欲している。心のすべてがネルを欲していた。
アルベルは、熱い左腕を無雑作に開け閉じして違和感を逃がした。滑稽なことだ、とアルベルは自嘲する。
この世界が創造主によって造られたもので、管理された存在だと信じるには、FD人は怠惰すぎたし、この世界は半端だった。自分が作り物で、自分が消去される存在だと受け入れられるほど愚鈍でもないが、莫迦莫迦しいと笑ってしまうには、あまりにも敵は強大すぎた。
エクスキューショナーの存在は、今まで剣を交えた中でも特異な存在だった。身体だけでなく、精神がやられてしまう。お前は作り物だ、滅するべき存在だ、と心に訴えかけてくる。くだらないと唾棄すべきだが、その攻撃が強烈に効いてくるのだった。こんなことは今までにないことだった。心が強くなければ、簡単にやられてしまうだろう。そういう意味で、今までの戦い方は全く通じないと考えてよかった。
アルベルはふと目を開ける。
今、外交艦ディプロの昏い部屋の中で、女とふたり横たわっている。女は静かに呼吸していた。まだ眠ってはいないだろう。
アルベルは反芻した。女の戦う姿を。
いつも全力でぶつかり、躍動する女の身体を。
不利な戦でも決して食らいつくことをあきらめない強い眼差しを。
そして他者を見捨てない、優しい心を。
この奇怪で不自然な世界の中で、この女の存在だけがアルベルに生を実感させた。
ひどい火傷で引き攣れた左腕の表面にも、女の皮膚の熱を幽かに感じる。
たった五センチの距離。
アルベルは天井を見上げた。無機質な物質。壁も、椅子も、何もかもが硬い。柔らかいものなど、女の他に存在しないように思われた。
カルサアでキスしたあの感触を思い出す。女は溶けていくかのように柔らかかった。
もう一度触れてみたい。アルベルは内心自嘲する。逃げようとしても逃げられない、女の魔力に絡め取られたようだ。この部屋にロックをかけた時から、我慢などできるわけがなかった。
アルベルは、傍らの女を盗み見る。眼はしっかりと閉じられて、赤毛の短く切りそろえられた髪が、今は頭のそばにそっと落ちている。女の呼吸がさっきより深くなって、胸が緩い波のように上下している。
アルベルはゆっくりと左腕に力を入れ、上体を起こした。女の無防備な顔が近くなる。女にふたたびキスをした。くちびるに触れるだけのキスだった。こんなキスなど、この女以外にしたことがなかった。そもそもキスなどしようと思ったことすらない。今まではずっと、性欲の発散ができればそれでよかったのだ。それが何故この女に対しては、こうなってしまうのか。こうしなければ、壊れてしまいそうに思えた。
女の目が開いた。アルベルは構わず、キスを続ける。すると不思議なことが起こった。女の手が、アルベルの頬を撫でたのだ。アルベルの胸に、言いようのない感情がこみ上げる。熱くなった。アルベルは唇を開き、激しく口づけをした。女も応えるように、唇を開いた。中に舌を入れる。熱い舌と舌が絡み合った。アルベルは右手で女の肘を包み込んだ。泳ぐようにキスをした。
これは何だ。
女の小さい歯を、アルベルの舌が舐め取った。どんどん深くなる。女の腕がアルベルの首に巻きついた。強く強く、互いの舌を啜った。女が熱い吐息を吐く。追いかけるように唇を愛撫した。
何度も口づけながら、アルベルの右手がネルの横乳を触った。なんという弾力だとアルベルは驚いた。皮膚の表面がはじき返されるようだ。ネルはその手を拒まなかった。
「……いいのか?」
「……今更だね」
アルベルは勢いづいたかのように女の首筋にキスをした。耳たぶを唇でつまみ、首筋を舌で舐め上げる。女の吐息が艶っぽく耳元をくすぐる。
右手は女の服を脱がせにかかっていた。コルセットのベルトを外し、胸の仮面を取る。乱暴に床に落とすと、カランコロンと音がした。
女の脚の曲線をなぞる。アルベルは一旦起き上がり、女の靴を脱がせた。赤い施紋と細く健康的な脚があらわになる。その裸の膝頭に一度キスすると、アルベルはネルの服を剥がした。その様子を、ネルは後悔とも羞恥ともつかぬ表情で見ていた。
覆いかぶさろうとするアルベルを、ネルは膝を折って制止する。
「あんたも脱ぐんだよ」
そう言うと、腰布の紐をするりと引っ張った。アルベルの下半身が簡単にはだけて、盛り上がった下着だけになる。
「満足か」
女は何も言わず、アルベルの下着を見つめている。
アルベルは女の胸の布を引き上げた。形の良い片乳が露になる。アルベルは右手で掬うように握った。
「んっ……」
女が少し身をよじる。なんという弾力だとまた思う。女の血潮にはじき返されるようだ。やわらかくて、皮膚がさらさらしていた。そっと口に含んでみる。あまりになめらかで、不思議と甘い感じがした。
アルベルは胸や鎖骨に口づけながら、ふたたび唇に舌を入れた。片手で乳首を弄りながら、下半身を女の股に擦り付ける。二人ともまだ下着を履いているのに、とても熱く、ねばっこかった。
女の手がアルベルの背筋を上がり、上の服を脱がした。
「なんだ、もう濡れてるのか」
アルベルは下着の下半身でクイクイとネルを突き上げる。しかしネルは、
「そんなわけっ……ないだろう」
と謎の抵抗をしてみせる。
「ほう……」
アルベルはネルの股のあいだから下着を指でめくって触ってみた。熱く、ジュクジュクしていたが、確かにまだ足りない。アルベルはそのまま下着をつかんで脱がせると、脚のあいだに頭を入れた。ぺちゃりぺちゃりと舌を入れていく。
「あぁっ……」
女が少し仰け反った。女の脚を押さえながら、肉壁を蹂躙するように舐めとっていく。特に陰核を激しく吸い上げると、女は激烈に反応した。
「ここが気持ちいいのか?」
アルベルの激しい舌使いが女の下半身を掻き乱していく。
「んぁっ……ぁあっ」
女の赤毛が左右にかき乱れた。女の両手が枕をつかむ。
アルベルの唇は何度も何度も陰核を攻め立てた。
アルベルの手が内ももを撫で上げながら、舌が激しくネルの中を動き回る。
アルベルの唾液とネルの体液が混ざり合ってちゅぷちゅぷといやらしい音を立てた。
女の陰唇が膨らんでいた。
ヒクヒクと呼吸するように、敏感に反応していた。
アルベルは体を起こし、今度は女の中に指を入れる。
「ああっ」
そこは思ったよりも狭いが、べちゃべちゃだった。かき混ぜるように指を動かすと、ネルはぎゅっと目を閉じて声を殺した。
「おい、お前、初めて、なのか……?」
アルベルは指をゆるやかに動かしながら、ネルの耳元を愛撫した。それから左の手のひらを、ネルの頬に添えた。すると、ネルはその左手を頬と手で包み込んだ。ほとんど感覚もない左手だが、部分的に確かな温もりが伝わってきた。
「ネル……」
かすれた声でつぶやいた。
するとネルが目を開けて、深いキスをしてきた。舌が混ざり合い、甘くて、蕩けそうだった。
アルベルの指が、ネルの浅い所を敏感に刺激した。ネルは口の中で喘いだ。アルベルはその吐息を吸って深くキスをした。
アルベルは片手で下着を脱いだ。下着をつけているのがもうきつくなっていた。下半身はすっかり充血し、そり返るように屹立していた。
「あんた……」
ネルが驚いたように目を見張った。
「どうした」
「……大きすぎないかい?」
「……怖いのか? コレを入れるのが」
ネルがわずかに息を呑んだので、その口を唇で愛撫した。陰茎がつるんとネルの下腹部を撫でた。やわらかい肌に、固いものが滑っていく。
ネルの体液でぐちょぐちょになった手で、そのままネルの乳房を触り、胸の布を外した。胸の施紋もあらわになる。こんなところにも施紋があったのか、とアルベルは新たな発見をする。陰茎はネルの陰唇に固定され、浅い所を刺激した。
「ふ……っ……」
それだけでも何かを感じるのか、ネルが吐息を漏らした。
アルベルはネルの両乳を触り、乳首を優しく愛撫した。人差し指と中指でしぼるように絡め取り、中指の先で軽くはじく。
アルベルは、こんなに繊細な手つきで女に触れるのは初めてのことだった。以前はこの女をめちゃくちゃに乱してやりたいと思っていたのに、いざその時が来たら大切そうに触れてしまう。自分も平明な男だ、とアルベルは嗤ってやりたい気分だった。
ネルは汗をかいて、頬に髪が張り付いていた。その髪を取ってやり、髪を撫でつける。その不器用な手つきは撫でているというより当てているようだ。
ネルは眩げにアルベルを見上げ、唇を濡らしていた。
アルベルは指で中を拡げると、「入れるぞ」と女の太ももを持ち上げた。もうそろそろ限界が近い。
ゆっくりと、先端をネルの中に入れた。上を擦りあげるように入れると、それだけでネルは仰け反った。
「あぁっ……──」
ねちゃねちゃといやらしい音を立てながら、アルベルの陰茎がゆっくりとネルの中を侵入していく。アルベルはそのきつさに思わず「はぁっ……」と声がこぼれた。奥に行けば行くほど、とてつもない密度で陰茎が絞り上げられていく。女の喉が声なき声を上げて激しくそり返った。もうこれ以上はきついという所からまたさらにみちみちと進んでいく。まるで奥に行けば行くほど塞がっているかのように穿ち、陰茎がドクンドクンと大きく脈打った。
アルベルの汗が、女の乳房を流れていく。
「泣くな」
アルベルは、ネルの目尻をぬぐった。ネルの目から二筋、涙が流れて髪の中に入っていった。
「やめるか?」
アルベルが侵入を止めて言うと、ネルはゆるゆると首を横に振った。それから、アルベルをくわえ込むかのように、やわらかな太ももでアルベルの腰を締め付けた。
「続けな……」
かすれるような声で、それだけ言った。
アルベルはゆっくりと、陰茎を入れた。ネルの陰唇がぷっくりと腫れたようにアルベルの根元まで飲み込んでいった。
ネルの中がヒクヒクと収縮してどうにかなってしまいそうだ。
アルベルはネルの横に手をつき、自分の汗で塩辛い上唇を舐めた。
ネルは目を閉じて、はっはっと短く呼吸していた。しばらくそのまま、互いの感触を確かめ合う。
それからアルベルは陰部を擦り合わせるように奥を探り当てた。
「はぁっ……」
それだけで、ネルの口から艶めかしい声が漏れ出た。
「動くぞ」
ゆっくりと、舐め回すように腰を動かした。
「あぁっ……ぁっ」
ネルがアルベルにしがみつくかのように腕をつかむ。アルベルは最奥まで突き上げながら、ネルの唇にキスを落としていった。アルベルの動きに合わせて、キスのすき間から吐息が漏れる。
内壁の上の方を擦り合わせると、ネルは一層上ずった声を漏らした。
「ここが、好きみてぇだな……」
「うる……さっ……ぁ」
アルベルの腰が激しさを増すと、もう満足に声も出ないくらいネルは仰け反った。その度にネルの中が収縮して、アルベルの下半身から脳髄までビクビクと快感が這いのぼってきた。
ベッドのスプリングがいよいよ激しさを増した。
「あぁ、ああっ……!」
アルベルは激しくネルを責め立てながら、揺らし続けていた。くぷくぷと陰部からいやらしい音が鳴る。
アルベルは快楽に溺れながら、ネルの首筋に歯を立てた。ネルが突き上げられるたび、歯型が食い込む。何度目かで離し、見下ろすとネルの首に歯の痕が赤くなって残っていた。その印に、アルベルは満足してますます腰を突き上げた。
「ああぁっ! あぁっ!」
アルベルの動きが力強くなり、ネルの乳房が上下に激しく揺れる。アルベルはその肉体に沿わすように自分の身を倒した。腰は動き続けたままだ。
なんという肌だ、とアルベルは感嘆した。はじき返すような肌が、アルベルに生きていると実感させる。
アルベルはネルを抱き、どんどん奥まで貫いていった。腕の中で、ネルがビクビクと悶えている。ぎゅうっと、ネルの太ももがアルベルの腰を強く抱き、腕はアルベルの背中を掻き抱いた。ネルはイッたようだ。
「ふっ……ぅっ……」
ネルは悲痛な声を漏らしながら、アルベルの背中を撫でた。ぞわぞわと快感の波が押し寄せる。もうクラクラしてしまいそうだった。アルベルは目が眩むのを感じた。もう限界だった。
アルベルはネルの中で射精した。
もう何も考えられなかった。
肉体の全てが、今にも蕩けてなくなってしまいそうだ。
異物だらけの宇宙の中で、ただひとりネルの身体だけがしっくり来た。
アルベルはどさりとネルの身体に覆いかぶさった。あたたかい血潮が、アルベルの頬を温めていく。ネルの心臓がドクドクと脈打っていた。生きている。俺たちは生きている。
はぁはぁと激しい吐息がおさまった頃、アルベルは左腕にネルを抱いていた。女にこんなことをしたのは初めてだった。
この女に一目惚れしたなど、以前は絶対に認めたくないことだった。しかし、もはや自分でも無視できないほどこの女を愛しているようだった。
首筋の噛み痕を見る。赤い歯型が、ネルの首筋にしっかりとついていた。そこに鼻を寄せると、アルベルは息を漏らした。
「お前、何故俺とやった」
「今更それを訊くのかい?」
ネルはまだ赤らんだ顔をして、やわらかく笑った。アルベルはドキリとした。この女は、こんなふうに笑うのかと、信じられない思いで見つめた。
「……よかったのか?」
「それも今更だね」
ネルはアルベルの髪をいじくりながら、目を閉じて笑った。アルベルは左腕に力を入れてネルを抱き寄せ、前髪にキスをした。そういう気分だった。
「あんたはこんなふうに女を抱くんだね。意外だった」
「……お前だけだ、阿呆」
セックスでこんなにも高揚したのは、初めてだった。まだこめかみのあたりが脈打っている。身体に快楽の名残がまだのこっていた。
今はただ、それに身を任せていたい気分だった。
アルベルは穏やかに目を閉じながら、故郷に着いたら、アーリグリフに向かおうと考えていた。