オレ様っ娘な相棒(ドラゴン)は、エロ本なんかに負けたくない!〜共に世界を救った二人が、人生のパートナーになるまで〜 作:APP3
幸せとは何なのか。
今まで生きてきたうち、様々な経験をしてきた。
唯一無二の親友と出会った。
その親友と困っている人達を救い、仲間を救い、世界まで救った。
その過程で、色んな幸せを見かけて、分かった。
幸せに決まった形なんかないんだと。
今自分が胸に抱く幸せが、誰かにとっての不幸せなのかもしれない。
昔の自分だったら、小学生のレッドラグーンと出会った頃の自分だったら、そんな幸せ要らないと投げ捨てていただろう。
でも今は、この幸せを捨てたくない。
たとえこの幸せのせいで、誰かを泣かしてしまうことになったとしても、絶対に。
だから────俺じゃ、"君を"救えない。
◯────
『おはようダイチ! ご飯できてるぞ』
「おはよ……」
寝ぼけ眼を擦り、自室から出ると、最愛の相棒の声と共にいい匂いが漂ってくる。
ダイチは足を引き摺りながら洗面所へと向かい、身支度を済ます。
リビングへと戻ると、エプロンを身に付けたレッドラグーンが目に入り、その姿を見ると、昨日の出来事を幻視してしまい顔が熱くなってしまう。
頭を振り、朝ご飯が用意されたテーブルまで向かい、足を庇いながら座る。
『いただきます!』
「いただきます……」
こんがり焼けたトーストを齧る。
程よく溶けたマーガリンが染み、美味い。
『足は大丈夫か?』
「昨日と変わらないよ。普通普通」
『そうか…………よかった! 昨日のあれで悪化していたらどうしようかと思ってな!』
「──ッ! ドラグーン!」
『ククッ。そんな顔するなダイチ!』
「そうじゃなくて今ご飯中だろ!」
『おっと失敬』
適当なやりとりをしつつ食べ進める。
塩が良く効いたスクランブルエッグに、刻んだキャベツにハム。
そんな朝食を見るだけで、自然と頬が緩んだ。
時計をちらりと見て、なかなか遅い時間であると分かり、ダイチは急いで掻っ込む。
「ごちそうさま! じゃ、行ってくる」
『おぉ、もうそんな時間か』
「ドラグーン!」
『ん?』
首を傾げたレッドラグーンの頭に手を伸ばし、撫でる。
「ありがとな! ドラグーン!」
『──! ふふっ……頑張ってこいよ』
「おう!」
ふわりと笑う相棒。
その表情を見られただけで一日頑張れる。
玄関に立て掛けた松葉杖を持ち、玄関の扉を開いた。
◯────
「おはよう大地」
「おはよー」
いつも通りの学校の教室にて、ダイチは湊と挨拶を交わし、椅子に座る。
開いた窓から入る、生温い風が気持ち悪い。
一息ついて辺りを見渡すと、時間も時間なためか、他のクラスメイトも全員着席していた。
朝礼まであと少しだけ時間があり、後ろに座るどこか上の空な湊にダイチは話し掛ける。
「いやぁ、マジで大変だった。土曜日サッカーの試合で怪我しちゃってさ」
「そうか。そんなことより大地。話したいことがあって──」
ガラガラガラ。
教室の扉が開く音がやけに大きく響く。
入ってきたのは担任。
それと同時にチャイムが鳴る。
「ごめん。後で話す」
「お、おう」
朝礼が始まり、話が中断されてしまう。
ダイチはぼーっとしながら担任の話を聞き流し、先程の湊の様子を思い返していた。
──一限目が始まる。
科目は国語であり、ダイチは鞄から国語の教科書とノートを取り出す。
担当の教師は担任であり、朝礼後そのまま一限目に入るのが月曜日のルーティーンだ。
しかし、どこか様子がおかしい。
周りから教科書や筆箱を取り出すような音が一切しない。
ダイチは視線を辺りに向ける。
何故か、周りのクラスメイトは国語の教科書を用意していない。そもそも、何も準備していない。
もしかして朝礼の時、大切なことでも言っていたのか?
「お、おい湊。もしかして、小テストでもある感じか? これ」
嫌な汗が背筋をなぞったダイチは湊に聞こうと振り向く。
──頭を抑え、俯く湊の姿が目に映った。
「──湊?」
「よし。じゃあ一限目は"笑顔の練習"だ!」
様子のおかしい湊に手を伸ばそうとした時、背後の黒板の方から、不思議な単語が聞こえてきた。
ガサガサガサガサ。
一斉に周りのクラスメイトが鞄を漁り始める。
そして、全員、"手鏡"を取り出した。
形は統一されておらず、各自の家にあるのであろう手鏡。
「全員鏡は持ったか?」
「「「はーい」」」
何が起こっている?
思考が纏まらない中、ダイチは咄嗟に左手に力を込め、"アルマリング"を呼び出す。
瞬時に左手に巻き付いた腕輪。
嵌め込まれた無色透明の石が、赤く点滅していた。
「これはっ!?」
──欲望エネルギーの行使。
周囲を欲望エネルギーが取り巻いている証。
小学生の頃、嫌になるほど見た、事件の始まりを告げる証。
ダイチはガタンッと音を立てて立ち上がる。
「せんせー。陽ノ下君、鏡を持ってませーん」
「そうか? なら皆、陽ノ下に貸してやれ」
「「「はーい」」」
クラスメイト全員の視線が、ダイチへ集まった。
皆立ち上がると、ふらふらとこちらに近付いてくる。
「みんな!? ──グッ!」
ダイチはこの場から離れようと試みるも、右足に痛みが奔る。
こんな足では、逃げることもままならない。
何とかしようと足を引き摺りながら後ろに下がる。
しかし、背後から腕が伸ばされ、羽交い締めにされてしまう。
「みっ、湊!?」
顔色は見えない、だがしかし、羽交い締めにしてくる腕に巻き付いたアルマリングが、背後の存在を湊だと証明してくる。
「湊! 何やってんだ!!」
クラスメイト達はさらに近付いてくると、こちらに向けた手鏡が虹色に光り始める。
必死に背後の湊に声を掛けるものの、返事は無い。
教室内がクラスメイトの持つ手鏡達の光によって、不気味な影を帯び始め、その影がダイチをも包み込もうとしたその時──
「──目を瞑れ、大地」
背後の、羽交い締めしてくる友からの小さな声が耳を突き抜ける。
咄嗟に目を瞑るダイチ。
そして──
「こいっ! ブルーオルカ!!」
──湊の叫びが胸に響いた。
◯────
「いやぁ。間一髪だったな!」
「マスター。無茶をし過ぎです」
能天気に笑う湊。
そんな湊を咎めるように、鋭い視線を向けるブルーオルカ。
──ここは先程の教室の向かい側の旧校舎。
呼び出されたブルーオルカによってダイチと湊は運ばれ、ここ、理科室へと避難していた。
「湊……よかった。お前も変になっちまったんじゃないかって」
「そんなヘマはしないっての。心配すんなって!」
割れた窓から吹き込む風に青髪を揺らす湊。
丸眼鏡を掛け直し、ダイチの肩をバンっと叩いた。
「湊! あれはなんなんだ! なんでみんなあんなふうに──」
「落ち着け落ち着け。ちゃんと説明するからさ」
湊はダイチに事のあらましを簡潔に伝える。
「──てな感じで、俺は洗脳されたフリをして潜入してたってわけだ」
湊からの話を聞き終わったダイチは唇を噛み締め、俯く。
「大地……その──」
「──二人とも、学校が何かおかしいって、知ってたってことだよな?」
湊とブルーオルカ。どちらともバツの悪そうな顔をし、視線を逸らす。
「……そうだ」
「なんで言ってくれなかったんだよ!!」
「そりゃ……」
「なんで二人だけで抱え込もうとしたんだよ!! 仲間だろ!?」
「──仲間だからだよ!!」
湊の剣幕に一瞬たじろぐダイチ。
湊は腕を伸ばし、ダイチの胸倉を掴む。
「仲間だから、お前に無茶して欲しくなかったんだよ!! 大会も近かったお前に、そんな厄介事言えるわけないだろ!!」
「それでも──」
「言ったら絶対、あの時みたいに全部捨てるだろ!? 自分なんかより他の人が幸せになって欲しいって、自分を蔑ろにするだろ!?」
胸倉を掴む腕を引かれ、湊の方によろめく。
その腕は異常なまでに震えていた。
「俺はな! お前に、陽ノ下大地に幸せになって欲しいんだよ!!」
「マスター、そこまでです」
ブルーオルカによって引き剥がされた湊。
ブルーオルカに支えられる湊は、先程感じたように異常なまでに震え、尋常じゃないほど汗をかいている。
「みな、と?」
「ははっ。結局、このざまだ…………あの光を浴びて、何とか精神を保つ為に願いエネルギーを使い過ぎちまった……おかげでさっきのでガス欠だ……」
ブルーオルカに支えられていたものの、へたり込んでしまう湊。
ダイチはそんな湊の下へ、足を引き摺りながら近付く。
「こんなことになるなら………クソっ……ホントごめんな、役立たずで」
『ダイチ君。今回の件は私達の判断ミスです。相手の力量を見誤り、結果、貴方に負担をかけてしまうことになってしまった。申し開きもありません……』
俯く湊と、頭を下げるブルーオルカ。
そんな二人を見てダイチは────ニヤッと微笑んだ。
「ありがとな二人とも。俺は本当に、ほんっとうに! 幸せ者なんだなって、今気付いたよ」
「……大地?」
ダイチは二人の横を通り過ぎ、掃除用具入れのロッカーに手を掛ける。
「俺は今まで、自分のことなんてどーでもよかったんだ」
「湊の言う通り、自分なんかより他の人が笑ってくれるなら、それが一番だって」
「でも、それじゃあダメだって──俺も、幸せを掴みたいって、思えるようになったんだ」
「ところが、こうやって二人が俺の事を思ってくれてるのを知って────とっくの昔に、俺は幸せを掴んでたんだなって気付いたんだ」
ロッカーを開け、埃まみれの箒を一本掴み、柄を床に叩き付ける。
「だから今度は、俺の番だ」
松葉杖の代わりに箒を突きながら、扉の方へと向かう。
「だっ、駄目だ大地! そんな足で何ができるってんだよ!!」
「大丈夫! 二人はここから早く抜け出して、ドラグーンを呼んできてくれよ? 流石に俺一人じゃ無理だからさ」
ダイチは空いた方の手を振り、理科室を後にする。
まともに歩くこともできない足。
バクバクと跳ねる心臓に震える体。
それでも、不思議と足は止まらない。
胸の奥を焦がす熱い炎が、ダイチを突き動かす。
カツ、カツ。
静まり返った廊下を一人、箒を突きながら移動するダイチ。
そんな時、放送スピーカーからガタゴトと音が鳴り始めると、
『えー、テステス。陽ノ下大地君、陽ノ下大地君。至急校庭までお越し下さい。──はよ来やんかったら、他の生徒がどうなるか、知らんでー?』
事件の元凶であろう主の声が、校舎内に響き渡った。