ある日、フィーリウスは1人隊舎を歩いていた。ガイウスとバネッサは整備士と話し込んでおり、時間がかかりそうだと判断したフィーリウスは一人で自室に戻ろうと踵を返した。
その姿を2人も見ていたが、主の意向を無下にもできないので、一抹の心配はあったが後ろ姿を見送ったのだった。
フィーリウスが通路を歩いていると、会議室から見慣れぬ人物が出てきたのが見えた。
初老の男性で、エリックと同じように髪を伸ばし、傍らで結んでいる。
(右腕がない…防衛大隊か?)
時々、防衛大隊の役員などが隊舎に来ることはあるが、隻腕の者は初めて見た。
元モビルスーツ乗りだろうかと逡巡するフィーリウスの存在に彼の者が気づき、こちらに体を向ける。
「おや、親衛隊にお嬢さんがいるとは…入ったばかりか?」
優しく微笑むその表情は歴戦の戦士の余裕を思わせた。
「私は男です。着任して二月になります」
これまで何度口にしたかわからない言葉を今日もまた重ねる。
男性は豆鉄砲を食らったような顔をしてから、
「そうか」
と一笑した。
(え…)
そんな反応をされたのは初めてだった。
ある者は、本当に男か?と疑い、またある者は好奇の視線でフィーリウスを舐めまわしてきた。
こんな人もいるのか、とフィーリウスの警戒は少し解けた。
「私は防衛大隊中隊長のランス・ガーフィールド中佐だ。君は?」
「パイロットのフィーリウス・ストリーム少尉です。中佐、ご無礼をお許しください」
まさか噂に聞く防衛大隊のエースとは。フィーリウスは慌てて敬礼をする。
「君がフィーリウス少尉か」
ランスは直っていい、と左手を上げると既知のように頷く。
「マンスフィールド中佐の下について正解だったな」
「と言いますと…」
話が見えず、フィーリウスは困惑する。
ランスは事の顛末を話した。
「君の受け入れ先の候補に私とマンスフィールド中佐が挙がっていたんだが、片腕の私では役に立てないだろうと辞退したんだ」
初耳だった。エリック中佐もご存知だったろうか、と考え込んだフィーリウスにランスは微笑むと踵を返し、
「ではまた、少尉」
フィーリウスは彼の背中を見送った。
それからと言うもの、隊舎でランスを見かける機会が多くなった。
会えば雑談をすることもあり、ランスの表裏の無い態度を前にフィーリウスのよそよそしさはすぐになりを潜めた。
それでも深くは話さない。同じジオン軍とはいえ、互いに敵対視する者もいる程、どうにもならない軋轢がある。
フィーリウスは自覚こそないものの、自分を特別扱いしないランスに好意を抱き始めていた。
「そう言えば、首の痕が消えてきたな」
「!」
不意に、忘れかけていたことに触れられてビクリと過剰反応してしまう。
顔を赤くするフィーリウスに、ランスは事を察して顔を逸らした。
「傷だと思っていたから消えて良かったと…すまない」
まぁ、防衛大隊でも噂になるほどの美貌を持つ者だからそういう経験もあるのだろう、とぼんやり自己解決する。
そんなランスの考えを否定するように、フィーリウスは焦って口を開けた。
「これは厄除けのようなもので…」
しかしその言葉を遮るように聞きなれた声が割り込んだ。
「フィー」
エリックだった。
彼もまた眉目秀麗の好青年であり、圧巻と言える存在感を放っている。
「ガーフィールド中佐と知り合いだったのか」
フィーリウスの隣に立ったエリックはランスを見据え、敬礼をする。
ランスもまた敬礼で応えた。
「少尉にはよく話に付き合ってもらっているよ。マンスフィールド中佐、彼をよろしく頼む」
「は」
「では、失礼する」
背を向けるランスにフィーリウスも敬礼した。
ランスが数歩歩くとエリックの声が耳に入る。
「フィー。私の部屋に来てくれないか」
「…は」
振り返れば、フィーリウスに微笑むエリックと目が合った。
エリックはランスに会釈をし、フィーリウスを従えて見えなくなる。
「…まさかな」
ランスは首の痕を思い出し呟くと再び帰路に着いた。
エリックの部屋に入ったフィーリウスは、扉を閉めると同時に抱き抱えられ、え、とエリックを見つめた。
「印が薄くなっている」
彼はそれだけ言い、寝室のベッドに向かう。
フィーリウスの心臓が跳ね、
「中佐!もう大丈夫ですから離してください…!」
体を動かして抵抗した。
だがエリックは構わずベッドにフィーリウスを離すと、彼の軍服に手をかけた。
「目を離した隙に私以外の男を誑かす悪い子になってしまったね」
見たことの無いエリックの顔。
疑念、落胆、失望、そして支配者の余裕。
端正な顔でフィーリウスを見下ろすと、丁寧に服をはだけさせていく。
「そんなこと、した覚えがありません…!中佐、おやめください!」
細い指がエリックの手に触れ、彼の行為を止めようとするが、エリックはフィーリウスの手を取りキスをした。
「…っ!」
さすがのフィーリウスも貞操の危機を感じ、身を仰け反らし抵抗する。
「良くしてあげるから暴れないで」
かぁっと体が熱くなる。
「お、お許しください…」
「無理な相談だ」
涙目で乞うフィーリウスが堪らなく扇情的で、彼の服を全て剥ぎ、肢体を露わにした。
透き通るような滑らかな肌と少女のような曲線を描く細い腰に、彼が男と象徴するもの全てが美しい。まるで美術品のようだ、とエリックは心酔した。
「綺麗だ」
フィーリウスの頬にキスをし、伝う涙を掬い取る。
その目の奥に、戸惑いや恐怖、そして少しの期待が隠れていることをエリックは見逃さない。
これまでの接触でフィーリウスが快楽に弱いことはわかっていた。
快楽を植え付けて、身も心も支配して手に入れたい。
だからこそ他人と関わらせたくない。
それなのに、よりによって防衛大隊のガーフィールド中佐と親しくなっていた。
どす黒い嫉妬と支配欲が脳を満たし、エリックは理性を手放した。