オレ様っ娘な相棒(ドラゴン)は、エロ本なんかに負けたくない!〜共に世界を救った二人が、人生のパートナーになるまで〜 作:APP3
「雅、ちゃん!」
地面へと倒れ込んだダイチ。
雅の方を見ると、茨が体に巻き付き、拘束されてしまっていた。
ところどころ、茨の棘が刺さっているのか、血が流れてしまっている。
「よく見ておきなさい、英雄。身に余る欲望を抱えた者の末路を」
「やめろ!!」
ダイチは手を伸ばし叫ぶ。
しかし、その手は届かない。
「いっ?! があっ!!」
雅の肌を突き破り、内側から植物の根のようなものが生えてくる。
その根が雅の体に巻き付き、全身を覆っていく。
そして、伸びた根が地面へと突き刺さると同時に──世界が揺れた。
地面が脈動し、校庭から巨大な根が姿を現す。
地中から生えてきた巨大な根は雅を呑み込むと、急激に成長していく。
地面の揺れによってまともに動けないダイチの足元が割れる。
「うわぁああ!!!」
そしてそのまま、地中へと滑り落ちていく。その時、
『ダイチはん!!』
宙に浮く鏡の中から半身出した、ローズピーコックの姿が目に映る。
ダイチは手を伸ばし、伸ばされた手を掴む。
『よしっ! しっかり掴まっとき!』
ローズピーコックに引っ張り上げられ、浮かぶ鏡によって割れる地面から脱出する。
「ごめんっ! 助かった!!」
『気にせんでええ! それより今からどうするかって──くっ!?』
その割れた地面から、先程のモグラの精霊がもう一度掴もうと飛び出してくる。
『自分しつこいで!!』
何とか避けようとするも、ローズピーコックの手にぶら下がったダイチの足を掴まれてしまう。
「ドラグーン! もう一度力を貸してくれ!!」
ダイチはアルマリングに触れ、もう一度赤の奔流を発動させると、モグラの精霊は炎に包まれる。
そして、砂が舞うように消滅した。
ダイチはローズピーコックと共に空を飛びながら、辺りを一望する。
校庭の真ん中、成長した根は今や、校舎よりも高く成長し、巨木へと成っていた。
辺りを包む紫色のドームと同様に、紫色の葉の生えた枝が、空を覆っていく。
「雅ちゃん……」
『ダイチはん。不味いでこれ……下をよく見てみぃ』
下を見ると、木の周辺の空気が歪み、その歪みから虎や象、鯉に蟹など、様々な精霊が現れている。
その全ての精霊に、ツタのようなものが生い茂り、生気が見えない。
──過去よく見た、欲望の力によって制御を失ってしまった精霊達によく似ている。
『あんなん全部対応してたら、いくら力があっても足りひん…………ダイチはん、何かええ案ある? ないんやったら、何とかあんただけでも逃げれるよう時間は稼ぐで』
「…………」
ダイチはアルマリングに触れる。
レッドラグーンの力の行使。
一度使うだけでとんでもない量の願いエネルギーを損耗してしまう。
それを今、二回使用した。
アルマリングに貯めてあったエネルギーは底をつき、次の発動には自前のエネルギーを使わなければならない。
そうすればどうなるのか。
ダイチはアルマリングを強く握り締める。
「……ある」
『ほんまか!?』
「ある、けど、成功は保証できない……」
『……なら、やらん後悔よりやる後悔や! 教えてみぃ。ウチも乗ったるで、その博打』
ローズピーコックは、自身の手にぶら下がるダイチを引っ張り上げ、鏡のフレームに座らせる。
そして、にやりとダイチに笑みを向けた。
「一応聞きたいんだけど、雅ちゃんの場所は分かるか?」
『契約は切れてないみたいやから、うっすらとは分かるで』
「よし。そこまで何とか俺を連れていけるか?」
『任せとき! 絶対に届けたるわ!』
頷き合った二人。
ローズピーコックはダイチを振り落とさないように、腕を絡める。
『ちょっとばかし揺れるけど、気いつけや!』
「おう!」
宙に浮く鏡は、ローズピーコックの声に呼応するようにスピードを上げ、巨木へと一直線に向かう。
『で、何するつもりなん?』
「俺がドラグーンの力を使って、雅ちゃんが呑み込まれているであろう場所に穴を開ける。その穴からそのまま引っ張り出すって算段だ」
『……いけんの? それ』
「さっきのモグラをみたか? あの消滅の仕方は、欲望エネルギーを消滅させた時に起こるモノだ。レッドラグーンの炎には欲望エネルギーを消滅させる力がある。あの巨木が雅ちゃんの欲望エネルギーを吸って成長してるのなら、効くはずだ」
『随分とまぁ、ウチらの都合のええように考えとるな。悪ないで。上等や!!』
風を切り、そのまま巨木へと辿り着くはずだった。
しかし、目の前をカラスの精霊や鳩の精霊が何匹も集まり、行く手を阻む。
『ちぃっ!』
殺到してくる鳥の群れを躱すも、高度が下がってしまい、地面へと近付く。
背後を見れば、精霊達が自分達を捕まえようと追いかけてくるのが見える。
「追い付かれるぞ! もっとスピード出ないのか!?」
『無茶ゆうな! そもそもウチの鏡はこうやって飛び回るもんちゃうねん!!』
何とか追い付かれないようにスピードを上げるも、どんどんと差が縮まっていく。
そんな時、精霊が一匹、また一匹と標的を変え始める。
チラリと目を動かすと、別の鏡が囮となり、注意を引きつけている。
『どうや! これでだいぶ減らせたやろ!!』
鏡を操り、空を奪う鳥の精霊達に向け、ボールを発射させる。
すると、精霊達に塞がれていた空への道が開けた。
「今だ! 上がれ!」
ダイチはその一瞬を見逃さず、指を指す。
鏡の高度は上がり、精霊達の横をすり抜け空に上がる。
木の幹に沿ってぐんぐん上がっていく高度。
『ははっ。抜けたで! このまま一直線や!!』
ローズピーコックが喜んだのも束の間、背後からパキンと嫌な音が聞こえ、振り向く。
今まで囮として動き回っていた鏡が、どんどん精霊に捕まり、割られていっている。
そして、標的を見つけたのだろう、精霊達がどんどん木の幹をよじ登ってくるのが見えた。
「油断するな! このままだと──っ!! 危ない!!」
鷹の精霊の、空からの急降下による奇襲。
腕を絡めたローズピーコックを自身の胸へと引き寄せ、振り下ろされる爪から護る。
「ぐぁっ!?」
『ダイチはん!?』
鮮血が飛び散る。
背中に深々と刻まれる爪の跡。
肉が抉られた痛みに呻くダイチを見て、ローズピーコックは青ざめる。
「大丈夫、だから……! そのまま行けぇ!!」
痛みを堪えるため、腹の底から力を込めて叫ぶ。
ローズピーコックはダイチを一瞥するも、目を深く瞑った後、見開く。
『見えてきたで! あの枝が生えとる所や!!』
そう叫んだローズピーコックだったが、またもや急降下してくる陰が目に映る。
『またかいな! ……しゃあないな!』
ローズピーコックは絡めた腕を解き、鏡に足をかけ、飛び降りる。
そして、体全体を虹色の羽根が覆い、桃色の孔雀へと変化させた。
『お前の相手はウチや!!』
「ローズ!!」
ダイチは、鷹の精霊ともみくちゃになって空から落ちていくローズピーコックに手を伸ばす。
『構わん!! お嬢のこと、任せたで!!』
「くっ………………おう! 任された!!」
ダイチは一人となり、広くなった鏡にしっかり掴まる。
すると、何枚かの鏡が、まるでローズの意志を継ぐように辺りを舞い始めた。
「これは…………うん。待ってろ、雅ちゃん」
付き従う鏡が囮となり、ダイチは迫り来る精霊達を回避する。
そして、ローズピーコックが見つけた、雅の居場所へと辿り着く。
「いくぞ……! ドラグーン!」
アルマリングが光を帯び、赤の奔流が炎の塊と成り、放たれる。
しかし──枝の背後から突如として、カマキリの精霊が木の幹と炎の塊の間に滑り込んできた。
「なっ!?」
カマキリの精霊に当たってしまった炎の塊。
そのカマキリは消滅する直前、ダイチへと鎌を振り下ろす。
──カシャンと、今まで聞いたことのない、嫌な音が響いた。
空に散らばる、透明な石の欠片と、見覚えがある腕輪。
その鎌は、ダイチの腕に巻き付くアルマリングを、断ち切っていた。
宝石の欠片に映る、自身の瞳と視線が重なる。
「まじ、かよ」
乾いた笑いが溢れる。
そして、自身が乗っていた鏡に何かがぶつかり、ダイチはその反動で空へと投げ出された。
頭上を旋回するカラスの精霊。
そんな光景を呆然と眺めながら、重力に逆らうことなく落下していく。
──これで終わり?
ここで死ぬのか?
何もできないまま、一人で?
こちらに向かってくる鏡が見える。
だが、他の精霊に捕まり、割られた。
何枚も、何枚もこちらへと向かってくるも、その全てが割られていく。
しかし割られてもなお、鏡は諦めずこちらへ向かってくる。
ダイチは目を瞑った。
深く息を吐く。
瞼の裏、先程宝石の欠片に移った自分の顔が思い浮かぶ。
ダイチは息を吸う。そして──
「──レッドラグーン!!」
友を呼ぶ声が、空に響き渡る。
──あの時の自分の顔は、何も諦めちゃいなかった。
何故なら、あの熱い灯火が、目に宿っていたのだから。
空が割れる。
光が差し込む。
赤の閃光が、校庭を、校舎を、巨木を照らし尽くす。
『待たせたな、ダイチ』
そして、この世で一番安心できる声が、ダイチを包み込んだ。