オレ様っ娘な相棒(ドラゴン)は、エロ本なんかに負けたくない!〜共に世界を救った二人が、人生のパートナーになるまで〜 作:APP3
謝罪。
5話目を6話目の内容で投稿していました!!
おかしいなと思われた方もいたかもしれません。
七話目投稿しますが、もし気になる方がおられましたら5話目読み直してくれると嬉しいです……
『どうしてしまったのだ……オレ様は』
虫と鳥のざわめきが騒がしい深夜。
レッドラグーンはベランダで一人、夜空を眺めていた。
『どうしてこんなに、胸が苦しいのだ……』
レッドラグーンはジャージの上から、トクトク動く胸を抑える。
──今日、ダイチと体を触り合い、昨日以上に過激なことをした。
胸を触られ、首元にキスを落とされ、ダイチの熱が、自身にマーキングされるかのように残される。
どうしてあんなにも"幸せ"と感じたのだろう。
どうして幸せと感じているのにも関わらず、こんなにも切なくなるのだろう。
『"一生"一緒、か……』
レッドラグーンは振り向き、ベッドで眠るダイチを見る。
枕を抱き、無防備な寝息を立てるダイチ。
その姿を瞳に焼き付けるほど、あの日、精霊界で聞いた冷徹な声が、耳の奥で蘇ってきたのだった。
◯────
『久しぶりだな精霊王! という訳で、人の姿になる術を教えるのだ!』
『貴様……毎度毎度帰ってくる度に荒らすのは辞めろと言っておるだろう?』
豪華絢爛な装飾が施された玉座の間。
その中心の座に腰を掛ける、光を帯びた一体の精霊が、重々しく口をさす。
崩れた壁の外から見える、散りに散った花畑。
ここは精霊界。
玉座にて座り、足を組みながら頭をおさえる精霊王は、周囲の近衛兵たちを瞬時に平伏させるほどの圧を、レッドラグーンに向ける。
『ならばもっと、オレ様のために広く作るべきだな!』
そんな圧お構いなく、レッドラグーンは狭い宮殿を自身の強靱な巨体で押し広げながら精霊王に近づく。
『はぁ…………で? 人の姿になる術だったな。なんの心境の変化だ』
『なに、ダイチのために一肌脱ごうと思ってな』
『なるほどな……それで、我が貴様にすんなりと教えるとでも思っているのか?』
『教えてくれないのか?』
『当たり前だろう!? 貴様が人間界へと向かったことで、どれだけの秩序が乱れたのか、忘れたとは言わさんぞ!!』
精霊王から放たれていた光が収縮していき、姿を現す。
重厚な緑のローブを身に纏う、巨木を思わせる高身長。
その身長の半分が額から生える角であり、その角は鹿の角というよりは、生い茂る若木に近い。
精霊王が勢いよく立ち上がると、重厚な緑のローブがその身を滑り落ち、隠されていたしなやかでいて、暴力的なまでに均整の取れた女性の肢体が露わになる。
レッドラグーンと精霊王の視線が合う。
精霊王の鋭い眼光の中に、銀河や四季の移り変わりが映り込んでいるのが見えた。
レッドラグーンはたまらずバツが悪そうに目を逸らす。
──レッドラグーンが苦手な瞳だ。
万物の流転を映すその瞳に見つめられると、自分がまだ幼い竜であることを突きつけられるような気がしてくる。
目線を逸らした先、精霊王の足元を毒々しくも美しい花々が埋め尽くしていくのが見えた。
『むぅ……まぁまぁまぁ。そんな硬いことを言うな!』
レッドラグーンはげんなりとしながらも、なんとか自分のペースへと持ち込もうと話を流す。
『……だが、一考の余地はある。あの少年は我々の世界を救い、精霊王である我までも救ってみせたのだ。その報酬をまだ払っていないからだ』
『おぉ!』
『……貴様にその報酬を渡すのは業腹だがな』
そう言って精霊王は手を何もない空間に伸ばすと、一冊の古びた本が現れ、掴んだ。
『この本には貴様の望んだ、人の姿になれる術が記されている。名は"人化の秘術"という』
精霊王は本をレッドラグーンに投げて渡す。
瞬時に体を小さな竜へと変化させ、キャッチするレッドラグーン。
そして、尻尾を器用に動かし本を支え、開く。
『精霊とは、自身の魂に人々の願いの力を纏うことで姿を作り出す。そして、本来精霊は、心通った契約者がいればその契約者の望む人の姿へと変化する。この原理はその契約者の願いの力によって起こる変化だ』
精霊王は地面に落ちていた壁の破片を拾う。
掌で転がしていくとみるみるうちに土が纏い始め、形を変え、ウサギのような姿に変わる。
『しかし、人化の秘術は違う。この秘術は、願いの力を精霊自身が操作し、自身の魂を人の姿に変化させる術だ』
掌の土でできた兎が割れ、中の石が飛び出すと、その石が粘土のように自由自在に形が変化し、こびとのような姿になった。
『並の精霊は、願いの力を自在に操ることはできないためこの術は使用できないが、我々神霊は例外だ。我々は精密な願いの力の操作が可能だからな』
本を読み込むレッドラグーンを横目に、精霊王はこびとのような姿へと変わった破片を"握り潰し"、玉座へと座り直した。
『なるほど……だいたい理解したぞ。オレ様なら余裕だな!』
レッドラグーンは本を手放し、翼を広げ、飛び立とうとした時、
『一つ忠告しておこう』
精霊王の重々しい声が響いた。
『むっ。なんだ?』
『貴様がその術で何をしようかなんぞどうでもいい。だが、あまり深入りはするなよ。これは精霊王からの忠告ではなく、精霊界に住む一精霊としての忠告だ』
レッドラグーンは翼を折りたたみ、首を傾げる。
『どうせすぐ別れが来る。情を持ちすぎれば辛くなるのは貴様だからな』
『何を言っているのだ? オレ様たちは約束しているのだ! 一生友達だとな!』
『そう、"一生"だ』
精霊王は手を伸ばすと、植物の根が生え、地面に落ちた本に巻き付けるとしゅるしゅると引戻し、手に収めた。
『我々精霊は肉体の死こそあれど、願いの力がある限りいくらでも作り直せる。しかし、人間はそうはいかない。肉体が死ねば、輪廻の巡りに戻るため魂は漂泊され、記憶を洗い落とされる』
本を開き、ペラペラと無造作にめくる音が静まり返った宮殿内に響く。
『人間の一生とは、我々の時間の瞬き程度しかないことを肝に銘じておけ。孤高の竜よ──』
──ふざけるな。
レッドラグーンは拳を握り締めた。
視界の先に映る、能天気に眠るダイチの姿。
いつか、別れがくるだと?
くだらない。
絶対に離してやるものか。
輪廻の巡り? 世界の理?
上等だ。
その悉くを灰燼に帰してやる。
室内へと入り、ダイチの枕元まで近付く。
そして──ダイチの額に唇を落とした。
◯───
「ふっ、ふっ」
夜の名残をかすかに背負いながら、空がゆっくりと色を変えはじめる中、手入れの行き届いた黒髪を揺らす少女が一人、公園のランニングコースを走っていた。
同じ時間、同じ距離を毎日黙々と走る。
昨夜の熱気を反射するコンクリートによって汗が頬を流れ、首に掛けたタオルで拭うと、嗅ぎ慣れたシトラスの香りに少女は涼しさを感じる。
公園の時計が目に入ると、少女は少しずつ走るスピードを落とし、目の前に辿り着く頃には息は整っていた。
入念なストレッチをした後、少女は帰路に着く。
閑静な住宅街。
赤い屋根の一軒家の前、"真琴"と表札の立つ門を開け、そのまま家へと入った。
両親の寝室の前を音を立てずに通り、自室の扉を開ける。
ピンクを基調とした、ぬいぐるみに人形が溢れる可愛い部屋。
少女はベッドの隣に置かれた、立派な化粧台の前に座る。
鏡に映る自分の姿。
中学生になった頃のボサボサ髪から比べ、磨き上げられた、艶のある髪質。
隈にできもの、何一つ許さない、シルクのように滑らかな肌。
「──鏡よ鏡。この世で一番美しいのはだあれ?」
少女は鏡に映る自分自身に手を伸ばし、手と手を合わせ、呟く。
『それはもちろん、真琴雅、貴方様に他なりません』
少女の、真琴雅の問いに答える声が、鏡の中から、鏡に触れる手に伝って聞こえてくる。
鏡が虹色に光始めると、鏡の中の雅の背後に、一匹の孔雀が降り立った。
「……鏡よ鏡……えっと……大地君に相応しい女の子はだあれ?」
鏡に映る雅の頬は紅潮し、どもりながらも、鏡に問う。
『それはもちろん──』
孔雀は嘴を開くと、
『──って、こんなくだらんことしとらんで、さっさと告白したらどうや? お嬢』
不躾でどこか冷めた声が、静かな部屋に響いた。
「むっ……むりだよぉ」
『無理やあらへんねん。毎回毎回しょうもないことに付き合わせよって! そない気になるならはよう告白せぇ言うとるやろ』
「ローズぅ……」
先程とは打って変わって情けない声を漏らす雅に苦言を呈す、ローズと呼ばれた桃色の羽毛を生やした孔雀、ローズピーコック。
『あのなぁ? そこの本棚にあるような夢物語はないんやで』
ローズピーコックの言う本棚に目を向けると、白雪姫にシンデレラ。ラプンツェルに美女と野獣。おとぎ話の本がズラリと並んでいる。
「わかってるけど……」
『はよう告白せんと、別の娘に掻っ攫われてしまうで? そのダイチ君とやら』
「で、でも! 大地君、好きな人はいないって言ってたし……」
『甘いなぁ、お嬢。年頃の男子なんて毎日コロコロ好きな人が更新されるもんや』
「それは……言い過ぎじゃないかな?」
『とにかく! そこらの物語みたいに待ってるだけじゃ手に入らんもんもあるっちゅうことや。ほら、そこに置いてる本みたいに、自分からズカズカいかなあかん』
化粧台の上に置かれた絵本が一冊。
雅は手に取り捲る、その本には人魚のお姫様の絵が描かれていた。
「うーん……だって泡になって消えちゃって、結局は一緒にいられなかった話だよ? 全然ハッピーエンドじゃないもん」
『そこまで真似せんでええ。スタンスとして真似ろって話や』
「……んん」
俯き、黙り込んでしまった雅を見て溜息を吐くローズピーコック。
『まぁ、こっちも色々お膳立ては進めとんねん。気兼ね無く行こうや。なぁお嬢?』
「そうだね……頼りにしてるから、任せたよ? ローズピーコック」
『おぉう! 大船に乗ったつもりでおりぃ!』
軽快に笑うローズピーコックの姿をみて、雅は薄く微笑んだ。