オレ様っ娘な相棒(ドラゴン)は、エロ本なんかに負けたくない!〜共に世界を救った二人が、人生のパートナーになるまで〜 作:APP3
「大地、ホントにここでよかったの? もっと別の、高いお店でもよかったのよ?」
「いいのいいの! 飲み物取ってくるけど、母さんは何飲む?」
「……じゃあ、烏龍茶で」
「おっけー!」
ここはダイチの家の近場に位置するファミリーレストラン。
久しぶりの母との外食。
胸踊るダイチは、ギプスの取れた両足で歩き、ドリンクバーへと向かった。
頼んだ料理を一通り楽しみ、オレンジジュースを飲み干したダイチ。
そんなダイチを眺めながら、ダイチの母はコップを握り締める。
「ねぇ、大地──」
「母さん。ごめんなさい!」
何か喋らなければと、口を開こうとした母に被せるように、ダイチは頭を下げた。
「俺、あの時、ホント酷いこと言っちゃった……母さんだって大変なのに、自分のことばっか考えてた……」
「……ダイチ」
「だから……嫌いにならないで…………ほしくて……」
弱々しく小さくなっていくダイチの声。
「……私の方こそ、ごめんなさいね。あの日、なんて励ましたらいいか、分からなかったの…………母親失格ね」
頭を下げるダイチの頭に、ふわりとした、優しい感触が伝わる。
「嫌いになるわけない。貴方は、私とお父さんの、自慢の息子よ」
母の手が、優しくダイチの髪を撫でる。
「──ッ…………うん……うん…………ありがと、母さん」
ダイチは、その温もりを受け入れ、目を瞑る。
カランと、コップの中の氷が溶けて落ちる音がした。
◯────
「よぉ大地、おはよ」
「おはよう湊」
いつも通りの教室。
ダイチは後ろの席に座る湊に適当に挨拶し、自分の席に座る。
──あの事件も今では遠い出来事。
集団催眠だとか、ガス漏れが原因の事故だとか、色々憶測が飛び交ったものの、解明されることなく今日に至っている。
「おっ、ギプス取れたんだな。おめでと」
「おう! これでやっと体育の授業に出れるぜ!」
「まぁ残念ながら、今日が終わったら夏休みなんだけどな」
「はぁ……水泳の授業も全然出れなかったし、夏休みは補習だなぁ」
「いいじゃんか。部活も引退して、暇してるだろ?」
「暇じゃないって…………今回大会で結果残せなかったから前に来てた推薦もおじゃんだし。夏休み後の練習会だとか受験勉強とかでやることいっぱいなんだよ……」
ダイチは窓の外を眺めながら頬杖を突く。
雲一つない晴天であり、燦々と照る太陽が憎い。
「まぁ、お前なら何とかなるって! 俺が保証してやるよ」
「別になぁんの慰めにもならないな、それ」
「ひでぇな!」
いつも通り、適当に掛け合う二人。
少しの静寂の間、やけに五月蝿く聞こえる蝉の声。
「大地」
「?」
「──お前は良くやってるよ。ホントに」
「なんだよ急に。気持ち悪いな」
「心外だなぁ。っと、そんな頑張ってるお前に、これを贈呈してやろう」
湊はカバンから紙袋を取り出し、ダイチに押し付ける。
「おい、これ」
「おっと、まだ開くなよ? 俺からのプレゼントだ。遠慮なく使ってくれ」
「……」
嫌な笑みを浮かべる湊に訝しげな顔を向けつつ、カバンにしまう。
ガラガラガラ。
そんな時、教室の扉が開かれると、担任が入ってくる。
担任の気怠げな声で語られる夏休みの過ごし方が、これから訪れる夏休みへの期待を膨らませていった。
◯───
「ただいまー」
『おかえりダイチ!』
自然と汗が流れ出る外気から一変、玄関に入ると、冷えた空気が汗を冷やしてくれる。
リビングから顔を覗かせたレッドラグーンは、赤髪を揺らしながら人懐っこい笑みを浮かべた。
『そうめん茹でたから早く来いよー』
「おーう」
顔を引っ込ませたレッドラグーンを見送り、洗面所に入る。
制服を脱ぎ、軽くシャワーでも浴びようかと浴室の戸に手をかけたとき、洗面所の鏡に自身の背中が写った。
──大きな爪で切り裂かれた背中。
あの事件で鷹の精霊から傷を付けられた後、数日は地獄のような痛みを味わったが、今では跡が残る程度にまで治っていた。
もうあんな無茶はこりごりだななんて考えながら、ダイチは浴室の戸を開いた。
チュルチュルとそうめんを啜る音と、テレビから流れる、平日昼に放送される情報番組の音が響くリビング。
『んっ……んっ……』
上手に啜れず、はむはむとそうめんを口に運ぶレッドラグーン。
そうめんを啜り終わり、箸をもう一度自分の器の方へと伸ばそうとした時、そんなレッドラグーンの様子に目を奪われる。
──こんな日々がずっと続いたらいいのに。
ただの日常の一幕を目にしただけで、こんなにも愛おしく思ってしまうなんて。
どれだけ自分は、目の前の竜に惚れているのか。
考えるだけで茹だってしまいそうだ。
『ん? どうしたのだ?』
「いや、別に……」
『おかわりが欲しいならまた茹でてやるからな!』
視線に気付いたのか、顔を上げたレッドラグーンと目が合い、目を細めて笑い掛けてきた。
あぁ。もう。本当に。
食事中なのにも関わらず、今すぐにでも手を伸ばし、頭を撫でたくなってしまう。
流石に行儀が悪いので我慢するが、ここ最近、レッドラグーンの一挙手一投足全てに心を乱されて仕方がない。
「ごちそうさま!」
乱暴に手を合わし、パンッと音を鳴らす。
食器をキッチンへと持っていき、軽く水洗いしてからシンクに置く。
『ダイチー、おかわりはー?』
「大丈夫! 今から課題するから、なんかあったら声掛けて!」
リビングに置いていたカバンを引っ掴み、自室へと逃げ込む。
「はぁ………………ちゃんとしなきゃな」
レッドラグーンと初めて体を合わせた時から、怪我が原因で一度もそういったことをしていない。
俗に言う、"溜まっている"、ってヤツなのだろうか?
このまま何も気にせず、最愛の相棒に溺れていけるならどれだけ楽か。
でもそれは──
「──嫌だよなぁ」
多分、レッドラグーンにそんな生活を求めれば、快く受け入れてくれるだろう。
どこまでも深く、日の光さえ届かないほどに深く、一緒に沈んでいってくれるだろう。
果たしてそれは幸せなのか?
ダイチは鞄を開き、夏休みの課題の問題集を取り出す。
そのまま勉強机と向き合い、ペン立てに挿していたシャープペンシルを手に取る。
手慣れた手つきでペンを軽く回し、問題集を開き、問題文を読む。
小難しい文を何度も何度も読み返しそして、
「……わかんねぇな」
そう、呟いた。
小一時間問題集と格闘し、一段落ついたのでペンを置く。
自室から出ると、テレビとリビングの電気が消されており、少し暗かった。
テーブルの上に書き置きがあり、そこには、
──かいものいってくる!
と、拙い文字でデカデカと書かれていた。
部屋をぐるりと見渡す。
どこにもレッドラグーンの姿は見当たらない。
「…………」
ダイチは自室へと戻り、扉を固く閉じる。
そして、鞄を開き、湊から貰った紙袋を取り出した。
正直、中身が何なのか、予想はついている。
もしそれが予想通りなら、確認するには絶好の機会だ。
紙袋に手を突っ込むとガサガサと音が立つ。
予想通りの手触りのモノであり、そのまま紙袋から取り出す。
「あいつ……」
案の定エロ本だった。
しかも、前回貸してもらった本より過激な表紙だ。
ダイチはぺらりとページを捲る。
これまた過激な内容であり、前までの自分だったら卒倒するのではと思ってしまう。
──そう。前までの自分だったらだ。
ぺらり、ぺらり。
ページを捲る。
捲れば捲るほど思い浮かぶ、あの日のレッドラグーンの乱れた姿。
柑橘系のボディソープの匂い。
火傷するような体温。
マシュマロのように柔らかな感触。
目に映る本の内容全て、レッドラグーンに上書きされていく感覚。
「……はぁ。ダメだなこりゃ」
本を閉じ、勉強机の上に投げ置く。
そして、ベッドに体を預け、目を瞑る。
レッドラグーンが帰ってくるまで昼寝でもするかと、ダイチは意識を手放した。
『ダイチ!!』
どれ程時間が経ったのか分からない。分からないが、相棒の怒鳴り声によって意識が無理矢理引き上げられる。
「んっ……どぉした?」
『どーしたじゃない!! なんだこれは!!!』
目を擦り、目を向けた先、ぼやけたピントが徐々に合っていく。
勉強机の前、怒髪天を衝く勢いで仁王立ちする相棒の姿。
そして、左手に掲げられたエロ本。
──眠気が一気に吹き飛んだ。
『またこんなもの読んで!!』
「えっとぉ……ドラグーン? それは誤解で──」
『言い訳なんて聞きたくない!』
「ちょっ!」
ベッドから起こした上半身を、レッドラグーンの手によって押し倒される。
そのまま馬乗りになり、ダイチの顔の横に手を突く。
ギラギラと光る真っ赤な瞳が突き刺さる。
『いいか? こんな紙切れより、オレ様の方が何十何百何千何万何億倍も良いってことを教え込んでやる!! だから──』
最愛の相棒が、耳元に口を近付けてくる。
『──この夏休み、覚悟しろよ?』
囁かれた、冷たくも熱い、無慈悲な宣言。
今から起こる出来事に抵抗できないだろうし、抵抗する資格もない。
レッドラグーンの言うように、この夏休み、自分は無事では済まないのだろう。
──まぁ、仕方ないか。
ダイチは口元を歪める。
何故なら────俺の相棒は、エロ本なんかに負けたくないらしいからだ。
ここまで読んでくれた方々、お気に入り登録、評価感想してくれた方々ありがとうございました!
ここで本編完結とさせていただきます。
夏休み編として何話か投稿したいなとは思っていますが、目処は立っておらず、出せたとしても不定期更新になりそうです。