オレ様っ娘な相棒(ドラゴン)は、エロ本なんかに負けたくない!〜共に世界を救った二人が、人生のパートナーになるまで〜 作:APP3
『よう逃げずに来たね。そこは褒めたるわ』
砂煙が舞う校庭。
空は見えず、学校全体を紫色の不気味なドームのようなモノに覆われている。
そして、宙に浮く、数え切れないほどの大小様々な"鏡"達。
その中、一際大きな鏡の中で、桃色の鳥が映っていた。
『で、や。お前か? 世界を救ったっちゅう英雄ってのは』
「俺で間違いないよ」
『へぇ、随分肝が座っとんのやね。流石英雄や』
「無駄話はいいだろ。目的はなんだ? 他の皆には手は出してないんだろうな」
ダイチは箒の柄を地面に叩き付け、音を鳴らす。
『いっぺんに聞き過ぎやで自分。必死やね? そんなに怖いん? 皆が傷付くの』
「あぁ、怖いよ。それが俺のせいでってなったら死ぬほどな」
『んー、ええねええね。大丈夫! 安心してくれてかまへんよ。だぁれも手は出してへん。今の所はやけど。後、ウチの目的やっけ? それは──』
あちらこちらに散らばっていた周囲の鏡が集まり、ダイチの方へと向けられる。
『──ちょいとウチに、英雄の実力ってもんを見せてぇや』
ダイチの肩に、衝撃が奔った。
鈍く、重い痛み。
何かがぶつかったのか、ダイチはよろめくも箒を使い、踏ん張る。
カランカランと甲高い音が地面に反射し、目を向けると、バスケットボールが転がっていた。
『英雄ごっこ、始めよか?』
サッカーボール。
バレーボール。
バスケットボール。
あらゆる球体が、雨のように降り注ぎ、全身を襲う。
そのどれもが先程同様、痛みが伴う。
絶え間なく浴びせられるボールの雨。
頬に当たり、脇腹にめり込む。
ダイチの体に当たる度、松葉杖代わりの箒が軋む。
それでも、ダイチは倒れず、箒に体を預けながらも立ち続けた。
『なんで避けへんの自分……幾ら足が負傷してるからって言っても、避けれへんスピードやないはずや』
「はぁ……はぁ……狙いは、俺だろ? だったら俺はどうなっても構わない……だから、皆を正気に戻してくれ……」
『はぁっ? 何言っとんの君』
「何が目的なのか……俺には分からない。でも、用があるのは俺だけだろ……?」
『……アホやなほんま。そんなんで貴重な人質手放すわけないやろ』
鏡が宙を泳ぎ、ダイチを囲むように斜め上に配置されると、全ての鏡の中から棒状のなにかが生えてくる。
半分ほど鏡の中から伸びた所で、その棒がバレーボールのネットの支柱であることが分かった。
『串刺しになってもそんな気色悪い自己犠牲が吐けるんか、見ものやね!』
そして、巨大な鏡に映る桃色の鳥の号令に従うように、支柱が一斉に発射された。
ダイチの目に映る、残酷なまでに明確な死のビジョン。
ダイチはそんな光景から目を逸らさず────箒を強く握り締めた。
そして、支柱が、群れをなしてダイチへと襲い掛かった。
『──は?』
──そこには支柱に串刺しになった肉塊は無く、震える足でその場に立つ少年の姿があった。
「すぅ……はぁー…………生きてる」
深く息を吸い、吐く。
震える足が限界を迎え、箒を頼りに地面に座り込む。
『……おま、おまっ、お前! なんで避けへんかった!? 当たったらどないする気やってん!! なぁ!!!』
怒声を飛ばす孔雀の精霊。
その声色には先程の邪悪さは消えていた。
ダイチは黙り、揺れる瞳を見つめるだけ。
『……なっ、なんや、その目。ええか、今のはたまたまや。たまたま、偶然当たらんかっただけ。次は知らんで? 早う立て!! 立ってウチと戦え!!』
取り乱す精霊は、自身が映る鏡をダイチに寄せ、睨み付ける。
『なんやねん……なんやねんって。ウチが本気で当てる気やったら、自分ほんまに死んでた──』
「──そこなんだよ」
ダイチが、震える唇を動かし、立ち上がる。
「お願いだ。教えてくれよ、お前の目的を」
『──ッ』
炎渦巻く熱い瞳にたじろぐ鏡の中の精霊。
少し俯き、そして──
『──お願いや。お嬢を、ウチの大切な友達を、救うてくれへんか』
弱々しくも重い願いが、ぽつりと溢れた。
◯────
砂埃が収まった校庭。
未だ不気味な空を隠すドームはそのまま。
しかし、その場に立つ少年と一匹の精霊から登り立っていた闘気は無い。
「救う?」
『そうや…………ウチの主人、真琴雅を救って欲しいんや……』
雅の名が出た瞬間、昨日の、プレハブ小屋での出来事を思い出す。
『お嬢があんたに告白した後、変な輩に絡まれてな。ウチは何があったんかお嬢が持ってた手鏡が割れてしもたから分からへん。でもそっからお嬢の願いの力が欲望の力に変換されてもうて…………お嬢が目を覚まんくなってん』
「……」
ダイチは顎に手を当て、目を瞑る。
──願いエネルギーが暴走し、欲望エネルギーへと変化した。
今まで解決してきた精霊事件、全ての要因がそこだ。
でも今までと違う点が一つある。
それは、以前の事件等は、"精霊"の願いエネルギーが暴走し欲望エネルギーへと変化していたという所だ。
今回の件は雅から発された願いエネルギーが暴走したという。
精霊の願いエネルギーが暴走すれば、精霊は自我を失い、主人の願いを叶える為だけの、忠実な下僕へと変わる。
では、逆ならどうなる?
嫌な予感が頭をよぎる。
『今回、ウチがあんたに勝負仕掛けたんも、ウチが倒されたらお嬢が解放されるかと思うてやったことや。だからお願いや!ウチを倒してくれ! ウチを倒してお嬢を!!』
目の前の鏡から響く悲痛な叫び。
ダイチは目を開き、空を見上げる。
この不気味な空間。
アルマリングが放つ、赤の警告灯。
操られたクラスメイト。
自我を保った契約精霊。
目を覚まさない精霊の主。
──真琴雅の願い。
ダイチは目を鏡へと改めて向ける。
「雅ちゃんはどこに?」
『プレハブ小屋で寝かせとる……なぁ、頼む。後生や、ウチを倒して──』
「──ダメだ」
『え?』
「ごめん。俺じゃ、救えない」
ダイチはきっぱりと言い放つ。
『な、何言うてんの? 君、世界を救った英雄なんやろ? なぁ!』
「俺には、雅ちゃんを救う資格がない」
爪が食い込むまで深く握り締めた拳。
『……ふざけんな。なんやそれ? 資格やって? 関係あらへんやろ』
「俺が雅ちゃんを救えたとしても、本当の意味で救えない。俺は、雅ちゃんの想いに応えられない。そんな俺が“救う”なんて言っちゃ駄目だ」
『ッ!?』
「俺には、雅ちゃんの願いを叶えられない……絶対に」
喉から、何とか声を絞り上げる。
目を逸らしたい。
でも、逸らしちゃ駄目だ。
『……分かってんねん。ウチが今、どんだけ虫の良い話をしてるのかって。今回の件、種を蒔いたのはウチや。ウチがお嬢をそそのかしてん。それでも……それでも!!』
鏡が揺れる。
『あの娘の努力が、報われへんのはおかしいやろ!! あの娘がどれだけ頑張ってたか! ウチは知ってんねん! ウチは隣でずっと見てきてん!! だから、だから……』
「──だから、君が、雅ちゃんの友達である君が、救うんだ」
ダイチは手を伸ばし、豪華な装飾の施された鏡のフレームに触れる。
「たとえそれが自分が誘ってしまった道だったとしても。間違いだと気付いたのなら、一緒に戻るんだ」
フレームを両手で強く握り締め、鏡の中の、雅の友達から目を離さない。
「もし努力が報われないなんておかしいと思うのなら、今こうやって縋ってるのなら、それは雅ちゃんが努力をした意味を、雅ちゃんの意志を踏み躙っているのと一緒だ!」
ダイチの脳裏に、レッドラグーンの皿に盛られた、ぐずぐずになったハンバーグが映る。
『……自分、ほんまに世界を救った英雄なん? 酷いなぁ、ウチにそんな残酷なことさせるなんて……………まっ、しゃあないな』
鏡の中の精霊の目に、燃えるような生気が宿る。
『──目ぇ覚めたわ。ありがとな、英雄はん』
「俺の名前は陽ノ下大地。英雄なんて呼ばれる人間じゃないよ」
『へぇ……まぁええわ。なら、次はウチの番やね』
コホンと咳払いをし、姿勢を正した精霊は、胸を張った。
『ウチの名前はローズピーコック。お嬢の友達や。以後よろしゅうな、ダイチはん』
『ウチが、あの娘を救ったるから……よう見ときや!』