オレ様っ娘な相棒(ドラゴン)は、エロ本なんかに負けたくない!〜共に世界を救った二人が、人生のパートナーになるまで〜 作:APP3
「大丈夫……絶対助けてやるからな!」
──雷鳴轟く雨の中、少年は駆けていた。
少年の腕の中には、どんどん冷たくなっていく"赤"が抱えられており、少年の体操服は、腕の中の赤から溢れる生暖かい血によって滲む。
少年は走って、走って、走った。
いくら雨粒が全身を濡らそうとも意に介さず、必死に。
もう二度と、自分の目の前で命が失われる光景を、たとえどんな存在だとしても見たくはなかったから。
『大地……誰よりも優しく育てよ』
脳裏を掠める、低く、温かな父の声。
──最期の約束。
雨音に消されそうなその声を、少年は必死に抱きしめた。
忘れてたまるか。離してやるものか。
腕の中の"赤"も、耳の奥の"声"も。
その時、腕の中で微か動く感触を感じ、少年は目を向ける。
うっすらと開かれた赤の眼。
その眼には確かに、強く、熱い炎が燃え上がっていた。
◯────
『……チ! ……イチ!』
誰かの声が、何もない空間に響く。
その声が響くたび、体が浮き上がっていくような感覚がする。
そして──
「……夢か」
ダイチは目を開けた。
『ダイチ! よかった……!』
そこには、ダイチの顔を覗き込む少女の姿があった。
「……ドラグーン?」
『心配したんだぞ! 急に気絶して……』
「……」
ダイチは手を伸ばし、レッドラグーンの頬に触れる。
少し強張った温かな頬が、ほんのり湿っていた。
「……ごめんな」
『ダイチ……』
レッドラグーンの頬に伝ってくる涙を親指で拭う。
『オレ様の方こそすまなかった……やめろと言われても続けてしまって』
レッドラグーンは、ダイチの伸ばした手に手を重ね目を瞑った。
ダイチの、うつらうつらとしていた意識が、少しずつ冴え始める。
頭の裏に感じる、枕のように沈み込む太腿の感触。
ベチャベチャして気持ちの悪い下半身。
ダイチは体を起こし、ベッドから降りる。
『……ダイチ、どこへ行くんだ?』
「ちょっと風呂場に」
『ならオレ様も──』
「──ごめん、大丈夫だから」
付いてこようとしたレッドラグーンをダイチは制止する。
『ダイチ……?』
レッドラグーンの声に、胸が締め付けられる。
それでも、ダイチは黙って部屋を後にし、風呂場へと向かう。
短パンを脱ぎ、汚れてしまった下着を浴室へ持って入る。
「……ごめん」
ジャーっと、シャワーが流れる音が浴室内に響き始める。
「ごめんな……ごめんなさい……!」
──親友のはずだった。
誰よりも、何よりも大切な友達だった筈なのに。
それなのに、俺は。
レッドラグーンを利用して、都合の良いように扱ってしまった。
気持ち悪い。自分が心底気持ち悪い。
シャワーの水圧を上げる。
先程まで響いていた音が、叩き付けるような水音に変わる。
これから、どんな顔をしてアイツと接すればいい?
元の関係に戻れるのか?
胸のムカムカが止まらない。
湯気が立ち上る浴室内。
窓から覗かせる闇の中、シャワーの音は続いた。
◯────
シャワーを浴び終え、リビングへと戻ると、ソファに座るレッドラグーンの背中が見える。
心なしかその肩は落ちており、少し前の元気そうな面影はない。
エアコンの効いたリビング。
レッドラグーンが付けてくれていたのだろう。色々と火照っていたダイチの体を、頭を冷やしてくれる。
カチカチと立てかけた時計の秒針の音が、静かなリビングに響く。
いつもならとっくに寝ている筈の丑三つ時を指していた。
一歩、一歩、秒針の音と共にレッドラグーンの元へと近付く。
胸の奥で鳴る心音に、様々な環境音がまばらに混ざりあい、視界が遠くなるように感じ、幾ら歩いても辿り着かないようにも思えてしまう。
それでも歩みを止めず、レッドラグーンの座るソファの隣に腰掛けた。
レッドラグーンの方をちらりと見る。
顔を俯けており、髪がしなだれ、顔色は見えない。
だが、膝の上に手を置き、ギュッと握り込んでいるのはわかる。
──二人の間に会話は無く、静寂の時間が過ぎていく。
『……』
「……なぁ、ドラグーン」
意を決して口を開き、レッドラグーンへと身体を向ける。
こちらを見ず、黙り込む友を無視し、続ける。
「あのさ……えっと、なんだろ。……元の姿には、戻れるのか?」
『……? どうしてそんな事を気にするのだ?』
「そんな事って……! そりゃあ気になるだろ!!」
思いがけない問いだったのか、黙り込んでいたレッドラグーンの口から気の抜けた返答が返ってくる。
そんなレッドラグーンの答えに、ダイチは思わず声を荒げた。
『何をそんなに心配しているのか知らないが、ほらっ』
レッドラグーンは立ち上がると、全身に炎を纏う。
すると、みるみるうちに体が小さくなっていき、いつもの小さな竜の姿へと戻った。
「よっ、よかった……」
いつもの見慣れた姿を見て、胸のつっかえが一つ外れたような気がした。
『ふふっ。オレ様は精霊の中でも神霊の域に位置する存在だぞ? オレ様に不可能なことは何もないのだ!』
いつものように、自信満々に胸を張るレッドラグーン。
胸を張るその姿に一瞬安堵したが、直後にどす黒い想像がダイチの背筋を這い上がった。
──精霊は、契約者の願いに沿って姿を変える。
もし、この艶めかしい少女の姿が、俺の心の奥底に隠していた薄汚い「願望」の具現化だとしたら?
だが、ダイチとレッドラグーンは契約を結んでいない。
この姿は関係ない。
それでも、契約を介する成長でなかったのだとしても、性欲という願いを満たす為、それを手伝わさせた事には変わりがない。
目の前の無垢な笑顔が、自分の性欲を映し出す鏡に見えて、ダイチは吐き気を覚えた。
「ごめん、レッドラグーン……俺は、俺は、お前に最低なことをした。自分の性欲を、その、発散する為に……ドラグーンを"利用"してしまった……」
『──ダイチ?』
「気持ち悪かったよな……友達なのに、あんな事をさせてしまって。ドラグーンが何も知らないのをいい事に、都合よく流されてしまった……」
ダイチは目を瞑り、レッドラグーンの返事を待つ。
例え許されなくてもいい。許されないことをしてしまったのは自分なのだから。
でも、これで、こんな過ちとはサヨナラだ。
審判の時を静かに待つダイチ。
しかし、判決の時は一向に訪れない。
『ダイチ』
その声はいつもの声色とは違い、出会った最初の頃を思わせる、低く、圧倒的な威圧感を放っていた。
──あの日、死を覚悟した時と同じ。
身体の全細胞が、強者への本能的な恐怖で総毛立つ。
『なぁダイチ』
ダイチを再度呼ぶ声が響き、部屋全体が震えた。
思わず目を開いたダイチの目に入ったのは、怒りに身を震わすレッドラグーンの姿だった。
『オレ様を利用したと……そう、言ったのか?』
「あ、あぁ」
『そうか……』
はぁ、と一息吐き、レッドラグーンはダイチを睨みつけた。
初めてレッドラグーンに会った、あの時の熱い眼が頭を過る。
小さな体から一変、少女の姿へと変えたレッドラグーンはダイチの手首を掴む。
「ドラグーン!?」
ものすごい力によって引っ張られるダイチ。
振り払おうとしてもビクともせず、ズルズルと引き摺られてしまう。
「待てって! 聞いてんのか!」
レッドラグーンは乱暴にベランダの戸を開け、ダイチを抱えて、手すりに跳び乗る。
夏であるにも関わらず、冷たい風が吹き抜ける。
ここは、集合団地の10階。
下を見れば嫌でも目に入ってくる、小さな駐輪場。
このまま手を離されてしまえば、死んでしまう高さだ。
「ドラグーン! おいちょっ──」
そして、レッドラグーンはダイチを抱えたまま、躊躇いもなくベランダから飛び降りた。
「うわぁあああ!!!」
一瞬の浮遊感から、重力という名の暴力がダイチ達を襲う。
叫び声を上げるダイチは必死にレッドラグーンにしがみつく。
小さく見えていたはずの駐輪場がどんどん大きくなっていく。
迫りくる恐怖から逃避する為、空に目を向けると、綺麗な月が雲がかる夜空の中で蒼白く輝き、見下ろしていた。
死ぬのか?
そんな疑問が湧いたと同時、流れる景色が、まるで秒針が止まったかのように、一コマずつゆっくりと動き始めた。
『光栄に思えよ!』
どこから声が聞こえてくる。レッドラグーンの声だ。
しかし、共に落ちていくレッドラグーンは口を閉じている。
『オレ様が、人間と契約を結んでやると言っているのだ!』
『いや、いいよ』
レッドラグーンの声に混じり、自分の声まで聞こえ始めると、景色が変わり始めた。
そして気が付けば────落ちかけた夕日が見える、近所の裏山に立っていた。
目の前には小さな竜と、自分自身が向き合っている。
『何故だ! この偉大なオレ様が、人間であるキサマに従ってやると言っているのだぞ!?』
『そういうの、お前が一番嫌いだって言ってただろ?』
『─ッ!!』
『だから──俺達、今日から友達だ!』
これは、この光景は、いつかの夕暮れの記憶だ。
『……友達だと?』
『どっちが上とか下とか関係のない、対等な関係だ』
『ふざけるな! キサマには、オレ様の命を救ったという借りがあるのだ! その借りを返すまで従ってやると言っているのだぞ! なにが不満なのだ!!』
『それだったら、お前には"湊を助けてもらった恩"がある。一緒だ』
『だったら──』
『──それに俺も……お前に救われたんだ!』
そうだ。そうだったな。
『お父さんが死んじゃって、お母さんも仕事でずっと忙しい中、一緒にいてくれたのはお前だけなんだよ!』
『……』
『……恩を返し終わったらいなくなっちゃうんだろ? もう一人は嫌なんだよ……』
自分自身が俯き、涙が地面を濡らしている。
『ハァ……いいだろう。"一生"だ! "一生"オレ様がキサマの、ダイチの側にいてやる。友達としてな!』
──あぁ。
これは天罰か。
親友をあんなふうに扱った自分への。
そう考えれば、胸のしこりがどんどんとなくなり、楽になってくる。
それなら、仕方ないか。
背中を襲う突風と共に夕焼け反射する木々の景色が流れ、月がまたダイチを見下ろしていた。
死をも覚悟したその瞬間、ダイチの体が巨大なナニカに覆われ、視界が暗くなり、風を感じなくなった。
かわりにジェットコースターに乗っているかのような揺れを感じる。
そのナニカが開かれ、視界も明るくなった。
──そこは空の上。
レッドラグーンの爪を携えた大きな手の中。
生温い風が、全身から噴き出た冷や汗を乾かしていく。
辺りを見渡すと、星が煌めく夜空にレッドラグーンの翼が大きく広げられていた。
レッドラグーンの大きく赤い眼がこちらを向く。
『ダイチ、お前はオレ様のなんだ?』
「……友達だろう?」
『そう、オレ様とダイチは友達だ。……なぁダイチ。じゃあなんで"利用"したなんて言うのだ?』
「それは……そうだろ。あんなことに付き合わせてしまった。本当なら友達同士、あんなことしないから……」
レッドラグーンからの問いが一瞬何のことか理解できなかったが、直ぐ様自分の内にある想いを吐き出す。
その吐き出された考えを耳にしたレッドラグーンは、鋭く大きな牙を生やした口を噛み締める。
そして、震えた声でこう言った。
『その考えの中に、オレ様の気持ちはあるか?』
「──え?」
レッドラグーンの気持ち?
あるに決まってる。
だって、気持ち悪い"はず"だろう?
幻滅してしまう"はず"だろう?
だって、だって、あんな行為、恥ずかしいことで──
『──だから言っておいてやる。これから先、誰の指図も受けない! それこそ、キサマの指図もな! オレ様がやること全てオレ様が決める! 今更後悔しても遅いぞ?』
──あの日の、夕日に照らされる竜の姿が見え、胸の奥が熱くなり、言葉を失った。
なんで忘れていたんだろう。
『オレ様はダイチのお人形か? ダイチが創ったモノか? 違うだろう。オレ様はオレ様で、ほかの誰でもなく、何者にも左右されない、偉大な精霊だ』
ダイチは黙ったまま、レッドラグーンを見つめる。
翼をはためかせ、空気を割り、どんどん空高く飛び上がっていく。
『オレ様はな、ダイチと出会う前は、誰の指図も受けず、孤高に生きるのが偉大なオレ様の偉大な生き方なのだと、そう思っていた』
雲の中へと突っ込み、視界が悪くなる。
小さな雨粒がダイチの体を少しずつ濡らしていく。
『でもな。あの日、何の力も持たないちっぽけな竜として救われて、お前と過ごしていく内に、オレ様は弱くなってしまった』
濡れていく体に目をやると、レッドラグーンの言うあの日が、鮮明に蘇る。
『だから契約してやるって……契約を持ちかけたオレ様に、お前が言ったんだろう!? オレ様たちは対等だって! 友達だって!!』
「ドラグーン……」
『それをなんだ? お前は全部全部利用したってぬかすのか? オレ様を見くびるなよ! オレ様はな、ダイチの為に、ダイチの役に立ちたいだけだ!!』
雲を突き抜け、雲の上、天高く舞い上がったダイチとレッドラグーン。
月がいつも以上に大きく見え、壮大な空に、数多の星が瞬いている。
『オレ様と友達だと、親友だというのなら──オレ様の気持ちを無視するな!!』
レッドラグーンの咆哮が雲を散らす。
ダイチはその咆哮に、胸を貫かれるような痛みを感じた。
ダイチの膝上に、ポタリ、ポタリと温かい水滴が落ちる。
「ぐっ……うぅ……!」
何でもいい。
自分を傷付ける言葉を吐きたい。
あの瞬間の自分を肯定したくない。
それなのに、胸が詰まって声が出ない。
『ダイチが何と言おうが、オレ様は、ああやってダイチと触れ合って、あの本の中のような行為をするのは、別に嫌じゃなかった!』
「……違う、違う……」
『ダイチは嫌だったか? もし嫌だったのなら……オレ様が全部悪い。だから正直に答えてくれ』
レッドラグーンからの視線が降り注ぐ。
その視線は先程までの熱はなく、優しい温もりに包まれるようだった。
「わかんないんだよ……! 初めてあんなことになって、どうしようもなく頭がぐちゃぐちゃになって……だから、自分が全部全部悪いんだって! 思おうと思って……」
『ダイチ……』
「ドラグーン……俺、俺、まだ、お前と友達のままでいられるのか?」
『当たり前だろう。オレ様を真の友だと呼べる相手はダイチ、お前しかいないのだからな?』
そう言ってフンッと鼻を鳴らすレッドラグーン。
もう駄目だ。
限界だ。
「ドラグーン……ごめん、ごめんなさい……!」
『ククッ。そう泣くなダイチ。オレ様はなーんにも気にしちゃいないからな』
何度も何度も、口から溢れ出る言葉。
先程までとは違う、身勝手な言葉ではなく、純粋な言葉。
レッドラグーンの掌で泣き伏すダイチ。
そんなダイチを、レッドラグーンは大きな大きな手で、背を擦る。
星々が眩しい雲の上の世界。
そんな夜空の下、一人の少年と一匹の竜を、優しい光が包み込んでいた。
◯───
微かに鳥のさえずりが、窓の外から聞こえ始める。
寝ぼけ眼を擦り、体を起こす。
腕の中で、湯たんぽのように温かい小さな竜が収まっていた。
『すぅ……すぅ……』
気持ちよさそうに眠るレッドラグーン。
ダイチの手は自然とレッドラグーンの頭へと伸び、ゆっくりと撫でる。
ツルツルとした鱗の感触を感じながら、あの夜の出来事を思い出す。
久しぶりの喧嘩だった。
そして、それをキッカケに、自分がどれだけ酷いことをしてしまったのかを分からされた。
『オレ様は、ああやってダイチと触れ合って、あの本の中のような行為をするのは、別に嫌じゃなかったぞ?』
レッドラグーンに言われた感想が頭に蘇る。
「はぁ……どーすんだよ、まじで」
思わず溜息が溢れ、撫でていた手の動きを止める。
──俺もだ。
嫌なんかじゃなかった。
一夜を通して冷静になり、分かってしまった。
親友をそういった目で見てしまったことが気持ち悪かっただけで、あの行為自体は嫌じゃなかったのだと。
「変態じゃねえか…………くそっ!」
レッドラグーンをゆっくりと枕の上へと置き、立ち上がると、自室から出る。
洗面所で眠気と煩悩、その他全てを洗い流すべく、蛇口から流れる水を掬い、顔に付けた。
日光によって温まった水道管から流れる水は、ぬるま湯のように緩かったが、今のどうしようもない悩みを晴らすには十分だった。
「ふぅ……」
顔を洗い、いくらかスッキリしたダイチはリビングへと戻る。
時計を見ればまだ朝練の時間には程遠い。
冷蔵庫を開け、麦茶の入ったボトルを取り出す。
コップにトクトクと注いでいると、自室から欠伸をしながらふらふら飛んでくるレッドラグーンを目にする。
トクトク。
ドキリと、心臓が跳ねる。
昨日は色々と疲れ、二人でそのまま寝てしまった。
今まで通り、普通に喋れるのか?
視線をレッドラグーンから外そうとしたその時、バッチリ目が合ってしまった。
『おっ。ダイチおはよう』
「お……おはよう」
トクトクトクトク。
昨日のことはなかったかのように、普通にふよふよと近付いてくるレッドラグーン。
目が離せない。
どうする、どうする、どうしよう。
『おいダイチ! 止めろ止めろ!』
「──? ってやば!」
レッドラグーンが小さな腕でダイチの手元を指す。
手元に視線を向けると、麦茶を注いでいたのを忘れ、コップから溢れ、シンク周りがびちゃびちゃになってしまっていた。
ダイチは慌ててボトルを置き、何か拭くものはないかと見渡す。
『しょーがない奴だな。ほら、これを使え』
「あ、ありがとな」
レッドラグーンから近くに掛けていた布巾を渡され、受け取る。
「プッ……ププ、ははは!」
『ククッ……くはは!!』
受け取り、顔を見合わせた瞬間、何故だか無性に笑えてきてしまった。
「ははは、はぁ………。ドラグーン、あのさ」
『ハァ……ふぅ。どーした?』
ひとしきり笑い合った二人。
ダイチは目の前で飛ぶレッドラグーンの両脇に手を差し込み、抱き上げる。
「昨日のさ、あれ、嫌なのかって話、あっただろ」
『おぉ、あったな』
「あれさ、──俺も、嫌じゃなかったよ」
『お、おぉ、おぉ!! そうか、そうか!!』
一瞬赤い眼を丸くしたレッドラグーンだったが、直ぐに嬉しそうに目を細めた。
『次はどうする!? いつする!? どんなことをしようか!?』
「まてまて、待ってくれよ。俺も、その、心の準備があるというかなんというか……」
『即断即決。優柔不断は悪だぞダイチ! 今からしようか? そうだそうしよう!』
「学校! 学校があるからそれは無理だって!」
バタバタと小さな翼と手足を動かし、こちらへ飛び込もうとしてくるレッドラグーンをなんとか抑えながら考える。
本当に、昨日のような事をもう一度するのか。
そう考えてしまったら、あの夜の、あの何とも言えない甘い雰囲気に、あの指先の感覚を思い出してしまい、頬が熱くなる。
『それじゃ、いつするのだ?』
「……明日は休みだし、そうだな……今日学校が終わって、帰ってきてから……とか?」
『よしよしそれで行こう! しっかり迎えに行ってやるぞ! 真っ直ぐ、一緒に帰ろうではないか!』
「そこまでしなくてもいいだろ……」
レッドラグーンを宥めながらチラリと時計を見る。
「わりぃ、朝練の時間だ! 早くいかねぇと!!」
『頑張って来いよダイチ! 待ってるからな!!』
レッドラグーンを離し、支度を始めるダイチ。
本当はまだ時間は大丈夫だが、このまま一緒にいてしまうと、変な気分になりそうだ。
「じゃあ行ってきます!」
『いってらっしゃいダイチ!』
支度を終えたダイチは玄関にて振り返り、レッドラグーンに手を振る。
まだ日が昇りきってないのにも関わらず暑い外。
……今日は長い一日になりそうだ。
ダイチは鞄を肩に掛け直し、走り出した。