじろぐダイチ。

 

 湊は腕を伸ばし、ダイチの胸倉を掴む。

 

 

「仲間だから、お前に無茶して欲しくなかったんだよ!! 大会も近かったお前に、そんな厄介事言えるわけないだろ!!」

 

「それでも──」

 

「言ったら絶対、あの時みたいに全部捨てるだろ!? 自分なんかより他の人が幸せになって欲しいって、自分を蔑ろにするだろ!?」

 

  

 胸倉を掴む腕を引かれ、湊の方によろめく。

 その腕は異常なまでに震えていた。

 

 

「俺はな! お前に、陽ノ下大地に幸せになって欲しいんだよ!!」

 

「マスター、そこまでです」

 

 

 ブルーオルカによって引き剥がされた湊。

 ブルーオルカに支えられる湊は、先程感じたように異常なまでに震え、尋常じゃないほど汗をかいている。

 

 

「みな、と?」

 

「ははっ。結局、このざまだ…………あの光を浴びて、何とか精神を保つ為に願いエネルギーを使い過ぎちまった……おかげでさっきのでガス欠だ……」   

 

 

 ブルーオルカに支えられていたものの、へたり込んでしまう湊。

 ダイチはそんな湊の下へ、足を引き摺りながら近付く。

 

 

「こんなことになるなら………クソっ……ホントごめんな、役立たずで」

 

『ダイチ君。今回の件は私達の判断ミスです。相手の力量を見誤り、結果、貴方に負担をかけてしまうことになってしまった。申し開きもありません……』

 

 

 俯く湊と、頭を下げるブルーオルカ。

 そんな二人を見てダイチは────ニヤッと微笑んだ。

 

 

「ありがとな二人とも。俺は本当に、ほんっとうに! 幸せ者なんだなって、今気付いたよ」

 

「……大地?」

 

 

 ダイチは二人の横を通り過ぎ、掃除用具入れのロッカーに手を掛ける。

 

 

「俺は今まで、自分のことなんてどーでもよかったんだ」

 

「湊の言う通り、自分なんかより他の人が笑ってくれるなら、それが一番だって」

 

「でも、それじゃあダメだって──俺も、幸せを掴みたいって、思えるようになったんだ」

 

「ところが、こうやって二人が俺の事を思ってくれてるのを知って────とっくの昔に、俺は幸せを掴んでたんだなって気付いたんだ」

 

 ロッカーを開け、埃まみれの箒を一本掴み、柄を床に叩き付ける。

 

「だから今度は、俺の番だ」

 

 松葉杖の代わりに箒を突きながら、扉の方へと向かう。

 

「だっ、駄目だ大地! そんな足で何ができるってんだよ!!」

 

「大丈夫! 二人はここから早く抜け出して、ドラグーンを呼んできてくれよ? 流石に俺一人じゃ無理だからさ」

 

 

 ダイチは空いた方の手を振り、理科室を後にする。

 

 まともに歩くこともできない足。

 バクバクと跳ねる心臓に震える体。

 それでも、不思議と足は止まらない。

 

 胸の奥を焦がす熱い炎が、ダイチを突き動かす。

 

 カツ、カツ。

 静まり返った廊下を一人、箒を突きながら移動するダイチ。

 

 そんな時、放送スピーカーからガタゴトと音が鳴り始めると、

 

 

『えー、テステス。陽ノ下大地君、陽ノ下大地君。至急校庭までお越し下さい。──はよ来やんかったら、他の生徒がどうなるか、知らんでー?』

 

 

 事件の元凶であろう主の声が、校舎内に響き渡った。

 

 

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