オレ様っ娘な相棒(ドラゴン)は、エロ本なんかに負けたくない!〜共に世界を救った二人が、人生のパートナーになるまで〜 作:APP3
「もし部活、どうするか迷ってるんだったらさ、サッカー部のマネージャーになってよ!」
あの日、孤立していた私に、あぁやって声を掛けてくれたことによって、どれだけ救われたか、貴方は知らないのだろう。
「大丈夫? 雅ちゃん。立てる?」
あの日、遠足で迷子になって、年甲斐も無く泣いてしまった私に、あぁやって手を差し伸べてくれたことが、何よりも嬉しかったのだと、貴方は知る由もないだろう。
それでも良いと、この気持ちを胸の奥に押し込めたその時から、きっと間違っていたのだ。
◯────
「鏡よ鏡。この世で一番美しいのはだぁれ?」
──それはもちろん、真琴雅様、他なりません。
「鏡よ鏡。大地君に一番相応しい女の子はだぁれ?」
──それはもちろん、真琴雅様、他なりません。
豪華絢爛、華やかな装飾が施された城の中。
そんな城内の真ん中に似つかわしくない、巨大な鳥籠。
その中で一人、桃色のフリルをあしらったドレスに身を包む少女が手鏡を持ち、問い掛け続けていた。
「…………なら、なら……! なんで私は振られたの!? 誰よりも美しいって! 相応しいんだったらどうして!?」
その問いに、答えが返ってくることはない。
「……鏡よ鏡……この世で一番美しいのは、だぁれ?」
──それはもちろん、真琴雅様、他なりません。
「鏡よ、鏡……大地君に…………大地君に、一番相応しい女の子は、だぁれ?」
──それはもちろん、真琴雅様、他なりません。
ぼたぼたと溢れ落ちる涙。
その涙が美しいドレスを汚す。
「…………鏡よ、鏡……」
声が出ない。
声を出そうにも、嗚咽に変換されてしまう。
「……大地君に、相応しい女の子は、だぁれ」
──それはもちろん、真琴雅──
『──それを決めるんはウチらじゃあない。あの少年自身や』
聞き慣れた声が、手鏡から聞こえた。
涙で歪む視界を手で拭いながら、手鏡を見る。
そこには自分自身の姿が映っていた。
しかし、自慢の黒髪の中に桃色のメッシュが入っているのが見える。
「……ローズ?」
『なぁに泣いとんねんお嬢。綺麗な顔が台無しやで?』
鏡に映るのは、目元を真っ赤に腫らした自分とよく似た顔だった。
多分、自分も同じく酷い顔をしているのだろう。
『お嬢…………ウチは怖かったんや。お嬢に嫌われるんが』
『嫌われへんために、役立たずやって思われへんために、お嬢の願いを無理矢理にでも叶えたくなったんや』
『それがどれだけ酷いことやと分かってても……ウチはお嬢の友達失格や……』
鏡の中でローズピーコックは俯く。
そんなローズピーコックを見て、雅は鏡を撫でた。
「ねぇ、ローズ……私、結局なんにも変われてなかった」
「ローズに言われて、一生懸命頑張って、綺麗になっても、中身はずっとあの時のまま…………ダイチ君に手を取ってもらった、弱い自分のまま……」
「あの変な人にチャンスがあるならどうするって聞かれた時、私、何を願ったと思う?」
「ダイチ君と付き合いたいだとか……一緒になりたいだとか、そんなんじゃなかったの」
震える手で握る手鏡の上に、涙が弾ける。
「ただ、ダイチ君にもう一度、サッカー部に誘われた時みたいに、あの遠足の時みたいに、手を差し伸ばされたいって、そう願ったの……」
雅は、鏡に向けて笑い掛ける。
涙も鼻水も拭わず、"汚い顔"で。
「今やっと気付いたの。私は、強くなりたかったんだって。物語のお姫様みたいに、誰かに助けられるのを待つんじゃなくて、自分の足で立って、生きていきたいんだって」
『お嬢……』
「それを教えてくれたのは、ローズ、貴女だから。──ありがと。私なんかを友達だって言ってくれて」
『…………ごめん……ごめんなぁ……!! ウチが不甲斐ないばっかりに!!』
「いいの、いいから……私こそごめんねぇ……」
雅は手鏡を抱き締める。
二人の嗚咽が響く城内。
キシキシと軋む音と共に──光の粒子へとなった。
◯────
数分後、プレハブ小屋の扉が開き、雅とローズピーコックが出てきた。
「大地君……」
腕を擦り、目線を逸らす真琴雅。
昨日の出来事を思い出し、少し気まずい空気が流れる中、
『お嬢』
そんな空気を断つべく、ローズピーコックが雅に促す。
「……あのね。私のせいで、皆に迷惑をかけちゃって、本当にごめんなさい……」
頭を深く下げる雅。
ダイチの答えを待つ。
「雅ちゃん。顔上げて」
「本当に……本当に……ごめんなさい……………」
「雅ちゃん……」
頭を上げない。
上げることができない。
「……ローズは、関係ないんです……私が願っちゃったから、叶えようとしてくれただけで……だから、だから──」
「──私の友達を、許して下さい……!」
ダイチは雅の、震える頭頂部を見つめる。
──もし、自分が雅ちゃんの立場だったらどうしていただろうか。
ふと、そんなことを思ってしまった。
叶えたい願いがあって、レッドラグーンと共に掴もうとする。
そして、その結果として色んな人に迷惑をかけてしまう。
「…………」
ダイチは、雅の肩に触れる。
驚いたのか、ビクッと震えた雅は、恐る恐る顔を上げた。
「ローズピーコック。皆にかけた催眠を解いてくれるか?」
『もちろんや』
「特に副作用だとかなんだとか、あったりするか?」
『……意識の混濁はあるやろうけど、一日しっかり睡眠を取ったら元通りのはずや』
「よし」
顔を上げた雅と目を合わせる。
「……雅ちゃん。多分、俺も雅ちゃんの立場だったら、同じことをして、同じように謝っていたと思う。だから──」
──俺は許すよ。
その言葉を口にしようとした、その時──
「──甘いですね。世界を救った英雄は」
ノイズ混じりの、男にも女にも聞こえるような声が背後から聞こえた。
振り返るとそこには、黒い外套を身に纏い、フードを深く被った何者かが立っていた。
『こいつ! こいつや! お嬢に手を出しよったんわ!』
雅とよく似た姿のローズピーコックが、ダイチと雅を自身の背へと隠すため躍り出る。
「下級精霊ですか。貴女に用はない」
『ウチにはあんねん!!』
ローズピーコックは腕を空へと伸ばし、そのまま振り下ろすと、辺りを舞っていた鏡が一斉に黒衣の人物へと向かう。
黒衣の人物はその鏡を軽やかに避ける。
「そこで大人しくしていて下さい」
『なっ!?』
地面が割れる。
そして、ローズピーコックの足元から、モグラのような姿をした精霊が飛び出し、ローズピーコックの両腕を掴み、地面へと叩きつけた。
「用があるのは君達だ」
二人のほうへと、ツカツカと歩き、近付いてくる黒衣の人物。
「雅ちゃん! 早く逃げて!」
ダイチは雅へと叫びながら、ボロボロの体に鞭を打ち、箒を構える。
「勇ましいですね。ですが、自慢のペットがいない状況で、一体何ができるのですか?」
ダイチは黒衣の人物の言葉を無視し、箒を投げつける。
投げた箒を右手で叩き飛ばしたのを見たと同時に、アルマリングに手を添え、相手に向ける。
「ドラグーン! 力を貸してくれ!!」
赤く点滅していた宝石が、輝きを帯びていく。
そして、世界を救った、レッドラグーンの願いの奔流が、炎となり、黒衣の人物へと噴き出される。
しかしそれも、人間の脚力とは思えない力で飛び上がられ避けられてしまう。
「精霊の力の限定的行使ですか。燃費の悪い技でしょうに」
飛び上がった黒衣の人物はダイチに手を向けると、外套の下から、夥しい量の茨が伸びてくる。
咄嗟に回避しようとしたが、力を行使したせいか、どっと力が抜けたような感覚に襲われ目眩がしてしまう。
そのまま茨がダイチに触れようとした、その時────ダイチは突き飛ばされた。
ダイチが地面に倒れ込む刹那、目に入ったのは、震えながらも、涙を浮かべながらも、炎が宿る瞳でこちらを見つめた、雅の姿だった。