オレ様っ娘な相棒(ドラゴン)は、エロ本なんかに負けたくない!〜共に世界を救った二人が、人生のパートナーになるまで〜 作:APP3
ぺらり、ぺらりと、紙がめくれる音が部屋に響く。
『綺麗な女の人ばかりだな?』
レッドラグーンは、尻尾をゆらゆら揺らしながら、ダイチの勉強机の上に置きっぱなしだった雑誌をめくる。
めくればめくるほど、布面積が少なくなっていく女性たち。
遂には何も身に着けていない、生まれたままの姿まで映されていた。
『寒そうだな。風邪を引いたら大変だろうに……』
ぺらり、ぺらり。
そんな女性たちが自身の胸を触り始め、頬を染めて自身の性器を両手で広げたりと、過激な内容になっていく。
しかし、本を読む当の本人はというと、
『うーむ。なんなのだこの本は……』
首を傾げるだけであった。
『こんな本、今まであったか? ……よしっ』
机の上で悩んでいたレッドラグーンであったが、何か思いついたのか、レッドラグーンはその本を抱え、窓を開ける。
そして、気持ちのよい雨上がりの日差しを浴びながら、小さな翼をはためかせた。
◯────
『で、私の所に来たわけですか』
『そうなのだ! 物知りのお前なら知っていると思ってな!』
深い青緑色の長髪を揺らし、やれやれと首を振ったのは、湊の契約精霊、"ブルーオルカ"だった。
川のせせらぎが聞こえる涼しげな川辺に、ビーチパラソルを立てた二匹のお気に入りの場所。
レッドラグーンはあの本片手に、ブルーオルカの下へと訪れていた。
ブルーオルカは自身が読んでいた分厚い本をパタリと閉じ、レッドラグーンから本を受け取る。
『そうですね……これがダイチ君の机の上に置かれていたのですよね?』
『そうだ。こんな本、いつも掃除していた時には見かけなかったからな』
ふよふよと浮いていたレッドラグーンは、レジャーシートの上、足を斜めに流して座るブルーオルカの膝上に着地し、丸くなる。
そんな様子を見たブルーオルカは薄く笑い、レッドラグーンの背中を撫でた。
『で、どーなのだ?』
『んー……えっと、あまり詮索しないほうが良いと私は思うのですが……』
『どうしてだ? 本というものは知識を得たり娯楽を得たりする為に読むものだろう? ダイチもこの本を通して、何か学びを得たいから持っているはずだ』
『そうですねぇ…………はぁ。こうやってダイチ君が聞かれても可哀想ですし、教えるしかありませんね』
ブルーオルカは、何故だ何故だと唸るレッドラグーンを見て、コホンと咳払いし、口を開く。
『ええと……その本はですね、異性の裸を見て、性的欲求を満たす為の本です』
『性的欲求?』
『その、えっと……ムラムラとした、悶々とした、言葉には表しにくい気持ちを落ち着ける為の……』
『ほう!』
少し頬を染めながら、ブルーオルカは言葉を選ぶように説明を続けた。
『──というわけです…………わかりましたか?』
やがて話し終えると、小さく息を吐いた。
『なるほどな。その性的欲求を満たす為に、このような本で、人間の女の裸を観察するわけだ』
ブルーオルカに注いでもらったお茶の入ったコップを傾け、喉を潤すレッドラグーン。
なるほどと、納得したかのように首を縦に振る。
しかし、そのまま顔を俯けてしまった。
『どうかしましたか?』
『欲を満たすためにこのような本を見るのはよくわかった。その欲が、人間にとって切っても切れないものだとも。それでも──オレ様に隠れてみる必要はないのではないか?』
ざわりと、周囲の木々がざわめき出す。
ブルーオルカは膝の上に座るレッドラグーンを宥めるように、ポンポンと頭を触る。
『そこら辺の感覚は、私たち精霊ではわかりにくいかもしれないですね。羞恥心だったり、自尊心だったりと、色々あるのですが……』
『うーむ』
短い腕を組むレッドラグーン。
──その心中にあるのは、ダイチのことだけだ。
何故自分に隠すのか。何故自分に相談してくれないのか。
自分たちは親友であり、どんな悩みも共有できる間柄なのではないのかと。
そんな考えが暗闇の中を行ったり来たりしていたレッドラグーンだったが、ポンッと頭の中で光が灯った。
『なぁブルーオルカ。それなら、こんな本より、"直接"見た方が効率よくその欲求を満たせるよな?』
『え?』
『そうだそれだ! それならダイチもオレ様に隠すことなく欲求を満たせる!』
『あの、レッドラグーン?』
『よし、ブルーオルカ! オレ様が成さなければならないことがわかったぞ!』
『ちょっと!?』
レッドラグーンはブルーオルカの膝から飛び上がり、本を抱え直す。
ブルーオルカはそんなレッドラグーンに手を伸ばし、止めようとするも届かず空を切る。
『今日はありがとな! また相談に乗ってくれ!』
『レッドラグーン! こういう話はデリケートな話なのでダイチ君と──』
ブルーオルカが途中まで何か言っていたような気もするがレッドラグーンの耳には入らない。
吹き付ける風を切りながら、ものすごいスピードで自宅まで飛んでいく。
『待っていろよダイチ! オレ様が全部解決してやる!!』
◯────
「ナイスシュート!」
ダイチの脚から放たれた一閃。
ボールがキーパーの股下を抜き、ゴールネットを揺らした。
「ナイスダイチ! 今度の大会も任せたぞ!」
「おうおう。任せとけって!」
チームメイトとハイタッチをするダイチは空を見上げる。
部活が終わりそうな時間なのにも関わらず、まだまだ明るい空。
中学生生活最後の試合が、もうすぐ訪れようとしていた。
「ふぅ……」
ジャーっと、流れ落ちる水が排水口へと流れ込む。
日が暮れ始め、夕日が地面に色付け始めた頃、ダイチは校庭近くの水道で頭を濡らしていた。
「大地君、お疲れ様。よかったらこれ使って?」
「おっ、雅ちゃん。サンキュ!」
顔を上げると、夕日に透ける艶やかな黒髪が目に飛び込んできた。
枝毛一本すら見当たらない手入れの行き届いた髪を流すのは、サッカー部マネージャーの真琴雅だ。
キュッと蛇口を閉め、濡れた前髪を掻き上げながらタオルを受け取った。
「もうすぐ最後の大会だね。大地君は凄いなぁ、ウチのエースだし、推薦も貰ってるんでしょ?」
「まぁな。プロのサッカープレイヤー! 絶対なってやるんだ!」
シトラス香るタオルで髪を拭き終わり、首に下げたダイチはグッと手を握り込み上へと突き出す。
「……大地君ならなれるよ、きっと。私、応援するから」
「おう! まっ、その前に、この大会で優勝しなきゃな!」
ヘヘッと鼻を掻くダイチの姿を見て、隣に立つ雅はクスリと上品に笑い──自身の体操服の裾をギュッと握る。
「あのね、大地君。私ね──」
「──雅先輩! ちょっと手伝って欲しいことがあって!」
何か雅が言おうとしたその時、後輩のマネージャーに声をかけられ、中断される。
「大地君……ごめん、手伝ってくるね」
「おう。いつもありがとな!」
申し訳なさそうに眉を下げた雅を送り出したダイチ。
後輩の元へと駆けていく雅の後ろ姿をぼーっと眺めていると、
「よっ、部活終わったのか?」
「うわっ! ……って湊かよ。びっくりするからやめろって」
背後からトンッと肩を叩いてきたのは、蒼井湊だった。
「またこんな時間まで残って自習か?」
「当たり前だろ? 家じゃ集中できないしな」
「勉強熱心なこって」
「ほらほら、勉強の話なんてどうでもいいだろ。早く帰ろーぜ?」
適当に軽口を叩きながら、ダイチは帰る準備を終え、湊と共に帰路に着いた。
「というか、やっぱ真琴さんって綺麗だよな」
「急にどーしたんだよ?」
日がどんどん沈んでいく中、ぶらぶらと二人で歩いていると、藪から棒に湊が声を上げた。
「いやさぁ、転校してきた頃とはめっちゃ別人になったよなって」
「そうかぁ?」
「中学に上がって転校してきたけど、その時はなんかあれだったじゃん。暗いって言えばいいのかな?」
「んー……意識したことなかったな」
しみじみと頷く湊を横目に、ダイチは昔の雅を記憶の中から引き出す。
意識したことはなかったが、言われてみれば、今のように明るい子ではなかったような気もする。
どこの部活に入ろうかと迷っている彼女を誘ったのは覚えているが、そこから部活動以外であまり関わりはなかった。
それはそうと湊の言う通り、綺麗なのは確かだ。
「なーに考え込んでんだ? もしかして真琴さんに気でもあんのかよ?」
「そんなんじゃねぇって」
「へぇ? いやはや、さっきは残念だったな」
「さっきからどーしたんだよ湊。ちょっとキモいぞ?」
悪い笑みを見せる湊の肩をダイチは軽く小突き、湊は悪い悪いと適当に流す。
「じゃっ、また明日な」
「おぉ。またな」
住宅街のいつもの十字路にて湊と別れ、肩に掛けた鞄を掛け直しながら進む。
そして、集合団地の十階、自宅の扉の前まで辿り着き、ドアノブを握り、回した。
◯────
「ただいまー」
扉を開け、中に入ると明かりがついておらず、暗かった。
そして、いつもは飛んでくるはずの返答と、レッドラグーンの姿もなかった。
「あれ、ドラグーン?」
荷物を風呂場前に置き、リビングを覗く。
窓から差し込む夕日が、薄暗いリビングのフローリングに色を付ける。
「出かけてんのかな?」
辺りを見渡していると、テレビの前に置かれたテーブルの上、一枚の紙が置かれているのが見えた。
「これは……」
──でかけるからおそくなる!
拙い文字で書かれたそれは、レッドラグーンが書いたのだと分かる。
「ブルーオルカの所にでも行ってるのか?」
にしては、レッドラグーンがこんな時間まで帰ってきていないのは初めてだ。
少し不安を覚えたダイチだったが、まぁそんな日もあるかと不安を飲み込み、風呂場へと向かった。
◯────
怖いほど静かな浴室。
怖いほど静かなリビング。
あの聞き慣れた声が、どこに耳を向けても聞こえてこない。
シャワーを浴び終えたダイチは、嫌な寂しさを紛らわせる為、いつもは見ないテレビを付けながら、作り置きの夕ご飯を食べる。
名前も知らない芸能人の下品な笑い声が、リビングに虚しく響く。
「ドラグーン……」
──あぁ、本当に嫌だ。
ダイチは自身の腕を擦る。
何故こんなにも寒いのか。
何故こんなにも目尻が熱くなるのか。
「早く帰ってこいよ……」
少し会えないだけで、こんなふうになってしまうなんて。
──本当に嫌だ。
ダイチは食べ終わった食器を軽く洗い流し、シンク内に置く。
片付けは帰ってこないレッドラグーンにやってもらおう。
なんて、細やかな八つ当たりを考えつつ、リビングの電気をパチリと消す。
──もし、明日になっても帰ってこなかったら?
嫌な考えが頭浮かぶ。
そんな事は絶対にあり得ないと、ダイチは頭を振る。
レッドラグーンは親友だ。
"一生"側にいてくれると、"一生"の友達だと誓ったのだ。
いなくなるわけなんかない。
置き手紙にも書いてあっただろう。
出掛けるから遅くなると。
だから大丈夫だ。アイツは絶対に嘘はつかない。
テーブルの上に置かれたレッドラグーンの置き手紙を手に取り、握り締め、自室へと足を向けた。
──この日、この時、この瞬間。
ダイチは一生忘れることはないだろう。
自室の扉を開け、目に飛び込んできた光景。
全開に開け放たれた窓から入る突風に、パタパタと音を立てて揺られるカーテン。
暗い自室を照らす月光が、部屋の中心に人影を創り出していた。
そして、その人影を生み出していた人物。
焔のように風に揺られる長い髪。
芸術品かのように整った顔立ち。
惜しげもなく晒す肌色の上、大事なところには艶のある朱色の鱗が集まり、扇情的な下着のようにも見えてしまう。
『すまないダイチ! 遅くなってしまったな!』
ニコリと微笑むその笑顔。
種族が変わっても、ダイチには分かる、あの人懐っこい笑み。
「……ドラグーン?」
『ただいまダイチ! もう寝るのか?』
──女の子になってしまった、レッドラグーンだった。