※この作品はR-18です。

オレ様っ娘な相棒(ドラゴン)は、エロ本なんかに負けたくない!〜共に世界を救った二人が、人生のパートナーになるまで〜   作:APP3

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第十九話 目覚めのキスは必要ない

「もし部活、どうするか迷ってるんだったらさ、サッカー部のマネージャーになってよ!」

 

 

 あの日、孤立していた私に、あぁやって声を掛けてくれたことによって、どれだけ救われたか、貴方は知らないのだろう。

 

 

「大丈夫? 雅ちゃん。立てる?」

 

 あの日、遠足で迷子になって、年甲斐も無く泣いてしまった私に、あぁやって手を差し伸べてくれたことが、何よりも嬉しかったのだと、貴方は知る由もないだろう。

 

 それでも良いと、この気持ちを胸の奥に押し込めたその時から、きっと間違っていたのだ。

 

 

◯────

 

 

「鏡よ鏡。この世で一番美しいのはだぁれ?」

  

 

 ──それはもちろん、真琴雅様、他なりません。

 

 

「鏡よ鏡。大地君に一番相応しい女の子はだぁれ?」

 

 

 ──それはもちろん、真琴雅様、他なりません。

 

 豪華絢爛、華やかな装飾が施された城の中。

 そんな城内の真ん中に似つかわしくない、巨大な鳥籠。

 

 その中で一人、桃色のフリルをあしらったドレスに身を包む少女が手鏡を持ち、問い掛け続けていた。

 

 

「…………なら、なら……! なんで私は振られたの!? 誰よりも美しいって! 相応しいんだったらどうして!?」

 

 

 その問いに、答えが返ってくることはない。

 

 

「……鏡よ鏡……この世で一番美しいのは、だぁれ?」

 

 

 ──それはもちろん、真琴雅様、他なりません。

 

 

「鏡よ、鏡……大地君に…………大地君に、一番相応しい女の子は、だぁれ?」

 

 

 ──それはもちろん、真琴雅様、他なりません。

 

 ぼたぼたと溢れ落ちる涙。

 その涙が美しいドレスを汚す。

 

 

「…………鏡よ、鏡……」

 

 

 声が出ない。

 声を出そうにも、嗚咽に変換されてしまう。

 

 

「……大地君に、相応しい女の子は、だぁれ」

 

 

 ──それはもちろん、真琴雅──

 

 

『──それを決めるんはウチらじゃあない。あの少年自身や』

 

 

 聞き慣れた声が、手鏡から聞こえた。

 

 涙で歪む視界を手で拭いながら、手鏡を見る。

 

 そこには自分自身の姿が映っていた。

 しかし、自慢の黒髪の中に桃色のメッシュが入っているのが見える。

 

 

「……ローズ?」

 

『なぁに泣いとんねんお嬢。綺麗な顔が台無しやで?』

 

 

 鏡に映るのは、目元を真っ赤に腫らした自分とよく似た顔だった。

 多分、自分も同じく酷い顔をしているのだろう。

 

『お嬢…………ウチは怖かったんや。お嬢に嫌われるんが』

 

『嫌われへんために、役立たずやって思われへんために、お嬢の願いを無理矢理にでも叶えたくなったんや』

 

『それがどれだけ酷いことやと分かってても……ウチはお嬢の友達失格や……』

 

 

 鏡の中でローズピーコックは俯く。

 

 そんなローズピーコックを見て、雅は鏡を撫でた。

 

 

「ねぇ、ローズ……私、結局なんにも変われてなかった」

 

「ローズに言われて、一生懸命頑張って、綺麗になっても、中身はずっとあの時のまま…………ダイチ君に手を取ってもらった、弱い自分のまま……」

 

「あの変な人にチャンスがあるならどうするって聞かれた時、私、何を願ったと思う?」

 

「ダイチ君と付き合いたいだとか……一緒になりたいだとか、そんなんじゃなかったの」

 

 

 震える手で握る手鏡の上に、涙が弾ける。

 

 

「ただ、ダイチ君にもう一度、サッカー部に誘われた時みたいに、あの遠足の時みたいに、手を差し伸ばされたいって、そう願ったの……」

 

 

 雅は、鏡に向けて笑い掛ける。

 涙も鼻水も拭わず、"汚い顔"で。

 

 

「今やっと気付いたの。私は、強くなりたかったんだって。物語のお姫様みたいに、誰かに助けられるのを待つんじゃなくて、自分の足で立って、生きていきたいんだって」

 

『お嬢……』

 

「それを教えてくれたのは、ローズ、貴女だから。──ありがと。私なんかを友達だって言ってくれて」

 

『…………ごめん……ごめんなぁ……!! ウチが不甲斐ないばっかりに!!』

 

「いいの、いいから……私こそごめんねぇ……」

 

 

 雅は手鏡を抱き締める。

 二人の嗚咽が響く城内。

 キシキシと軋む音と共に──光の粒子へとなった。

 

 

◯────

 

 

 数分後、プレハブ小屋の扉が開き、雅とローズピーコックが出てきた。

 

 

「大地君……」

 

 

 腕を擦り、目線を逸らす真琴雅。 

 昨日の出来事を思い出し、少し気まずい空気が流れる中、

 

『お嬢』

 

 そんな空気を断つべく、ローズピーコックが雅に促す。

 

「……あのね。私のせいで、皆に迷惑をかけちゃって、本当にごめんなさい……」

 

 頭を深く下げる雅。

 ダイチの答えを待つ。

 

 

「雅ちゃん。顔上げて」

 

「本当に……本当に……ごめんなさい……………」

 

「雅ちゃん……」

 

 

 頭を上げない。

 上げることができない。

 

 

「……ローズは、関係ないんです……私が願っちゃったから、叶えようとしてくれただけで……だから、だから──」

 

「──私の友達を、許して下さい……!」

 

 

 ダイチは雅の、震える頭頂部を見つめる。

 

 ──もし、自分が雅ちゃんの立場だったらどうしていただろうか。

 

 ふと、そんなことを思ってしまった。

 叶えたい願いがあって、レッドラグーンと共に掴もうとする。

 

 そして、その結果として色んな人に迷惑をかけてしまう。

 

 

「…………」

 

 

 ダイチは、雅の肩に触れる。

 驚いたのか、ビクッと震えた雅は、恐る恐る顔を上げた。

 

 

「ローズピーコック。皆にかけた催眠を解いてくれるか?」

 

『もちろんや』

 

「特に副作用だとかなんだとか、あったりするか?」

 

『……意識の混濁はあるやろうけど、一日しっかり睡眠を取ったら元通りのはずや』

 

「よし」

 

 

 顔を上げた雅と目を合わせる。

 

 

「……雅ちゃん。多分、俺も雅ちゃんの立場だったら、同じことをして、同じように謝っていたと思う。だから──」

 

 

 ──俺は許すよ。

 

 その言葉を口にしようとした、その時──

 

 

「──甘いですね。世界を救った英雄は」

 

 

 ノイズ混じりの、男にも女にも聞こえるような声が背後から聞こえた。

 

 振り返るとそこには、黒い外套を身に纏い、フードを深く被った何者かが立っていた。

 

 

『こいつ! こいつや! お嬢に手を出しよったんわ!』

 

 

 雅とよく似た姿のローズピーコックが、ダイチと雅を自身の背へと隠すため躍り出る。

 

 

「下級精霊ですか。貴女に用はない」

 

『ウチにはあんねん!!』

 

 

 ローズピーコックは腕を空へと伸ばし、そのまま振り下ろすと、辺りを舞っていた鏡が一斉に黒衣の人物へと向かう。

 

 黒衣の人物はその鏡を軽やかに避ける。

 

 

「そこで大人しくしていて下さい」

 

『なっ!?』

 

 

 地面が割れる。

 そして、ローズピーコックの足元から、モグラのような姿をした精霊が飛び出し、ローズピーコックの両腕を掴み、地面へと叩きつけた。

 

 

「用があるのは君達だ」

 

 

 二人のほうへと、ツカツカと歩き、近付いてくる黒衣の人物。

 

 

「雅ちゃん! 早く逃げて!」

 

 

 ダイチは雅へと叫びながら、ボロボロの体に鞭を打ち、箒を構える。

 

 

「勇ましいですね。ですが、自慢のペットがいない状況で、一体何ができるのですか?」

 

 

 ダイチは黒衣の人物の言葉を無視し、箒を投げつける。

 

 投げた箒を右手で叩き飛ばしたのを見たと同時に、アルマリングに手を添え、相手に向ける。

 

 

「ドラグーン! 力を貸してくれ!!」

 

 

 赤く点滅していた宝石が、輝きを帯びていく。

 そして、世界を救った、レッドラグーンの願いの奔流が、炎となり、黒衣の人物へと噴き出される。

 

 しかしそれも、人間の脚力とは思えない力で飛び上がられ避けられてしまう。

 

 

「精霊の力の限定的行使ですか。燃費の悪い技でしょうに」

 

 

 飛び上がった黒衣の人物はダイチに手を向けると、外套の下から、夥しい量の茨が伸びてくる。

 

 咄嗟に回避しようとしたが、力を行使したせいか、どっと力が抜けたような感覚に襲われ目眩がしてしまう。

 

 そのまま茨がダイチに触れようとした、その時────ダイチは突き飛ばされた。

 

 ダイチが地面に倒れ込む刹那、目に入ったのは、震えながらも、涙を浮かべながらも、炎が宿る瞳でこちらを見つめた、雅の姿だった。

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