※この作品はR-18です。

オレ様っ娘な相棒(ドラゴン)は、エロ本なんかに負けたくない!〜共に世界を救った二人が、人生のパートナーになるまで〜   作:APP3

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第九話 軽い傷に、絆創膏はいらない

「ふぅ……」 

 

『どーしたのだダイチ?』

 

 

 お味噌と焼けた肉の匂いが混ざり合い、香るリビング。  

 ソファに座り、電話を睨みつけていたダイチに、台所に立つレッドラグーンが声をかけてくる。

 

 

「……母さん、今電話しても大丈夫かなって」

 

『ダイチの母君か。何かあったのか?』

 

「いや、今週の大会、観に来れるか聞いてこいって監督に言われてさ」

 

 

 今日の昼休み、職員室へと呼び出された際に、監督から伝えられた話だ。

 中学生最後の大会の為、気を利かせてくれたのだろう。

 

 

「にしても……なぁ……」 

 

『何を躊躇っているのだ?』

 

「いつもは母さんから電話かけてくるし……俺なんかの電話で邪魔したくないし……」

 

『こらダイチ! "俺なんか"なんて言うんじゃない!』

 

「うぷっ……らいすんらよ」

 

 

 気付くとレッドラグーンは台所から出て、ダイチの目の前に立っており、両手でダイチの頬を挟み込んだ。

 

 

『心配しなくて大丈夫。迷惑がったりなんてしない! それに、ダイチは母君が自分が電話して迷惑がると、邪魔だと思うのか?』

 

「………………気にしすぎかな」

 

『そうだとも! ほらっ、早く電話するんだぞ? オレ様は夕飯の準備してるから』

 

「ありがと、ドラグーン」

 

 

 ダイチの背中を押して、夕飯の準備に取り掛かるレッドラグーン。

 

 震える指先を動かし、電話を操作する。

 そして、コール音が鳴り響き始めた。

 

 小気味よい音が、一定のリズムで流れ、何度も何度も繰り返される。

 

 繰り返される度、電話を切ろうかと考えが過るも、六度ほどなった後、コール音が途絶え、

 

『もしもし。どうしたの大地』

 

 母の声が聞こえた。

 聞き慣れた、どこか冷めた声。

 その声を聞くと、反射的に喉が詰まってしまう。

 

 

「も、もしもし母さん。俺、ダイチ」

 

『うん、わかってるわよ。何か問題でもあった?』

 

「えっと、いや、別に。なんにもないけど」

 

『そう。ご飯は食べた? 不自由してない? お母さん忙しいからあまり長くは喋れないからね』

 

「ごっ、ごめん。別に不自由はしてないし、ご飯も食べたよ! それに、ドラグーンがいるから心配しなくて大丈夫だし……」

 

『ほんとにいつも助かってるわ。ドラグーン君に伝えておいて。いつも大地の面倒見てくれてありがとうって』

 

「うん……伝えとくよ………………その、あのさ」

 

 

 本当に言うのか?

 迷惑にならないか?

 

 でも、ドラグーンが大丈夫だって言ってくれてるんだ。

 だから、だから。

 

 

「今週の土曜日から、サッカーの大会があるんだ。あの、別に今週土曜日じゃなくても、いいんだけど……どこか、見に来れそうな週ってあるかな」

 

 

 詰まりながら、どもりながらも、なんとか言葉にしたダイチ。

 ちょっと待ってねとガサガサ電話越しに物音が聞こえ、少しの無言の間が生まれる。

 

 

『今週は厳しいけど、来週ならなんとか時間が取れそうよ』

 

 

 その言葉が耳に入った時、ダイチの胸にかかっていた靄が一気に晴れた。

 

 

「……ほっ、ほんと? だったら絶対今週の試合、勝つから! だから観に来てね!」

 

『分かったわ。じゃあそろそろ切るわね』

 

「うん! 俺頑張るから、母さんも仕事頑張って!」

 

 

 そして切れた電話。

 ツーツーと、無機質な音が流れるリビング。

 

 

『どうだった──って、よかったなダイチ』

 

 お盆の上に夕飯を乗せて運んできたレッドラグーンは、ダイチの顔を見ると優しく微笑む。

 

 

「母さん、来週来てくれるって! 母さん観に来てくれるって!」

 

『そうかそうか。なら今週の大会に向けて、しっかり食べてしっかり寝ないとな!』

 

「おう! ってか、今日のご飯、美味そうだな! ドラグーンが作ったのか?」

 

『肉は焼いただけだし、味噌汁は市販のものだし、サラダも千切っただけだぞ? オレ様はなぁーんにもしてないぞ』

 

 

 並べられていく料理に目を輝かせ笑うダイチを見て、レッドラグーンも釣られて笑顔になる。

 

 そして、二人の手を合わせる音が重なった。

 

 

◯───

 

 

 

 

『待ってろ……ドラグーン……絶対助けて、やるから……!』

 

 

 誰よりも、何よりも愛おしい少年が、全身に傷を負い、地面に這いながら手を伸ばしてくる。

 

 そんな残酷な光景を、このどうしようもない傲慢で役立たずな竜は、ただ見ているだけだった。

 

 今、思い出しただけでも吐き気がする。

 

 "博士の裏切り"によって碌な抵抗もできず、力を奪い取られ、抜け殻と化した自分。

 

 どれだけ力を持っていても、どれだけ恐れられていようとも、上手く行使できなければ意味がない。

 

 それに気づいた頃には、何もかもが遅かったのだ。

 

 少年は、何の力も持っていない。

 少年は、一人では何もできない。

 

 そんな無力な少年が、友を、見知らぬ人を、住む世界すら違う者達までも救ったのだ。

 

 それらを救う為、どれだけ自分を犠牲にしたのか。

 

 小学生最後の大会を捨てる瞬間を見た。

 母との和解の場も捨てる瞬間を見た。

 

 ──自分の命を削り、無力な竜を救う光景を、見た。

 

 全部全部、見てきたのだ。

 

 

 

 

「かぁさん………」

 

『ダイチ…………なぁ、ダイチ』

 

 

 薄暗いダイチの自室。

 レッドラグーンは、気持ちよさそうに眠るダイチの上に跨っていた。

 

 炎のように赤く揺れる眼は、ダイチの首元にある、昨日風呂場で付けた噛み跡を見つめる。 

 

 薄くなり、ほとんど見えなくなった跡。

 

 

『──あむ……』

 

 

 鋭さを失った歯が、その跡の上に重なった。 

 目を覚まさないように、ゆっくりと、じんわりと力を込めていく。

 

 

「ん……」

 

 

 痛みによってか、微かにうめくダイチの声が耳に入る。

 

 ──あぁ、今すぐにでもこの柔らかな首筋に牙を突き立てて、"一生"消えない傷を刻み付けてやりたい。

 

 この少年が誰のモノなのか、無関心な母親に見せつけてやりたい。

 

 

『んぁ…………ふふっ。綺麗についたな』

 

 

 くっきりと見える、真っ赤な歯型。

 ダイチと自分の、"友達"の証。

 

 

『……んっ……ちゅっ……れろ』

 

 

 もう一度首元に顔を埋め、唇を落とし、跡を舐める。

 

 この跡に触れる度、何故だか下腹部が暖かくなり、変なもどかしさを覚えてしまう。 

 でも、嫌じゃない。

 ダイチの近くでずっと感じていたい、変な感覚だ。

 

 長く伸びた舌は首筋をなぞり、パジャマの襟元に辿り着く。

 レッドラグーンの細指はパジャマのボタンを素早く外し、胸元まで開ける。

 

 そして、胸上部に唇を押し当て、強く吸った。

 

 

「んんっ……」

 

 

 先程と同じように、痛そうに声を上げるダイチだったが、レッドラグーンの耳に入っていないのか、気にせず吸い続ける。

  

 

『これ、ヤバ……』

 

 

 少しして唇を離したレッドラグーンは、ダイチの胸元についた赤い花弁を見て思わず声を上げてしまう。

 

 揺れる視界。  

 レッドラグーンの息は荒くなっていく。

 

 レッドラグーンはしなだれるようにダイチに体を預け、もう一度唇を当てようとした時、

 

 

「ドラグーン……?」

 

 

 ダイチの寝ぼけ眼と目があった。

 

 

『ッ!? すっ、すまないダイチ! 起こしてしまったよな! こ、コレは、その、あれだあれ! マーキングというやつで、って、オレ様は何を言って──』

 

 

 なんとか言い訳を述べようと、あたふたし始めたレッドラグーンだったが、急に視界が暗くなった。

 

 

『だっ、ダイチ!?』

 

「大丈夫……俺が守るから……な……」

 

 

 背中に両腕を回し、抱き締められると、ポン、ポンと背中を優しく叩かれる。

 

 

『……ダイチ』 

 

「大丈夫……大丈夫だからな……」

 

 

 陽だまりのような、優しい温もりが、レッドラグーンを包み込む。

 そうして背中を優しく叩かれていく内に、意識は薄れていったのだった。

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